第45話
和泉に状況とメッセージにあった動画の内容を教えてもらう。件の動画はすでにサイト上から削除されているらしい。
――和泉や花楓がバイトを終えて帰ったのが午後8時すぎ。
帰る方向が逆なので和泉は店の前で花楓とは別れたそうだ。
最初のSMSが来たのが8時40分ころ。
差出人は偽装されており不明。電話番号の国番号がおかしいので気づいたそうだ。
和泉はただのいたずらか詐欺の類かと思って最初は無視した。ただ、本文に自分の名前が入っていたことには違和感を覚える。
二度目のSMSは午後10時少し前。
和泉は胸騒ぎがしたのでメッセージの最後に貼られていたリンクを開いてみることにした。
サイトが読み込まれると自動で動画が再生される。
暗い部屋。椅子に縛られた女性。接近していくカメラ。
何者かが俯いていた顔をげさせると女性の顔をはっきりとカメラに映す。花楓だった。見間違いはない。
次に下半身を露出した男。別に男はもう一人おり花楓の後ろから彼女の脚を開くように押さえつけていた。
露出男は花楓に近づき、彼女の下着をナイフで切り裂き花楓の性器を露出させる。そして自らの性器を花楓の性器に押し当てそのまま挿入した。ここはカメラも近づいて挿入した性器の接写と挿入場面を撮り続けていた。
花楓は泣き叫ぶように身体を激しく揺すっていたが、屈強な男の前ではなすすべがない。
押さえていた男と最初に挿入した男が入れ替わり、今度は押さえていた男が花楓に挿入する。
そしてカメラの持ち手が代わりカメラ男も同じ様に花楓に挿入した。
レイプのうえ輪姦までをも同時に行ったということになる。
男たちの挿入は各自一度のみ。コンドームも使用し、体液を一切残さないような工夫もしている。ご丁寧にゴム手袋まで着用していたという。
犯人の服装はどこにでも売っていそうなファストファッションで統一されており、そもそも暗い上顔は覆面で全くわからない。
体型も服で隠されていて全く特徴を見出すことが出来ない。
動画は映像のみで音声は入っていなかった。男たちと花楓以外は何も映ってらず犯人に辿り着けそうなものが全く見当たらないらしかった。
彼らの目的は快楽目当てのレイプではなく、和泉の友人の花楓を襲い、これ以上無い艱難辛苦を和泉に与えることに思える。
それ以上でもそれ以下でもない。直接和泉を襲うのではなく友だちを使うことで精神的に追い詰めるのが目的と推測できる。
花楓はその目的ための道具として使われた。
「ディープフェイクって可能性は? 今は誰でも簡単に作れるっていうじゃないか」
「そうかもだけど。そんな簡単にバレるようなことはしてこないと思う」
「じゃあ、やっぱり本当のことなのか……酷い……」
「わたしのせいでカエデちゃんが……」
「今は誰のせいとか言っている場合じゃないだろ? 警察には?」
首をふる和泉。
「この場所って心当たりは?」
「ない……」
「じゃあ、犯人の心当たりは?」
「ある。けど、証拠がなにもない。これが奴らのやり方……」
奴ら? 知っているやつなのか?
「まさか――瀬長たちか?」
「わからない。依頼したのはもしかしたら、そう。でも実行犯は違う奴ら。瀬長か、他の誰かがわたしに復讐するのにカエデちゃんを使った。とんでもない奴らに依頼して……」
「それって前に和泉が言っていた半グレのこと?」
「うん。電話番号偽装とか、証拠を一切残さないやり方とかが似ている。それに瀬長とかと繋がっているとしたらそこしか無いし」
「そっか。一応警察には行っておこうか? 捜索はしてくれるんじゃないか? 今花楓がどうなっているのか心配だし……」
情けないことに僕にはそれくらいしか言えなかった。全身総毛立つほどの怒りはあっても、無力な僕には指一つ動かす手段もない。
ビビビッ
和泉のスマホが震える。
「なに?」
「またよ。番号が偽装してあるから多分奴ら。なんだろう、これ」
スマホを見せられる。画面には数字の羅列だけ。
『3◯.7◯342971349193, 13◯.3◯147925515783』
「これって……。ちょっとスマホ貸して」
「うん」
僕はこの数字をコピーして、地図アプリを立ち上げた。検索窓にその数字をペーストし検索をかける。
「やっぱり。もしかしたら花楓はここにいるんじゃないか。変な罠じゃなかったらだけど」
数値が示したのは地図の座標だと思い、マップで確かめてみた。指し示された場所は、郊外の人造湖の横にある水道局管理の取水ポンプ場の建屋。
周囲は湖畔緑地公園と手つかずの森しかないので、たぶん監視カメラとかも無いんじゃないかと思われる。
「行こうっ」
「ああ、行ってみよう」
時刻は11時半を過ぎたところ。終電に乗れば、ポンプ場の最寄りまではなんとか辿り着けそうだ。
最終電車のアルコールと香水の匂いが充満している車内で無言のまま、僕と和泉は目的の駅に向かう。
懐中電灯などの入ったバッグを背負い、ドア横のスペースで車窓を眺める。
色々な考えが頭の中を駆け巡るが、何一つまとまるようなことがない。とにかく早く花楓のもとに駆けつけなきゃならない、ただそれだけ。
目的の駅につく。この駅で降車したのは僕らだけ。
日中なら湖畔緑地公園に遊びに行く親子などがたくさんいるのであろうが、日曜日深夜の今は誰もいない。
目標のポンプ場は直線で駅から3キロ程度。走れば数分で着くことができるが、そもそも真っ暗で、土地勘もないし、整地されていない自然公園内を突っ切るのであれば足場も悪い。
もし犯人がまだ潜んでいたとしたらと考えると、こちらとしても無駄な疲労は抑えておきたい。
「なるべく早く。ただし走らないこと。あと、まだ確信がないから誰にも見つからない様に」
「わかったわ。早くいきましょう」
暗闇の中に一歩踏み出した。
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