第50話
「わたし、今のこの高校生活が二度目なの。一度、10年後の未来で死んでいるの。それも……えっと、誠志郎くんと一緒に………なの。死んだのって」
「!……」
「あのっ、し、信じられないよね⁉ 意味分かんないよね? この女頭イカれちゃたって思うよね……。やっぱり」
「あ、いや。違くて……。えっと、ごめん。混乱してる」
「……だよね」
だから、そうじゃなくて。信じられないって意味が違う。タイムリープが信じられないのではなくて、和泉もタイムリープしていたってことに驚いているだけ。
だって絶対に和泉はタイムリープしていないって思っていたもの。疑ったことはあるけれど、一度違うと思っら次に疑うことなんてなくなっていた。
そもそも、そんな素振りも見せなかったし。
それを言っちゃ僕も同じなので、責めるわけではないけど、指摘さえ憚れる。
でも。
驚いた。
「だからね。そういう意味でもわたしがカエデちゃんの被害にあった原因なの。わたしが一度目と違うことをしたからカエデちゃんはあんな目にあわなければならなくなったの……」
「ちょっと待って。それは違うと思う。和泉の所為じゃないと思うし、万が一でも和泉に原因の一端があったとしても、僕の責任のほうが絶対に大きいに違いない」
「なんで? 誠志郎くんは関係ないでしょ? 誠志郎くんだってわたしが巻き込んでし――」
「僕もなんだっ!」
「えっ?」
「僕もタイムリープしている。あの時飛び降りたあと、10年遡って今ここにいる。和泉と一緒だよ」
和泉は目を見開いて固まっている。
そりゃそうだと思う。僕だって和泉がタイムリープしていると聞いたときには思考が混乱するほど驚いたのだから。
なんの因果か、なんの力が作用したのかは全くわからないし想像の埒外だけど事実としてあの日あの時共に飛び降りた二人は同じ時間を遡った。
そして同じように過去を改変し自分自身の一大事を避けるように行動していた。
その結果が花楓に起こった事件に繋がっていく。
「誠志郎くんも……二度目?」
「そう。今このときが二度目の高校生活だよ。過去の失敗を繰り返さないように過ちを修正して今の僕がある。一回目ではなし得なかった和泉や花楓との友人関係やアルバイトとか陰キャ脱出とかいろいろを大人になった知識や経験で改変してきた」
「わたしと一緒……」
「うん。だから花楓のことは和泉一人の責任じゃないんだ。花楓を部に留め和泉に引き合せて静かだったであろう彼女の生活を変えてしまった」
「それをだったら私だって一緒じゃないっ! 誠志郎くんだけの所為じゃないよ……」
意味のない責任の取り合いをしたがやがてどちらにせよ花楓のおかれた状況には変わりがないことを知りふたりして無言となる。
「……僕らはこれからどうしたらいいんだろう」
「……」
「まずは花楓に一度会ってみないとわからないのかもしれないね」
「誠志郎くん……。それなんだけどね、もう無理かもしれないわ」
「どういうこと?」
「あのね。バイト先にカエデちゃんが辞めるって連絡が入ったときにたまたまカエデちゃんの履歴書を見る機会が会ったの――」
本当なら個人情報なので履歴書は閲覧することは出来ないのだけど、店長が退職の連絡を受けた後所用で席を離れた際に和泉がそれをみてカメラに収めたという。
和泉は履歴書に書かれた住所を訪れたのだが、すでにもぬけの殻になっていたそうだ。慌てて出ていったようで、まだ片付けは終わっていないように乱雑だったが、住人がいなくなっているのは確実とのこと。
「なんでまたそんなに急に……」
「多分だけど、今までのまま住んでいると要らない噂とか立つかもでしょ? そういうのを嫌って他に移ったのかなって思う。あと、カエデちゃんのケータイも解約されたみたいで通じなくなっているの」
「どこに行ったかは?」
「わからない。もしかしたら学校も辞めちゃうかも……」
もしも瑞希が花楓のように目に会ったなら……嫌な記憶の残るこの地の過去を切り離して遠くに行ってしまうこともあり得ると思う。
逃げるというと語弊があるかもしれないが、謂れのある場所から離れるのは一つの有効手段だって僕でも考えるだろう。
もし実際に行動ができる身ならばなりふり構わずそうするに違いない。
「そうなのか……。そうするともう花楓とは会えないってことなのか……」
「……悲しいし、悔しいけどそういうことなのかもしれないよ」
僕と花楓とは部活の先輩後輩の仲でしかないけれど、こういうときに何も出来ない自分に無力感だけが心を占め尽くしてくる。
僕にできることってなんだろう? なにか、なんでもいいからないだろうか?
和泉もタイムリープしていたことを知ったけれど、今となってはその事実よりも花楓がいなくなってしまったこと、彼女の傷がもう取り返しの効かないほど深いものだと知り心がえぐられるような気持ちでいっぱいになる。
僕と和泉はどうしたらいいのか全く先を見通すことが出来ず、ただただ呆然とするだけだった。
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