第36話

「ねえ、ウォータースライダー3回も連続で滑る必要ってあったの?」


「あるよ」

「あります」

「うん。お兄ちゃん分かってないなぁ」




 行列のできていたウォータースライダーに僕たちは3連続で並んで滑った。このウォータースライダーは二人一組で滑り降りるんだけど、パートナーを都度交代して滑った。


 僕の場合、最初は瑞希。僕のお腹に抱えて滑り降りた。普通に楽しかったな。


 次は花楓だった。僕が抱きつくのもおかしな気がして花楓に僕の背中に抱きついてもらった。背中にボリューミーで柔らかい例のブツが押し付けられてウォータースライダーのことなんか一つも記憶に残っていない。まだ僕が抱きついていたほうが良かったんじゃないかと思うくらいにヤバかった。


 最後は和泉。和泉も花楓には負けるもののそれはご立派な果実をお持ちなので、花楓の二の舞いは避けるべく僕が彼女を抱えることにした。


「はい、スタート位置に座って下さい……チッ」


 3連続ともなると係員さんも僕たちのことを覚えているようで、女の子をとっかえひっかえしている僕に舌打ちしてきた。これ、僕が悪いんじゃないんです!


「じゃあわたしが前に座るから、誠志郎くんはしっかりと腕を回して離さないでね」

「分かっているって……」


 和泉の後ろに僕も座り、腕を彼女のお腹あたりに回す。彼女の水着はタンキニなので背中が、生肌露出が激しい。僕は彼女の肌にくっつかないように精一杯に腕は伸ばしていた。


「なんでそんなに離れているの? ほら、えいっ」

「わっ、そんなにくっつくと……肌が!」


「はいはい。スタートして(怒)!」


 係員さんに背中を押されて和泉と密着したままスライダーを滑り降りる。


 直肌で和泉の体温を感じてしまう。もうウォータースライダーなんてこれっぽっちも頭に入ってこない。気づいたら、水の中にドボンだった……。




「どうせ僕は何もわかんないよ。はぁ、ウォータースライダーだけで午前中が終わってしまったな。お昼だけど、何食べる?」


「売店で焼きそばとかアメリカンドッグとか売っていたよね? あれでいいんじゃない」

「私もそれで十分です」

「ウチはメロンパンがいいよっ」


 二人は軽食で瑞希はメロンパンね。適当に買ってくればいいかな?


「じゃあ僕が買ってくるから、みんなはレジャーシートのところで待っていてね。あ、余計なところ行くなよ? もうナンパはゴメンだよ」


 場所取りしたところはファミリー向けエリアっぽいから不埒な野郎どもは近づいてこないだろう。


「誠志郎くん、よろしく~」

「せんぱい、お願いします」


 ◇


「行ったね。ねぇねぇお姉ちゃんたち、聞きたいことがあるんだけどいい?」


「なになに? なんでもお姉ちゃんたちに聞いてくれていいよ? 好きな男の子を悩殺する方法とかかな?」


「和泉先輩。小学生に何を教えようとしているんですか? せんぱいに怒られますよ」


 好きな男の子を悩殺する方法には興味があるのだけど、悩殺しなくても瑞希ちゃんにはメロメロだから今のところ不要なんだよね。


「あのネ。お姉ちゃんたちのどっちがお兄ちゃんの恋人なの? それともまだ恋人ではなかったりするの?」


「は?」

「え?」


 カチンって音が聞こえるくらいに固まったお姉ちゃんズ。視線だけでお互いをちらちら見ているよ。


「たぶんお兄ちゃんのことだから、二人の女の子を弄ぶなんて甲斐性はないと思うから、どちらか一人だと思うんだけど、違っていたかな?」


 でもな~、一瞬で私のことを骨抜きにしてくれたお兄ちゃんのことだから、想像以上にタラシってことがあったりして⁉


「わ、わた、わたしっは、クラスメイトだし、えっと、事件のときも助けてもらったから誠志郎くんのことは親友だと思っている……かな?」


「私は、せんぱいは素敵なお兄さんだとまえから思っていました、よ。髪を切ってからはかっこいいとも思いますけど、それは、お兄ちゃんとしてで……ねぇ」


 えっ? ということはどちらもお兄ちゃんのことは男性として見ていない、と言うことなの?


 おかしいな。


 だって、この前からお兄ちゃんにベタベタくっついて甘えた声出していたのはこの二人だよ? 今日なんて彼氏役なんていって身体までベタベタくっついていたくらいなのに?


「もしかして、お兄ちゃんのことは男だと思っていないの? お兄ちゃんじゃカレシとして不満なの?」


 あんなにかっこよくて優しくて素敵なお兄ちゃんのことを男の子として認識していないなんて‼ 信じられない!

 もし私が兄妹ではなかったら、全力でお兄ちゃんのこと取りに行くって胸張って言えるっていうのに⁉


「ふ、不満なんて一つもないよ。誠志郎くんは素敵な男の子だよ」


「せ、せんぱいは魅力的な男性で間違いないです……」


 ん? ということは??


「わたしは誠志郎くんのことは好きだよ。もちろん男の子として……」


「私もせんぱいのことが好きです。とうぜん、男子としてです……」


 おお! これはお兄ちゃんの甲斐性が見せ所だよ! 


 和泉ちゃん、花楓ちゃん、そしてこの私瑞希ちゃんの誰を選ぶか乞うご期待ってやつだね!


「じゃあお姉ちゃんたちとウチの3人でだれがお兄ちゃんに選ばれるか競走だね! 負けないからね⁉」


「わたしだって負けるつもりはないからね。カエデちゃん」

「私も先輩に負けるつもりはないです」


 二人ともウチのこと忘れないでよね! まあ私は家族枠だから無敵だけどね。


 ルールはこちらからの告白は禁止でお兄ちゃんに誰が先に告られるのか、で勝負だって! どれだけお兄ちゃんを誘惑できるかが勝敗の分かれ目らしい。


「おまたせ、ってどうしたの? なんか二人とも顔赤くない? 熱中症じゃないよね?」


 やれやれ。お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんだよねぇ~。


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