第34話
「ふへぇ、1日ぶっ通しはさすがに辛いよ……。もうアタマがオーバーワークだって言っているみたいだよ」
「和泉。お昼ごはんにファミレス行って、本当なら3~40分で帰ってくる予定だったのデザートだのなんだのと言って2時間も時間つぶしたじゃないか?」
そんなことしておいてどこがぶっ通しなのか小一時間ほど問い詰めたい。
「いいじゃないですか、せんぱい。せんぱいもパフェの写真撮って美術の宿題を済ますことができたんですよね?」
「まぁ、そうだけど……」
実は花楓の頼んだいちごパフェの写真を和泉に教えてもらいながら映える写真ってやつでアートっぽく撮ることができたんだ。お陰で美術の課題が終わった。
「よっしゃ! カエデちゃんのお団子食べたらラストスパートで、古典のプリントを一気にやってしまおう! やー!」
「和泉まだ食べるんだ……ほんと健啖家だよね。で、古典のプリントってなんだ? あ、ああ。赤点の補習代わりのやつか」
「今日は赤点の補習のやつしかやってないよ……。分かってるくせに誠志郎くんはいじわるだ」
今回和泉が赤点を取った教科は3つ。午前中に世界史をやっていたのはその課題だったのか。プリント5枚はなかなかのボリュームだったな。
古典のプリントは1枚少ないだけの4枚なのでこれもなかなかである。両方とも書き取りと教科書を見れば分かるような問題ばかりだった。
「それよかコミュニケーション英語がヤバいんだけど……」
【Winnie-the-Pooh】の学習用テキストの冒頭部分を翻訳しろと言う課題みたいだな。簡単ではないかもだけど、それほど難易度も高くないし、赤点の課題にはちょうどいいんじゃないかと思う。
5時まで勉強したところで終わりにした。僕は主に二人に教えていただけなので大して疲れていないけど、二人はだいぶ参っている様子だ。
「これじゃ明日のプールは中止にして家でゆっくり休んだほうがいいかもね」
「んなわけない!」
「行けます!」
あまり僕の精神衛生上よろしくないのでこのまま中止でも構わないんだけどなぁ……。そうしたら瑞希と二人で遊んでくるし。
「プールのためならぷ~さんでもぽーさんでもなんでも略してあげるよ!」
略さないで訳してよ……。
「花楓も本当に僕とプールでいいのかい?」
「逆にせんぱいと行かないと嫌です。せんぱい一択ですよ」
意味は分からないけど、意志は固いのはよくわかった。もう諦めて明日は瑞希と楽しもう……。
翌日。雲ひとつない青空。朝も8時前だっていうのにもう気温は29度に達している。
「あつい……」
「お兄ちゃん、今日はナイスなプール日和だね‼」
「おう……」
昨夜は一縷の望みをかけててるてる坊主を逆さ吊りにして部屋にぶら下げておいたんだけど。案の定効果はなかったな。
僕としてもタイプの違った美少女の水着姿を試着室ではなく、プールサイドで見られるのは眼福だとは思うよ。だけど、それはそれで緊張もするわけで。
それにプールと言えば昔からナンパイベントが目白押しじゃないか? 僕にナンパ男を撃退するだけのスキルはないと思うんだよね。
幾ら今回が二周目とは言え、一周目に経験していないことは無理なんだからね?
「ほら、お兄ちゃん。行くよっ」
「わかった、わかったってー」
瑞希に手を引かれながら家を出る。今日は県民プールに行くので、高校に行くのとは逆方面に向かうことになる。
駅のホームで、花楓と和泉が来るのを待つ。一番うしろの列車に乗ることにしてあるので、もし二人が同じ列車ならばそのまま僕らも乗ってプールの最寄りまで一気に向かう。
「あ、いたよ。お姉ちゃんたちだよ! ほら、お兄ちゃん乗るよ」
瑞希はだいぶはしゃいでいるのか、何かと主導権を取るように僕に指示をしてくる。僕もそのまま『はいはい』と聞いているんだけどね。
「おはよ、二人とも」
「おはようございます。せんぱい、瑞希ちゃん」
「おっは。誠志郎くん、瑞希ちゃん」
「おはようございます。お姉ちゃんたち!」
とりあえず、無事合流できたので朝の挨拶を交わす。
「にしても、早くない?」
「2本早いなって思って電車に乗ったらカエデちゃんがいたよ」
「駅いついたらちょうど電車が入ってきので飛び乗ってしまいました」
「早く着いて、誠志郎くんたちを待てばいいかと思ったら、あなた達もすでにホームにいたのよ」
楽しみなのは分かるけど、みんなして気が逸りすぎだと思うよ。僕も行くと決まれば楽しみではあるに違いはないけれど。
「絶対にナンパイベントは起こさないでくれよ?」
「大丈夫よ。あなたと合流する前は瑞希ちゃんを使わせてもらって『子連れなんで』って誤魔化すし」
「せんぱいと合流したらカレシがいるので無理ですっていいますから大丈夫ですよ」
「誰が誰のカレシなんだよ?」
「そうね。わたしの彼氏役も任せたわよ、誠志郎くん」
「違いますよ。私のカレシ役です。せーしろーせんぱいは」
「二人とも違うよ、私のお兄ちゃんだよ。お兄ちゃんは!」
はいはい。もうどうでもいいですよ。なるようにしかならないなら、なるようになれで構いません。カレシでもカラシでもなんでもいいですよ!
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