第35話
更衣室から出ると夏の強い日差しに目がくらむ。女性陣はまだ着替え終わっていないだろう。
女子更衣室の出口の真ん前で待っているのは憚れるので、用事を済ませたら少し離れたシャワーの設置してある場所のそばで待つことにする。
待つこと暫し。強い日差しに肩がひりつき始めた頃、なんやら女子更衣室の前が騒がしいのに気づいた。
「子連れなんだから、アナタの相手なんてしてられないの! たとえ子連れじゃなくてもお断りよっ」
「や、やめてください。子供が怖がっていますよ⁉ あ、あなた方、あまりにもしつこいと通報しますよ」
「こわい! お兄ちゃん! 助けて!」
聞き覚えのある声が3人分。更衣室から出て早々にナンパ被害にあっている模様だ。イベント避けできていないじゃん! 急いで駆けつけないと。
「和泉、花楓、瑞希。やっと来たね。さあ、あっちに行こう」
男の僕の登場にナンパ男たちが騒がしくなるが、いちいち構っている場合ではなさそうなので3人を引き連れその場を退避することにする。
右腕に和泉、左腕に花楓、背中に瑞希を携えて、足早に移動しようとしているんだけど、両腕にあたる感触が幸せすぎて歩みはどうしても牛歩になる。なお背負った瑞希はノーカン。
先に場所取りを済ませておいた木陰まで移動してきた。ここら辺は家族連れが多いみたいなので、おかしなナンパ野郎どもはいなくて安心安全なようだ。
「ここならもう平気だろ? もう離れてもいいぞ⁉」
「「「チッ」」」
え? まさかとは思うけど、いま、舌打ちしなかった? 3人。
「で、どうなの? 誠志郎くん」
「どうですか? せんぱい」
「ど? お兄ちゃん」
僕から離れたと思ったら、3人が同時にポーズを決めてどうだって聞いてくる。
先程から、正確に言えば彼女らが更衣室を出て騒ぎを起こしていた辺りから、僕は彼女らの姿を正面から見ていない。正確にいうと見られない。
顔は見ているのでちゃんと目を見て話はしている。目を見て話さないと駄目だと最初に勤めた一流企業で叩き込まれていたのが活きている。
それで、彼女らが要求しているのは自らの水着姿についての感想を述べよ、ということらしいのは察しがついている。正面からは見てないが目の端には入ってくるので分かるんだ。
「えっと……。瑞希は可愛い。似合っている。ちょっと背伸びして大人っぽい水着を来ているのがとてもキュートでほっこりする」
「えへへ。ありがとー」
さすがに妹の瑞希のことは直視できる。頭の天辺からつま先までしっかりと確認して感想を伝えた。喜んでいるようで何よりだ。ミッションコンプリート。
「せんぱい?」
「おーい、こっち見ろやー」
残り二人が煩い。試着室ではまだ【仮】感があったので頑張って直視したけど、【本番】環境ではなかなか刺激が強すぎる。
「せんぱい。慌てなくていいですよ。ゆっくりと、ゆっくりと来てください……」
花楓が話しかけてきたので思わず目を合わせてしまう。きれいな瞳にロックオンされた……。
しかも今日の花楓は伊達メガネを外して、隠れるほどだった前髪をきれいに横に分けている。だから、可愛らしい顔が前面に押し出されているわけで。何も思うところはないけどドキドキしてしまう。
それに水着姿を見るということは、つまり暴力的なあの双丘も目にしないといけないってこと。
果たして見たい気持ちが無いわけではないけど、見てしまうとどうしても凝視してしまう気がしてならない。一応今の僕は健全健康な高校2年生。枯れ始めた27歳とは違う。
いざ。
「あぅ……そんなに凝視されると恥ずかしいです」
ダメージデニムの水着から溢れんばかりの2つの重量級の果実がたわわに実っている。凝視するつもりなど微塵も無かったけど、無理でした!
一度目をギュッと閉じて視線を更に下へ。可愛らしいおへそを抜けたら、きれいな足が目に入る。こっちのダメージデニムなパンツだけどこれも目に毒だよ!
「すっ、すごく可愛くて、花楓に似合っている……よ。え、選んだ甲斐があった、な。あはは」
「へへ。ありがとうございます、せんぱい」
ホルターネックとホットパンツの組み合わせは、大人っぽくも可愛らしさが残っていて本心から花楓に似合っていると思っている。よしこれでミッションコンプリートだな。
「おい、誠志郎やー。無視するなぁ~」
「え~和泉もなの?」
「当たり前じゃん! わたしだけ無視とかありえないでしょ?」
無視とかじゃなくて逆に意識しすぎて見られないんですけどね。目の端に映るだけで強刺激がバチバチ来るんですものー。
「ちゃんと処理してきたから隅から隅までずずずいっと見て頂戴なっ、誠志郎くん」
そこまで言われては見ないわけには行かないな。よっし一気に目に収めるよ!
「………やっば」
モノキニの胸から下、お腹の辺りが紐で編み込まれた目の粗い網目になっていて、そのままお腹を晒してこられるよりもエロさがたまらない。
しかも水着の色は黒で、それに合わせたメイクを和泉は施してきているので、大人っぽさに
「あ……ちょっと……」
僕は前かがみになったあと、そのまま足を閉じて体育座りの姿勢を取る。今、股間を目視されたらもうお婿さんにいけない……。
「ふふん。誠志郎くんのその反応だけで満足だよ。落ち着くまで横に付いていてあげるわね」
すごくムカつくけど、何も言い返せない。ちくしょー‼
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