第48話

今頃年初更新です。

シリアスパートは苦手だよ。忙しいのも相まって筆が進みませんが頑張ります。

お目汚しに短編も上げていますのでそちらもお願いします。






 佐野くんと手をつなぎビルの屋上から飛び立つ。もう苦しまくてもいいのだと思うと恐怖なんて一片も無かった……。









「和泉ちゃん、もう起きなさい。遅刻しちゃうわよ⁉」

「ん、んんん……。なによ、もう全部終わったの……」


「何を寝ぼけているの? 早く起きなさいっ」

 布団を剥ぎ取るとお母さんは部屋を出ていった。


「もうっ、やーだーっお母さんっ!」

 ……え? お母さん?


 わたしは飛び起きると周囲を見回す。見慣れた風景。懐かしい風景。


 実家だった家のわたしの部屋。


 当時好きだったアイドルのポスター。クリスマスに強請って買ってもらったオーディオの横には山積みのCD。わたしは音楽も本もデジタル配信よりも現物派だったからね。

 床には読みかけのファッション誌やマンガが雑然と散らかっている。


「え? え? な、なにこれ……。わたし、死んだんだよね? 飛び降りて」


 わたしは死後の世界なんて信じていないし、神様だって眉唾だと思っている方なので、ここが天国だ地獄だなんて一切考えない。


「そうだ、スマホ!」


 充電コードに差してあるスマホを取るとすぐにアンロックして日付を確認する。


『201X年6月17日(Mon)』


 わたしが飛び降りたのは202X年10月27日だったのでこの日付はだいたい10年前。


「このスマホもめちゃ古いな。それより、えっと鏡ってあったよね」


 部屋の壁にかけてある姿見に自分を映してみる。


「……若っか。201Xだと高2だなぁ。なんだこれ……死なないかわりに時間を遡っちゃったってワケ?」


 わたしは馬鹿なのでいろいろと考察するってことが苦手。だけど、あるがままに受け入れる素直さはこの時いい方に働いてくれていた。


「早くしなさいっ。本当に遅刻しちゃうわよ~」

「はーい。わかったってば~」


 考えるのは全部後回しにして、学校に行ってみよう! あはっ、制服着るの久しぶりで楽しい!




 学校への道すがら考えてみた。

 わたしは多分タイムムーブ? タイムループ? タイムリープ? なんだか名前はわからないけどマンガで見たことがある時間遡及現象にあっているらしい。


 人生どん底の状態から起死回生でピチピチJKに戻ったらしい。


 それならば一緒に飛び降りた佐野くんはどうなのだろう。教室に行ってみればわかると思うけど、なんていっても彼とは同級生だったからね。


『飯館さんもタイムセールしてきたのかい?』なんて聞いてきたら大正解ってものだわ。


 あと、高2の6月の中旬。なにか重大なことがあったような気がするけど、なんだったろう? ぜんぜん覚えていない。記憶力なさすぎの馬鹿すぎて嫌になるやつ。



 教室に入ると懐かしい風景に涙が出そうになる。でも堪えて笑顔を振りまく。


「おはよー」

「おはよう!」


 挨拶を交わしていると、教室の隅に佐野くんを発見。あからさまにガン見するとおかしい人になりそうなので、ちらりと笑顔を向けてみる。


 もし彼もタイムセールならばすぐに気づいてくれるはず。


 だけど、目があったのは一瞬ですぐに目をそらされてしまった。ああ、彼はセールしなかったんだな。わたしはそう確信していた。非常に残念だ。悲しい……。




 授業は相変わらず退屈だったけど、前回それで失敗してあのどん底を味わったので今回は絶対に失敗しない。

 この時点ですでに遅いかもしれないけど、必死に勉強することにした。あの苦しみに比べたら勉強なんてぜんぜん大したことではないもんね。



 放課後になったけど、案外とみんな帰らない。部活動がある人はすぐに教室からいなくなったけど、他の人達はおしゃべりを楽しんでいるようだ。


「いずみん、来月の期末テストどうする? 中間は赤点とっても補習無かったけど次は夏休みに入ってからの補習があるんだよね~」


 話しかけてきたのは茜。遠藤茜って子。グループの中心メンバーだけどわたしよりも馬鹿。この子も中退組でコロコロ落ちていったと思うけどその後疎遠になったので後日談は知らない。


「そうみたいだね、茜は勉強どうするの? すこしはしないと夏休みは補習漬けになるの確定じゃない?」

「え? しないよぉ。補習もブッチに決まってんじゃん! なんとかなるっしょ」


 ああ、確かそんな事を言って本当に補習授業をサボっていたんだっけ。


「やっぱそういう感じだよねぇ……。まぁでも茜たちも少しは考えたほうがいいと思うよ。わたしもちょっと思うところがあるんだけどね」


「ふえぇ~いずみん、お勉強するのぉ? めっずらしぃ~」


「うん、まあ。今はまだ考えているだけなんだけどね」


 わたしは今回絶対に赤点は取らないし、退学もしない! 一度死んだんだ。その死ぬ気になれば何でもできるって意気込みだけはある。


 そこに隣のクラスにいる友だちの優里が教室に走り込んできた。その姿を見た途端、思い出した。これ、ヤバい! 今日がその日だったんだ!


「やっほー和泉。ねぇねぇ! あたしら今から大輝たちとカラオケ行くんだけど和泉たちも行かない?」


「ん~わたしはパスかな。この後ちょっと用事があるんだ」


 断る。絶対に断る!


「え~マジ? そんなの後にして一緒にカラオケ行こうよ!」


「うん、ごめん。行かないよ。ホント無理なんだ」


 断固拒否。ここで付いていったら人生おわる。


「そうなの? でも大輝の知り合いとかも来るんだよ? おもしろいよ、きっと」


 その知り合いというのに会っては絶対にダメ。わたしの人生をめちゃくちゃにしたやつ!


「誘ってくれてありがとう……でもごめん。じゃ、悪いけどわたしはこれで。ばいばい」


 逃げるが勝ち。逃げるは恥っていうのもあったけど、意味知らないや。理由とかもうどうでもいい。とにかくここを去らないと。

 こいつらのことだからわたしのいないところで悪口言われているだろうけど、そんなのはどうでもいい。


 今はまずあいつとの接触を完全に遮断することが最優先事項よ。

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