第24話

 和泉の教室での立ち位置は微妙なことになったものの、眼の前には夏休みが迫ってきている。

 長期休暇の間にほとぼりが冷めてしまえば、以前と変わりなく接することは出来るはず。高コミュニケーション能力な和泉なら問題ないっしょ。


 でも今は陰キャな僕と友だちしているわけで、別の意味で孤立するかもしれない危惧がある。陰キャと陽キャじゃ水と油だもんね。


 だがこれは僕が周りと馴染んで陰キャを脱すれば解決しそうなので僕自身が頑張ればいいこと。別の意味で精神年齢が10歳も下の子達と仲良くするのは少し大変だと思うけど、ここは大人の余裕で熟していきたいと思う。


 そうと決めたら早速声を掛けてみよう。


「野添くん夏休みってなにか予定とかってあるの?」

「ど、どうしたんだよ、急に」


 野添くんは僕の前の席に座っている陽キャでも陰キャでもないごく一般的なイチ生徒である。顔もフツメンだし、成績も確か平均値辺りだったと思う。


「いや、僕はこれと言って予定がないので参考になることでもないかなと思って野添くんに聞いてみたんだ」


「そういうこと? まぁいいけど……。俺は週3でバイトに入っているし、やることと言ったら彼女とプールに行ったり海に行ったりするくらいじゃないかな。うちの市内で七夕まつりあるんだけど、それは行く予定だよ」


「バイトやってるんだ。何のバイトなの?」


「高速のインター近くに倉庫街あるだろ? あそこの一つでピッキング作業をやってるんだ。けっこう楽だし金にもなるぞ」


 インターチェンジの近くは僕の通学コースだからよく知っている。大きな倉庫がたくさん集まっているのは知っていた。なるほど、あそこが野添くんのバイト先なんだ。


「へ~いいね。羨ましい」


「そうだ、佐野もやってみないか? いまうちの会社人手不足だからすぐに雇ってもらえるはずだぞ」


「ホントに? じゃあ都合が付きそうなら連絡してみようかな?」


 野添くんのバイト先の連絡先と場所を教えてもらった。野添くん、案外とよく喋る子なんだな。一周目のときはぜんぜん話さなかったけど。


「あと、野添くんって彼女いるんだね」

「あ、おお。い、いるぞ」


「学校の子?」

「いや。幼馴染の子だよ、別の高校に行っている。春先に告白したらOKもらえた。で、それから――」


 野添くん、面白いほどいろいろと話してくれるな。僕が1言うと10くらいは返してくる。まあ一応僕も社畜的交渉術MAXの身振り手振りを合わせて気持ちよく話してくれるように促してはいるんだけど。


「なんか楽しそうじゃない、誠志郎くん」

「あ、和泉。いま野添くんの彼女の話を聞いているんだ」


「へ~野添くんの彼女? ねぇ、写真あるの? 見せてよ。名前は? なにちゃん?」

 さすが高コミュなだけあるな。いきなり話に入ってきて、プライベートなところまで一気に攻め込むのか。


「えっ⁉ 飯館? は?」

「野添くんゴメンね。和泉はこれまでの癖が抜けてないみたいなもので、陽キャのノリで言っただけだから気にしないでよ」


 フォローはしておく。とっさにフォローの言葉が出るのも社会人のときに染み込んだ僕の癖だったりする。うまくフォローできないと後で上司にどやされるから仕方なく身についたんだけどね。


「え? 名前呼び……。佐野って飯館と仲良いのか? あ、そう言えばテスト前の事件ってお前も噛んでいたんだっけ?」


「噛んでいたってほどじゃないけどね。その前からは和泉とは友だちだったよ」

「ね~誠志郎くん。なっかよしだよね」


 野添くんが僕と和泉が話すのにびっくりしているから和泉も悪乗りして余計に仲良しアピールしているんだろうな。教室でここまで話すのは初めてだしね。


 僕たち3人がやいのやいのと騒いでいたら、いつの間にか隣の席の荏田川えだがわさんが話に加わってきて余計ににぎやかに。

 そのうちに野添くんの友だちや荏田川さんの友だちまで加わってきたらなかなかの大所帯になってしまった。

 どうも和泉が孤立するっていう心配は杞憂だったみたいで、きっかけさえあれば今まで通り皆と仲良く出来そうだ。






「さっきはありがとう」

「? なにかしたっけ?」


「野添くんと話していたとき、わたしも話にまぜてくれたじゃない。ちょっと強引だったかと思ったけど、誠志郎くんが上手にフォローしてくれた」


 あれは癖みたいなもんだしね。気にするレベルのものでもないと思う。


「別にいいよ。あれでなんとなくみんなと仲良く喋れたんだから和泉のほうがすごいと思うよ」


「喋るだけなら今までの経験があるからいいけど、友だちになるのは直ぐにはちょっと難しいかなぁ」


 グループ内で自分以外の全員から裏切られたらそうなるよね。仕方ないと思うし、焦る必要もないと思う。


「友だちなんてそのうち出来るよ。そう言えば隣のクラスには皿元とかいなかったっけ? そいつはどうなの」


「ああ、優里ね。彼女の彼氏が大輝ってやつなんだけど、それの知り合いってやつらが瀬長とか茜のこと唆した張本人なんだよね」


 タイムリープ初日に和泉を観察していたとき皿元が”大輝の知り合いとかも来る”なんてことを言っていたような気がする。その知り合いってやつが悪いやつなのか?


「そいつらオモテでは合法なガールズバーとかメン地下事務所を経営しているんだけど、ウラじゃグレーだったり真っ黒だったりすることいっぱいしているみたいなんだ」


 そんなのと繋がりのあるヤツとは友だちになれないわな。胡散臭さでむせる。





楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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