第52話

 3学期はあっという間に過ぎていき気づけば高校3年になっていた。


 3年生からは進路別にクラス分けが行われたので、和泉と僕とではクラスが変わってしまった。

 僕は大学進学コース。和泉は専門学校進学コース。


 落ち込んではいたけれど、将来のことを考えて進学を選んでくれた和泉に安心していた。


 事件から半年以上が過ぎやっと気持ちに整理がついてきたのだと思う。

 僕も最近は悪夢を見なくなってきたし、一日中あのことで頭が一杯になるようなこともなくなってきている。


 かといって忘れたなんてことは全く無く、時間があれば今後どうするべきなのかとは考える。それだって最近では冷静に考えられるようになってきていた。たぶん。


「久しぶり。最近は調子どんなもの?」


「久しぶりね、誠志郎くん。最近は本当に調子いいかも。まだ不眠症は残っているけれど、ほかは薬も飲まなくなったし、体調もいいよ」


 和泉の顔色を見るだけで調子がいいのはよく分かる。数ヶ月前は頬が痩けて青白い顔をしていたので、今の顔はまるで別人のように健康的に見える。


「誠志郎くんこそ勉強を頑張っているの? また、あの大学目指しているんでしょ?」


「まぁ、一応ね。あそこ二回目といえど難関校だからね、復習していないと全く刃が立たないだろうから頑張っているよ」


「いつまでウジウジしてちゃそれこそあいつらの思うつぼだもんね。わたしは負けないよ!」


「その意気だよ。僕も頑張んないとな」


「お互いに頑張ろうね」


「おう」





 高校3年生の一年はあっという間に過ぎていく。


 毎日朝から晩まで受験勉強に明け暮れているのもあるし、今まではわずかだけどあった部活動も一切なくなったのも大きいと思う。

 これは僕と和泉が少し疎遠な状態になっているのも理由の一つとして考えられる。会う機会が極端に減っているんだ。


 代わりに伝え聞こえてくる和泉の状況は、一言で言えば芳しいってところ。


 2年生とき同様同じクラスになった荏田川さんとは今まで以上に仲良くなっているようだし、他にも新しい友達が何人もできたようだ。


 偶に遠目で見かけた表情にも陰はないように見えていた。

 吹っ切れた、は言い過ぎかもしれないけど乗り越えられたのかもしれないな。


 和泉は高校生活二度めにして初めての高校3年生を謳歌しているのだと思う。本当に、心の底から嬉しく思える。

 僕はタイムリープして当初の目的のひとつはちゃんと達成できたのだ。


 それに対して僕はどうなのだろう。

 僕の心は未だに揺れ動く。

 何をすべきか、何をすべきだったのか。

 このままでは花楓が救われないのは変わっていないと思う。考えることはずっとそのことばかり。

 気持ちは言ったり来たりと定まらない。僕が本当にしたいことってなんなのか。


 パフォン♫

 軽快な通知音とともにメッセージの着信が知らされる。


「ん、和泉からだ。珍しい」


『誠志郎くんって体育祭はなんの種目に出るの?』


 そういえば来週末は体育祭だったな。忘れていた。


「僕は、借り物競争だけど。和泉は?」っと。


『じゃじゃーん! なんと男女混合リレーだぞっ すごいでしょ』


「すごーい 和泉って足が速いの?」


『逃げ足だけは誰にも負けない謎の自信があったりするのです!』


「謎なんだ(笑)」


『ずっと学校行事ってカッコつけて斜に構えていたけれど、打ち込むと楽しいものなんだね。文化祭も体育祭も』


 ギャルが一生懸命やるのってダサいって考えがあったよう。1度目のターンまでは。


「以前の僕も周りの邪魔にならないように小さく大人しく過ごしていたけどね」


 今のうちのクラスは高難易度大学受験コースなクラスだからか基本的に運動はみんな好きじゃないみたいで、出場種目の選出は全部くじ引きだった。


『さすがガリ勉クラス。笑えるね』


「僕らのクラスは紅組のみんなの足を引っ張る役割だからね。いわゆるハンデだよ」


『自虐~』


 こういう内容が空っぽな話をするのは久しぶりで楽しい。少しだけ気が休まる。





 流石に最難関校に合格をするのは二度目とはいえかなり困難を要する。


 細かい知識などは覚えていなことも多く、一から覚え直しって科目もそれなりにあった。故に夏休みなんてものはなく、学校の補習には必ず参加するし、ない日は予備校通いというのが基本になっていた。


「受験勉強ってこんなに苦しかったっけ……」


 もうなんのために勉強しているのか分からなくなってきている。

 一度目の人生はそれしかなかったから何も考えなかったけれど、今回は前回とは違うので迷いが出ている。


 まずは目の前にある大学受験を突破してみないと、先々のことも考えられれないのではないだろうか。いや、そもそも受験なんてしている場合なのか? どっちだ。


「駄目だ、そんなんじゃ。たかがそんなことで右往左往しているようでは……。でも実際わからないんだよな……」


 自分自身に言い聞かせるももう気力も限界に来ていることも理解している。


 パフォン♫


『あそぼー』


 和泉からの脳天気な3文字。

 こんな時だからこそ逆に救われる気がした。


「OK」


 僕は秒で返信する。




※次回より週1投稿(を鋭意努力)します・・・

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