第26話

「花楓って夏休みの予定ってある?」


「私にキャッキャウフフな予定があると思いますか?」


「いや、別にキャッキャウフフな必要性は皆無だけど? 墓参りとかさ」


「どうせ私には墓参りぐらいが丁度いいってことですよね。せんぱいがどう思っているかわかりました」


 別に花楓を貶すとかはまったく考えていないし。濡れ衣もいいところだよ……。


「勘違いだって! 夏休みの部活の予定を決めたいと思ったからまず花楓の予定を聞いたんだよ」


「あ……。そういうことだったんですね。ならいいです。予定はありません。夏休み期間中は毎日自宅にいます」


 この僕でさえこの夏は瑞希と一緒に遊びに行くことは約束させられているのに、花楓はまったくの無なのか⁉


「やっほー! ふたり、いるぅ~ っていた!」

「和泉。さっき振り」


「こんにちは先輩」

「遅かったね」


「うん。なみへーたちと駄弁ってた。けっこう楽しいんだよ」


 なみへーとは僕の席の隣の痩せているくせにボインな荏田川さんのこと。荏田川奈美恵の奈美恵をもじってなみへーになったという。

 華の女子高生のニックネームがなみへーで良いのだろうか? 髪の毛1本立ちにならないか?


 先日野添くんと一緒に話していたときに彼女たちとも仲良くなったとか。ちなみに荏田川さんはカーストとか気にしない普通のJKである。


「今は夏休みの部活動について花楓と話していたところ」

「そうなんです。せーしろーせんぱいが私のこと蔑んでくるんです」


「してねーよ。いい加減なことは言わないでくれるかな」

「ふーん。仲がいいのね。わたしも混ぜなさいよ」


 なぜ和泉が部活動の話に首を突っ込んでくるかと言うと、彼女もまた文芸部の部員になったから。

 なんで本も読まないのに文芸部に入りたがったのかは分からないが、3人なら花楓と二人で気まずい雰囲気になることもないと思い快諾した。

 タイムリープしたあとは花楓と気まずくなったことは無かったと思うけど、この先はどうなるかわからないからね。


「話を戻すけど、夏休みの活動は週に1回で毎週火曜日とかはどうだろうか?」


 火曜日にしたのは特に意味はない。指定をして促したほうが決まるのが早いと思っただけだ。


「週に1日だけだと私の夏休み中の外出が4~5回だけになってしまいますが?」


「それは無関係でしょ? 出かけるのは自力でも出来るじゃないか?」


 部活動は花楓の外出のためにあるわけではないんですけどね。遊びにくらいは行かないのだろうか? 行かないよね。一周目の僕もどこにも出かけなかったから分かる。


「じゃあさぁ。部活以外にも3人で遊びに行こうよ。プールとか海とか。あ、夏祭りもあったね」


 ここで和泉がこんな爆弾を放り込んでくる。


 コミュ障陰キャに夏のプールも海もなかなかハードルが高いものだ。祭りもリア充感が満載で壁が厚そう。


「あれ、誠志郎くんは野添くんとそんな話をしていたからてっきりそういうところに出かけるものと思っていたけど?」


「あれは単に話のきっかけでしかなくて、本当に出かけるにはちょっと……」


「じゃあ予定がないなら構わないわよね。わたしと一緒にプールも海もいこうよ」


「お、おう」


 押しに負けて思わず返事してしまった。


「いいお返事いただきましたぁ~じゃあ予定を立てないとね! カエデちゃんも行くよね?」


 部活の予定を組むはずだったのにどんどんと夏休みの遊びの予定決めにシフトしていっている。恐るべしコミュ強陽キャ!


「私、水着持っていないです」

「僕も持ってないよ」

「じゃあこの後買いに行こう。誠志郎くんに水着選んでもらおう!」


 ポンポンと予定が埋まっていく。えっと、水着選ぶってナニ?


「あ、私今日お金ないです……」

「そっか。今日の今日じゃお金の用意ないもんね。じゃ、明日ね」

「え、あ、はい」


 花楓は断るつもりだったのかな? 生返事は怪我の元だぞ⁉


「ああ。お金で思い出したけど、この夏休みから僕はバイトをしようと思っているから遊びに行くのはその合間にしてね」


 今僕はお小遣いをもらっているのだけど月に1万5千円だけなんだよね。これで昼食代も込み。

 学校での昼食費に毎回500円使うとそれだけで20日間で1万円。学食のないうちの高校ではパンを3つ買って飲み物買ったら500円なんてすぐだ。

 もう他に使える余力は5千円のみとか。

 これは流石につらい。この前そういうことすっかり忘れていてマッコで花楓に気前よく奢った後はホントしんどかった……。


 サビ残ばかりだったブラック企業で働いていたときでさえ可処分所得から公共料金家賃等の固定支出を差し引いても10万円弱は手元に残っていたのに……。

 まぁ一周目の高校時代は誰とも遊ばなかったし、物欲もほぼなかったののでこれで十分すぎたんだけどね。


「遊ぶにしてもお金は必要だし、わたしもバイトしようっかなぁ。あっ、いいこと考えた! カエデちゃんも一緒にやろうよ」

「え、あ、はい」


 花楓、安易に返事しすぎ。和泉は意外と強引なところあるみたいだから引き返せなくなるよ⁉


「やった! 実はね、ちょっと調べてあるんだよね~。ここなんだけど、ほら! 制服が可愛いでしょ?」


 和泉が見せてきたのは市内にあるカフェレストランのアルバイト募集広告だった。女性フロアスタッフの制服がメイドっぽくて確かにかわいい。


「え、あ、はい」

「じゃあスマホで――はい、二人分で今応募したからね! 面接は夏休みに入ったらすぐだね! 一緒に頑張ろうねっ」


「え………あ………はい……」


 花楓ぇ~‼





 ※

 楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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