第29話

「あ、いいね! 瑞希ちゃんにピッタリだよ。すごくいい」


「可愛いですね、さすがお兄さんですね。妹さんの似合うものよく分かっていらっしゃいますね、せんぱい」


 和泉と花楓が戻ってきてくれたので、僕を不安にさせる小声は霧散した。よかったよ~!

 精神に引っ張られているのか少々僕の顔立ちが老けて見えるようで、幼く見える瑞希と一緒だと不審者に間違われやすいみたいだな。


「瑞希。瑞希は積極的に僕のことはお兄ちゃんって呼ぶんだよ。わかったか?」

「? わかんないんけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんだからお兄ちゃんって呼ぶよ?」


 早速お兄ちゃんの連呼。よろしい。僕の心の安寧のためにも積極的に呼んでくれたまえ。僕らは兄妹、どこから見ても兄妹だからね!


「瑞希ちゃんの水着が選び終わったんだから、こんどはわたしたちの水着を選んでよ。誠志郎くん?」


「本当に僕が選ぶのかい? 花楓もそれでいいの?」

「はい! せんぱいの好みに私を染めてください」


 ちょっと言い方……。


「じゃ、じゃあさ。せめて二人の好みぐらいは教えてよ。カタチとか色、柄とかあるでしょ?」


 小学生の瑞希の水着でこれだけ苦労したせいで、全くのノーヒントでは求められる答えには絶対にたどり着けない自信だけは持つことができた。


「去年が白色のよくある三角ビキニだったから、今年は柄物のちょっと大人っぽいビキニがいいかなぁ」


 三角ビキニがそもそもわからないので、スマホですぐに検索してみる。なるほど、これはエロいな……。


「やだ、誠志郎くんがエッチな顔してわたしのこと見てくるぅ~」


「み、見てないから!」


「ええぇ~そういう風に見てもいいよ。誠志郎くんなら全部許すから」


 一周目で性風俗とかそっち方面に仕事を持っていくような人はこのころから言うことが違うんだな……。今回はそっち方面には行かないとは思うけど、根っこは同じかも。


「い、和泉先輩! せーしろーせんぱいのことそんなに揶揄ってはダメです。揶揄うのは私の特権ですからっ」


 ちげーよ! 二人とも僕のこと揶揄うの禁止でよろしく。


「いいじゃない? わたしも誠志郎くんのこと揶揄いたいし。そんなことよりもカエデちゃんはどんな水着がいいのかなぁ。巨乳ちゃんだしなんでも似合いそうで羨ましいですねぇ~」


「なっ‼ あうっふ……。わ、私は地味なのでいいです……」


「だーめ! そんなんじゃ誠志郎くんは喜ばないよ⁉」


「えっ……じゃ、じゃぁ、頑張ります……」


「私がアドバイスしてあげるからいいもの選んでもらおうね。お互いに」


「はい」


 途中から、向こうを向いてコソコソと二人で話し合っているのだけど、僕に害はないよね? ただ水着を選べばいいんだよね?


「それで僕はどっちから選んでいけばいいのかな?」

「あ、私のからお願いします、せんぱい」


「わたしがアドバイスしてあげるから、至高の一着を誠志郎くんは選ばないと駄目だからねっ」

「……無茶言うなよ」


 最初は本人の強い希望もあって小花柄のヒラヒラの付いたワンピースを試着してみたんだけど、早々に和泉からダメ出し食らっていた。


 僕もガッツリ見たわけではないけど、なんか幼稚園児のお母さんが着ていそうだと思った。本人には言えないけどね。


 次のものは和泉セレクトのビキニ。普通の三角ビキニらしいんだけど、花楓が着けると下乳がはみ出るとのことでNGだったらしい。僕は見ていない。見せてもらえなかった。

 女の子の水着姿に興味がないかと言われれば興味はガッツリあるので見せてもらえるなら見てみたい気がする。ただちょっと恥ずかしいのはあるけど。


 ボーっとしてないで見つけてこいと言われて、仕方なく瑞希を連れて水着を物色した。一人で女性用の水着を探し回る勇気がなかったので瑞希を使ってしまった。もうロリコン疑惑は晴れたので堂々と瑞希を連れ回せる。


「お兄ちゃん、これなんかどう?」

「お、うん。いいかもしれないね。ホルターネック? よくわからないけどこれを勧めてみよう」


 デニム生地っぽい水着。上がホルターネックというカタチらしく、アンダーはホットパンツっぽい作りになっている。地味ではないけど派手でもないような気もしなくもない。


「ダメージ加工っぽく、端々がぼろぼろだけどこれってそういうものでいいんだよな」


「ホントに壊れているものは置かないだろうから大丈夫だよ。早く花楓おねえちゃんに持って行ってあげようよ」


 試着室の前で待っていた花楓にその水着を渡す。若干引きつったような笑顔を見せていたけど、駄目だったかな? 隣で和泉は満面の笑みだったけど。


「じゃあ、試着してみようよカエデちゃん! これはいいかもしれないよ」

「ほ、本当ですか? 嘘ついたら先輩でも許しませんよ?」

「大丈夫だよ。誠志郎くんが選んでくれたんだから間違いないよ」


 そういうプレッシャーは僕的にもノーサンキューですので余計なこと言わないでください。


 程なく着替え終わった花楓が試着室のカーテンを開けた。


「あ………」


 思わず息を呑む。羞恥で赤く色づいている肌色が艶めかしい……。でも、すごく似合っていたし、花楓の明るい面が前面に押し出されているような感じですごく可愛かった。

 これは決定でいいと思う。





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