第23話

 期末テスト直前に暴力事件で生徒が4人も逮捕された。パトカーやら救急車が数台きてそれなりに大騒ぎな様相だったと聞く。


 まだ放課後の時間だったから良かったものの、けっこうな人数の生徒が事件に動揺してしまったようで、期末テストは一週間後に延期されることとなった。


「一週間遅れたから痛いのも治ったし、助かったな」

「そういう問題なのですか?」


「そうじゃない? 花楓だって余計に一週間勉強できたでしょ?」

「まあ、確かにそうですけど。せんぱいはそれで良かったんですか?」


 何か悪いことあるかな? 最高に都合がいいじゃん!


「ごめんなさい。わたしのせいで……」

「え? 違います! 飯館先輩のこと責めているわけじゃないです」


「そうだよ。飯館さんは被害者だし何も悪いことないよ。飯館さんだって割増で勉強できたでしょ?」


「もうっ、せんぱい呑気すぎです」


 そうかな。一週間の猶予と平均点を下げるかもしれない生徒たちの動揺。全部僕らの都合のいい方に動いた気がしてならないんだけど。

 一番動揺しているのが飯館さんみたいだったからここはプラマイゼロかもしれないけど。


「誠志郎くんは病院のベッドで寝ていて勉強できていないんじゃないの? 大丈夫なのかな?」


「無問題。今回も学年1位か、最悪5位以内には入る予定だから。僕は平気だよ。それよかなんでいきなりな名前呼びする? 飯館さん」


 期末テストよりそっちのほうが気になるし!


「えっと。病院でご両親や瑞希ちゃんと一緒にいることが多かったから。かな」

「つまり全員佐野だから、名前呼びすると?」


「だからわたしのことも和泉って呼んでね」

「え? なんで?」


 僕のことを名前呼びするのは理由があるかもしれないけど、僕が飯館さんを名前呼びするには理由がない。


「海凪さんだって、名前呼びじゃないっ! なんでわたしは名前で呼んでくれないの?」


 花楓は――なんで名前呼びなのだろう。『そうなったでしょ』的なことは言われたけど本当の理由は知らん。10年も前のことだから忘れた、と言えなかったんだよな。


「んーーーーーー。わかったよ、和泉。これでいいんだろ、和泉」

「! ……//」


 僕がそう呼ぶと、なんか和泉が真っ赤な顔して俯いてしまった。なんだか同じような経験がちょっと前にもあったような気がする。

 花楓が横でむくれているのは謎だけど。






 期末テストは当初の予定通り1位を獲得。割りと余裕だったな。


 花楓は一週間余分に勉強できた甲斐があり数学は赤点回避。他の教科も平均点ぐらいは取れていた。国語は100点を取ったらしい。


 いいだ……じゃなかった。和泉は概ね赤点は免れたけど、コミュニケーション英語、世界史、古典の3教科は赤点を食らったみたいだ。

 3教科とも補習講義ではなくレポートの提出で済むらしいので、夏休みは謳歌できるだろうとのこと。


「せんぱい、本当に余裕だったんですね。病院で言っていたのはただの強がりか和泉先輩に気を使っているかのどっちかだと思っていました」


「そんな訳無いじゃん。これしきのこと僕にはよゆーだよ」


「なんだかムカつきますね。さぞお勉強で出来て得意げなんでしょうね」

「いや、そういう意味じゃないし……」


 ちょっと自慢げにしたら、平均点そこそこだった花楓にすると嫌味にしか聞こえなかったらしい。


「やっほ」

「ああ、飯館さん」

「……やっほ?」

「飯館さん、どうしたの? もう勉強会はないけど⁉」


 テスト明けなので、今日はふつうに部活動をしている。特に何かをやっているわけではないけれど。


「飯館じゃない」

「?」

「だ、か、ら! 飯館じゃないからっ」

「あ、はい。そうだったね。和泉、いらっしゃい。で、今日は何用かな? 暇潰し?」


 和泉の所属していたクラスでの陽キャグループは瓦解してしまっている。


 他のグループに所属しようにも、瓦解の理由が理由だったのでクラスでも和泉は現時点、若干浮いた存在になってしまっている。要は取り扱いにみんな困っているって感じかな。


 一周目の予定調和から外れてあの4人が退学となってしまったからね。ここは一周目との違いが大きすぎてびっくりするところね。

 だから遊ぶ相手がいなくて暇なのかなぁなんて思ったわけで。


「誠志郎くん、わたしに何用とはご挨拶ね。それに暇潰しって何よ、ちょっとひどくない?」

「えっ? なにか悪いことしちゃったかい」

「友だちのところに遊びに来たらいけないのかしら?」


 友だち? 誰。花楓が和泉の友だちになったのかな。仲良く勉強していたし、短い間に友誼を結んだのかもしれない。


「どこ見ているの? 私の友だちはあなたよ。誠志郎くん」

「ぼく?」

「あなた以外に誰がいるっていうのよ?」



 僕、佐野誠志郎には友だちがいない。


 一周目はもちろん、二周目の今も友だちと呼べるだけの間柄の人は未だいない。


「えっと。和泉が僕の友だちになってくれるのかい?」

「今さら? わたしはとっくに友だちのつもりだったけど、違うのかしら?」

「いいのか?」


 飯館和泉の友だちといったら陽キャでイケてるのが必須だと思っていたんだけど、僕みたいな陰キャ崩れでも構わないのだろうか?


「当たり前じゃない。わたしは友だちだと思っていた人たちが友だちじゃなかったのよ⁉ で、今絶賛ボッチなんですが!」


「……そだね」


 5人組の内4人に裏切られたんだもんな。なかなかきつそうだ。


「もし良かったら、私も入れてくれませんか?」

「もちろんよ、カエデちゃん。3人で仲良くやりましょうね!」






楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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