第42話

 ほぼ丸一日和泉とビーチで遊んだ帰りは道程の殆どを寝て過ごしてしまった。


 海から近い駅でJRに乗り換えたら、自宅最寄りまで乗換なしの長距離路線だったから本当に助かった。


 半分寝たままの和泉を自宅まで送り届けたら、再度駅まで行って自分の家まで帰る。

 もう少し早めに切り上げていればここまで大変じゃなかったかも知れないけど、あの楽しかった時間はかけがいがなく後悔はない。



 と、昨夜は思っていたけど、いざ土曜日のバイトが始まると昨日は無理しなけりゃよかったと反省しきりだ。


 日焼け止めクリームが剥げ落ちていたところはしっかり日焼けしてしまいヒリヒリと痛いし、慣れない砂浜を走り回ったせいなのか足腰は疲労で重い。


 昨夜はすぐに寝付けたけれど、朝起きるのは辛く疲労はそう簡単には去ってくれなかった。ピッキングで持ち上げたダンボール箱が普段の倍以上に重く感じている。


「よう、佐野。今日はやたらと眠そうじゃないか? 気合い入れとかないと今日は大口が2件も入っているらしいからバテちまうぞ?」


 今日は野添くんと一緒のフロアで仕事だ。


「昨日ちょっと遊びすぎちゃってね。疲れ気味だけど頑張るよ」

「身体も引き締まってきているし、日焼けしてイケメン度上がっているけどへばったら元も子もないからな。気をつけろよ、佐野」


 イケメン云々はよくわかんないけど、身体が力強くなってきているのは実感している。


「サンキュ。無理ないところで頑張るよ。さぁて、次のやつ始めようか」


 前世でのブラックな労働なんてこの比じゃないからな。26時に仕事が終わって翌朝7時には出社していないとならなかったことなんてザラだったもんな。


 家に自費タクシーで帰って風呂に入って仮眠を取ったら直ぐ出社。そんなのを毎日繰り返していたのに比べれば、遊んで疲れた如きは疲労のうちに入らない。

 睡眠だって8時間取ったし、朝食も瑞希が用意してくれていたので完璧に摂れている。これで疲れただの出来ないだのは甘えに過ぎない。と、思ってしまう僕はどうなんだろう?



 昼休憩に瑞希の用意してくれた弁当を食っている最中に和泉からメッセージが入った。


『いま起きた』

『おはよう。もう昼過ぎているぞ⁉』


『昨日は送ってもらってありがとうね。意識がほぼなかったからお礼いい忘れたと思って』

『ごちそうさま、なんて言っていたのは寝ぼけていたのか?』


 昨夜別れ際、和泉が意味不明なことを言っていたのは寝ぼけていたせいだったんだな。ふざけているにしてはおかしいと思ったわ。


『むぅ、うるさい……。わたしゃもう一眠りするから誠志郎くんは午後も頑張ってね~』

『はいはい。おやすみなさい(つ∀-)オヤスミー』

『(¦3[▓▓]』


 人のことは言えないけれど和泉も体力なさそうだもんな。昨日は僕以上にはしゃいでいたから相当疲れていると思う。

 明日は和泉のほうがバイトだと言うし、ゆっくりと休んで頂きたい。


 パフォン♫


 スマホにまた通知が来た。和泉はまだ寝ていないのか?


『やっほ、せんぱい。私、完全復活です!』


 花楓だった。完全復活です、とあるから風邪の方はすっかり良くなったんだろうな。


『もう熱はないのか?』

『熱もなければ咳もくしゃみも出ません。だるかったのもスキッと抜けました!』


『それは良かった。でも無理はしちゃだめだぞ?』

『わかっています! 明日はバイトなので今日まではゆっくりしますね。来週こそはせんぱいと一緒に遊びたいです!』


『じゃあ、来週はいっぱい遊んでやるよ!」

『ヽ(=´▽`=)ノわ~い』


 ただうざく僕のことを弄ってくるだけだったのが、素直に甘えてくるようになったのはいい傾向。妹のようで可愛らしくて好ましいと思っている。

 愛だの恋だのには全く縁がないし、完全に疎いけれどこういった僕にとって初めての気安い友人関係は貴重で大切なものだと感じている。


「今回は自分が確実に一歩ずつ成長しているのを実感できてすごく満足だね」


 さて、午後もいっちょ労働に励みますかね。





 今回の日曜日は久しぶりにのんびりしている。一切予定もなく、家にも誰もいない状態なので一人を満喫しているところ。


 母さんは父さんのところへ出迎えに行っていて帰ってくるのは明日。父さんもお盆休みに入るとかで久しぶりに一家団欒が待っている。

 瑞希は友達とプール。町民プールは小学生の入場料が100円らしいのでしょっちゅう出かけているみたいだ。


 今日は『けんじとこういちとみゆきちゃんで行ってくる』と言って出ていった。男の名前らしき二人が気になるが僕があれこれ言うこともないだろう。


 帰宅したら問い詰める気ではあるけれど。


 朝ごはんは用意してあったし、夕飯はデリバリーのピザを頼んで瑞希と一緒に食べる予定。


「昼ごはんどうすっかなぁ」


 基本自炊なんて一周目含めしてこなかったので、こういう休みの日で特に一人きりの場合とても困る。

 食べないという選択肢はこの高校生の身体にはありえないので絶対になにか食べたい。ほんとバイトし始めてから余計に燃費悪い身体になっている気がする。


「花楓と和泉のバイト先でも冷やかしに行ってくるかな」


 あそこもカフェだしなんかしら食事できるようなものあるだろうからね。

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