第19話

 お兄ちゃんの帰りが最近遅い。ちょっと前まで夕方には家にいたのにここ最近は日が暮れるちょっと前まで帰ってこないの。


 確かテストが近いと言っていたと思うのだけど、前は必ず家で自分の机に座って勉強をしていたんだよ。


 聞いてみたら学校で試験勉強をしているっていうじゃない? 可怪しい。


 いままで放課後に学校で試験勉強をしてくるなんてことは一度もなかったと思うんだよね。だってお兄ちゃん、学校ではボッチだっていうから放課後一緒に勉強をする友だちなんているわけないもん。


「ただいまぁ」


 やっと帰ってきた。時計を見るとやっぱり7時半。遅いよ!

 夕飯はお母さんと二人でもう食べちゃったから夕飯はお兄ちゃん一人で食べることになる。


「おかえりなさい! ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

「…………。瑞希、それお前意味分かっていて言っているのか? お腹すいたしご飯がいいかな? 着替えたら食べるよ」


 それだけ言うとお兄ちゃんは洗面所で手を洗って二階の部屋に行ってしまった。


 せっかく待っていたのだからウチを選んで遊んでくれてもいいんじゃないのかなぁ。それに意味分かっているかってなんだろう?



 お兄ちゃんが黒のTシャツと黒のスウェットパンツに着替えてきたからウチがお夕飯の用意をする。

 お母さんはお仕事でお疲れだからソファーに寝転んでテレビでも見てのんびりしていればいいと思います。お兄ちゃんのお世話はウチの仕事よ。


「お兄ちゃん、この前の動物園に行った時の服装はかっこよかったね! ビシって決まっていたよね!」


「あ、ああ。サンキュ。あれくらいしか方法が無かったんでね。次からはもう少し色彩を増やすことにするよ」


 お兄ちゃんが着るならば何でもカッコいいと思うよ⁉ まぁ真っ黒は流石にちょっととは思うけどね……。今は真っ黒だね。



 今はこんなに仲がいいけどほんの少し前まではお兄ちゃんとはものすごく仲が悪かった時期がある。


 ウチに初潮が来て体つきも子供から大人に少しずつ代わり始めた頃。お兄ちゃんのことがものすごく不潔で不快なものに感じてしまった。

 その頃から呼び方もお兄ちゃんから兄貴に変えたし、いつも一緒に遊んでいたのに一切話すことさえやめた。同じ場所にいることさえ耐えられないほど嫌っていたかも知れない。


 あの日もお母さんが早番で家を出ちゃうって言うからお兄ちゃんの部屋まで起こしに行ったんだ。お母さんに言われて仕方なく。


 部屋に行ったらもう起きていたからちょっとムカついた。起きているならさっさと降りてこいよ、って。

 そうしたらお兄ちゃんたら、起きているのに寝ぼけていたみたいで――。


「ふあっ、ミズキーっ‼ ごめんよぉ、兄ちゃん勝手なことして……。おまえを一人残して勝手に行くなんて」


 突然ベッドから立ち上がってウチのことを抱きしめてきたの。しかも泣きながら。

 ウチはちょっとパニックになっちゃったのでお兄ちゃんが何を言っていたのかまでは分からないけど抱きしめられてそれはもうびっくりしたの。


「な、なっ、なんなんだよぉ⁉ 兄貴! 離せよっ」

 恥ずかしくってドキドキしてちょっと抱きしめられたまま暴れちゃった。


「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ」

 何故か謝ってくるお兄ちゃんにウチの目もグルグル。


「も、もう!」

 限界が来て思わずグーでお兄ちゃんのこと叩いちゃった。

 そしたらなんか冷静になったみたいでお兄ちゃんはウチのことを離してくれた。


 このときウチの中で何かがかちりと切り替わったと思う。大嫌いな兄貴だったけど、抱きしめられてお兄ちゃんの気持ちや温かさを感じたら嫌いなんて気持ちがスッと消えたの。

 寧ろ好きって感情がお腹の奥深い内側から溢れんばかりに出てくるの。

 自分でもこれが何なのかはわからないけど、お兄ちゃんのこと大好きになった。また大好きなお兄ちゃんと遊びたい仲良くしたいって思った。理由なんていらないよ。

 愛に理由を求めるなんて野暮なことはご遠慮願いたいからね。


「もうなんなのよ! あに、お兄ちゃん、キモい。早く降りてきてご飯食べちゃいなさい! もうお母さんも早番だってお仕事行っちゃったよ」


 なんて言うのが精一杯だったよ。たぶんウチの顔は真っ赤だと思う。すごーく顔が熱かったし、ものすごくニヤけていたと思うんだ。やだ、恥ずかしい。




 お兄ちゃんはウチのことを思いっきり甘えさせてくれる。一緒の空気さえ吸いたくないなんて思っていたのが、今やずっとくっついていたいなんて思っているぐらい。

 だから小さかった時みたいにまた一緒にお風呂にも入りたいと言ったら『ちょっとそれは、やめておこう』なんて意地悪された。でも諦めないよ!


 ウチも大概ちょろいなって思うけど、お兄ちゃんに甘えられるならそれくらいの評価はどんと来いって感じ。



 でもちょっと不安なところもあるの。


 お兄ちゃんはウチのこと可愛いっていっぱい言ってくれるけど最近、学校から帰ってくるとお兄ちゃんからいい匂いがすることが度々あるんだ。

 コロンとか香水って言うやつなのかな? 小学生のウチではそれが何なのかわからないけど、そういう女子高校生から匂うような香りがお兄ちゃんからしてくるの。


 勉強なんて嘘で女の子と遊んでいるのかな?

 そうだたったら嫌だなぁ……。


 お兄ちゃんはいつまでもウチだけのお兄ちゃんでいてほしいなぁ。




楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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