第49話

 かなり強引だったけれど、まずはXデーを避けることが出来た。けど、これでわたしの将来は安泰かというと絶対にそういうことはないと思う。


 第一にわたしは勉強ができない。1年生のときにサボってきたツケがわたしの前に立ちはだかる。

 取り敢えず一人で勉強してみようと思って図書館など行ってはみたけど、全く捗らない。時間ばかりが過ぎていく。ならどうする?


 わたしは考えた。


 そうだ、例の佐野くん。

 彼、勉強が学年一できるすごい子。前から思っていたけど尊敬に値する!


 頭のいい子はたぶん教えるのも上手だよね。


 未来ではあんな事になったけど彼は最近うざかった髪の毛も綺麗サッパリ切りそろえてスッキリ清潔感のある青年に変わっている。

 最初のときはどうだったけな。彼のことはリスペクトしていたけど見た目までは覚えていないな。こんなんだった気もするし、違うような気もする。


 まあどっちでもいいや。


 こっそりお願いして、勉強を教えてもらおう。

 わたしは大っぴらには勉強を教えてもらうのは躊躇があったので、こっそりと彼を図書室に呼び出した。


 図書室で待っていると佐野くんがやってきた。


「あっ、待っていたわ、佐野くん。あんな手紙の呼び出しに応じるなんてあなたも律儀ね」


 自分で呼び出しておいて何を言っているのだろうか?


「あ、いや……。も、元から図書室には用事があったから来る予定ではあったん、だ。けど、えっと飯館さん?」


「そうよ。わたしは飯館和泉。佐野くんとはクラスメイトだよ」


「あ、はい。知っています。それより僕の名前、よくご存知ですね」


「2年連続でクラスメイトだしね。知っているよ」


 話してみてやっぱり、一緒に飛び降り自殺した彼とはすこし違うと思った。だってすごく他人行儀なんだもの。


 図書室で喋るのは駄目らしく、図書準備室という彼の所属する部活の部室という小さな部屋に入れてもらう。

 佐野くんが若干挙動不審になる。


「どうしたの?」

「あ、いいや。なんでもないよ。狭くてインク臭くてゴメンね」

「ううん、インクの匂いは嫌いじゃないよ。広さも、佐野くんと密着するほどぎゅうぎゅうじゃないから平気だよ」


 狭いとはいえ、それなりのスペースは確保できているので全く苦ではない。



 本題に入る。


「わたしに、勉強を教えてくれないかな?」

「そうなんだ。でも、勉強を教えるのになんで僕なの?」


「佐野くんは勉強できるでしょ? あと、友だちいなさそうだから吹聴して回ることもなさそうじゃない? あとは、意外と誠実そうだし勉強している最中にヘンなことしなさだしね」


 教えて貰う立場なのに礼儀を知らない馬鹿な発言をしてたな……。


「ヘンなことくらいはするかも知れないよ。ほら、今だってキミのこと密室に誘い込んでいるわけだし……」


 あら、近くで見ると佐野くんってちょっと美形じゃない? それに言葉とは裏腹に目が泳ぎまくっていて可愛らしい。


「えっ⁉ さ、佐野くん??」

 わたしも悪乗りしてみる。


「せんぱーい! おまたせ、し、ま……し、た?」

 ここで後輩ちゃん登場。




「飯館和泉でっす。後輩ちゃんよろしくね!」

「あ、はい。えと……海凪花楓です。よ、よろしくお願いします」


 後輩のカエデちゃんの第一印象。

 おっぱいでかい。

 地味だけどすごく可愛らしくて、なんて言ってもおっぱいでかい。大事なんで2回言ってみました。


 カエデちゃんとはすぐに仲良くなった。馬が合うって言うのかな。あっという間に打ち解けて先輩後輩っていうよりも友だちって感覚に近いかも。


 佐野くんとも勉強を通じてだけどどんどんと仲良しになっていく。


 勉強だって佐野式スパルタのお陰かも知れないけどなんとかうまくできそう。

 タイムセールのあとのわたしって結構楽勝じゃない?



 そんな事考えていたからなのか、あんな事件に巻き込まれた。


 友人だと思っていた茜たちから襲われた。同じグループで仲が良かったと思っていたのに。

 また不幸の振り出しに戻ってしまうのかと思った瞬間、佐野くんが助けに入ってくれた。瞬殺で瀬長に倒されていたけれど……。


 ただカエデちゃんが先生や警察を呼んでくれたみたいで九死に一生を得た感じ。

 で、奴らは当然ながら追放される。これでやっとわたしにも平和が訪れることになる。テストもまぁまぁできたしね。




 で、あっという間に夏休み。

 バイトにプールに海! 変な遊びを押し付けられた1回目とは全く違う健全な夏! 浮かれるぜっ‼


 あと、本人にはまだ言えないけど、わたし、佐野くんのこと好きになっちゃったみたい。だって高校生のくせに大人だし、助けに入ってくれたときなんか漢を見ちゃったの。

 惚れるなというのは無理よね⁉


 中身が27歳のおばちゃんだけど恋してもいいわよね? 駄目って言われても無理かもだけど。


 もう最初のバカでクソなニセモノの恋愛なんて絶対にしたくない。クズ男にダメ男は一昨日来やがれってやつだよね。


 もう佐野くん一択。つっか、わたし彼のこと誠志郎くんって名前で呼んでいるんだよー! やったね!


 どうもカエデちゃんも誠志郎くん狙いみたいだけど、こればかりは譲れないからね! 正々堂々勝負だよ!


 すごく楽しかった。誠志郎くんとも二人きりで海に行ったりして。最高だった。




 このときまでは――。

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