第31話

 夏休みに入った。すでに3日目なのだが僕の気持ちはなんともおかしな感じ。


 40日以上連勤したことは何度もあるけれど、40日以上連休したのは学生時代ぶりなのでなんとも慣れないんだよね。なんていうの、なにかしていないと落ち着かないっていうか、ウズウズするっていうか。

 だもんで初日と二日目は宿題をぶっ通しで各日10時間ほどしたんだ。さすがに疲れたけど精神は何故か安定した気がする。


「よし。今日はバイト初日だし、1日ちゃんと労働で埋まるな」


 仕事はロールボックスパレットという、よくスーパーなどで見かけるような台車付きの網かごに指定の製品を必要なだけ積み込むというもの。

 積み込む順番などは指示書に書かれているので作業者の僕は順番通りにパレットに積んでいくだけなんだ。頭はあまり使わないけど、体力のいる仕事だよ。


 大した力のない16歳の僕の身体でも27歳の頃に比べれば動けるし、鍛えればその分返ってくるものも大きい。

 瀬長たちにあっさりとボコられたのが悔やまれるので、この夏は身体も鍛えようと思う。空いた時間は筋トレというのもアリかもしれないな。




「よっ、おつかれっ!」

「あれ、今日は野添くんもいたんだ」


「俺は今日、あっちの倉庫だったからな。どうだ、初日の感想は?」

「楽は楽だけど体力はいるね。頑張って鍛えないと保たないや」


 野添くんはもうこのバイトを1年以上やっているそうで、お陰で体力も筋力もついて、彼女さんにも喜ばれているとか。何を喜んでいるのかは知らない。知りたくもない。



 さて今日は夏休みに入って最初の部活動日。


「おはようございます。せんぱい、早いですね」

「いつもの時間に目が覚めるから、いつも通りで通学してきたんだ」


「休みなんですから、もう少しゆっくりすればいいじゃないですか?」

「まあそうなんだけどね」


 社畜に遅刻の文字はないからね。遅刻なんてしたらどんな酷い目に合うかわかったもんじゃなかったからさ。習慣は直らない。


「僕、昨日が初バイトだったんだけど花楓も昨日が初じゃなかったのか?」

「はい。私も初バイトでした。生まれて初めてのアルバイトなのですごく緊張しましたよ」


 ただでさえ人見知りする花楓がカフェレストランのホール係として働くとなるとどれだけ緊張したのか想像しただけでもお腹痛くなりそう。


「でもなんとかなったみたいだね」

「先輩方やお客様にまでフォローしていただいてなんとかかんとかやり遂げることができました」


 お客さんにフォローされちゃ駄目じゃないかな⁉


 その後は本を読んで時間を潰す。一応、読んだ本の書評なども書く予定なので、メモなど取りながらちゃんと部活する。

 花楓も同じことをしているが、宿題に本の内容をまとめて感想を述べる、というのがあるらしくそっちを先に片付けるようだ。


「せんぱい、宿題って明後日みんなでやるんですよね? どこでやるんですか?」


「それ、僕も知りたかったんだけど。和泉がなんか用意するとかなんとか言っていたよね」

「なんでしょうね、用意するって」


 学校の図書室でもいいんだけどね。教師は普通に学校に通勤してきているので、図書室は毎日開いている。要するにこの部室も完全にフリーだからここでもかまわないんだけどね。


「そう言えばせんぱい」

「なに?」

「私、もう現国の宿題半分以上終わらせました!」


 えっへん! と胸を張って自慢する花楓。自然と僕の視線はその大きな果実に行ってしまうのですが、これは不可抗力ですよね?

 聞くとことによると女の子って胸に行っている男の視線は分かるって言うけど本当なのかな? もし本当なら今の状況はマジ恥ずかしいのだけど……。


「あのぉ、せんぱいはやっぱりはみ乳していた三角ビキニのほうが良かったですか? えっと、私……せんぱいに見られるのは嫌じゃない、ですよ。み、見たいなら……」


「……」


 あまり刺激的なことは言わないでください。ただでさえ下ネタを偶に散りばめる花楓が恥ずかしそうに頬を染めながらそういうこというと本気にしちゃいそうです。


「あ、じゃなくって! せんぱいは宿題、どうなんですか? 最初の方に集中して片付けちゃうみたいなこと言っていましたよね?」


「えと、ほぼ終わったかな? あとは小論文とかそういうのだけが残っている感じ」


「いくらなんでも早すぎじゃないですか⁉」


「えっと、暇だったのでつい……」


 瑞希も学校のプール学習とかでいなかったから、余計に捗っちゃったんだよね。瑞希がいたら瑞希と遊ぶのが優先になるからね。


「もうっ先走りすぎですよ。勉強会の場所は和泉先輩が来てからでいいですね。プールはどうします?」


「それも和泉が来てからでいいんじゃないかな。僕らはそういうキラキラしたスポットには疎いじゃない?」


「ですよね。でも考えてもみてください。私やせんぱいがプールに遊びに行くんですよ⁉ すごいことじゃないですか?」


 和泉と付き合うようになって花楓もかなり変わってきていると思う。今までだったら絶対、陽キャでリア充な人たちが遊びに行くような場所に僕らは赴かなかったはず。


 一周目と違い和泉と絡めるようになって僕自身もだいぶ変わった気がする。自分だけでは変えられなかったことも和泉となら出来る気がしている。


「僕一人じゃプールとか海には行こうとも思わなかっただろうな」


「ですよね。和泉先輩のバイタリティには感服ですよ。まったく。私までバイトに引き込まれるとは思ってもみませんでしたからね」


「お陰で花楓まで陰キャ抜けできそうな感じじゃないか?」


「そうですね。私もこの夏で一皮むけるというか、ひと膜破れるかもしれないですね、せんぱい」


 さっきのビキニの話もそうだけど、僕と二人きりのときちょいちょいエロネタ入れてくるのは何なのだろう?

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