第17話
テスト前期間なので部活動は全部活休止中。故に特別棟には人影が少ない。ここには図書室も自習室もあるのだからもう少しくらいは生徒がいてもいいと思うのだけど、やっぱりうちの学校のレベルじゃ期待しても無駄かな。
図書室もいつもなら図書委員が開け閉めするが、この期間は司書の先生が担当する。貸出は休止で返却は返却用の棚に返す本を置いておくだけでいいらしい。
「手紙の人はいるかな?」
わざわざ無記名の手紙で、しかも誰にも気づかれないようにそっと僕の机に置くくらいだから、あまり周囲に見られると困ったり嫌だったりするのかも知れない。
だから図書室でも書棚の陰にでも隠れてそっと僕が図書室に入るのを待っている可能性もあったりして。
と、思っていたけど違っていたのは想定外。
「あっ、待っていたわ、佐野くん。あんな手紙の呼び出しに応じるなんてあなたも律儀ね」
図書室の無人のカウンターの前で堂々と立って僕のことを待っていたのは、これまた想定外の飯館さんだった。
「あ、いや……。も、元から図書室には用事があったから来る予定ではあったん、だ。けど、えっと飯館さん?」
「そうよ。わたしは飯館和泉。佐野くんとはクラスメイトだよ」
「あ、はい。知っています。それより僕の名前、よくご存知ですね」
「2年連続でクラスメイトだしね。知っているよ」
長髪で陰キャだんまりのガリ勉佐野って言っていたもんな。今回も一応は認識されていたか。
「あ、で。飯館さんが何の用事でしょうか?」
「もうっ、そんなに敬語で話さなくっていいよ。同級生だよ! でね、わたし、佐野くんにお願いがあってね――」
「ああっ、ちょっと。ちょっとごめんなさい。もう少し声のトーンを落としてくれないかな? 一応ここ図書室なんで」
さっきから読書スペースで勉強をしているらしい方々から迷惑そうな視線がチラチラと痛いんですよ。一応、勉強する人もいたんだな。
彼らは図書室の常連さんたちで、まあ、僕と同類だったりする大人しめな人たちなので声を荒らげて怒られるようなことはないとは思うけど。
「あ、ごめん……」
「話あるなら、そっちの奥が文芸部の部室なんでそっちで聞くよ」
物の弾みとはいえ飯館さんを部室に招き入れてしまった。
花楓に対してはビッチ上条耐性で乗り切ることが出来たけど、飯館さんには違うベクトルもあるのでちょっと緊張する。
彼女とはまるで心中のように手を繋いで寄り添って逝った
一周目では関係などただのクラスメイト以上にはならなかった彼女と二人きり。しかも密室なので混乱してしまうのも仕方ないだろ?
ただ前回はよく気にしていた陽キャと陰キャとかカースト上下などの格差は今の僕にはあまり影響はない。所詮はあんなモノ狭い学校の中でのオアソビでしかなかった。社会に出てからの格差たるや信じたくないレベルだったもんな。
「どうしたの?」
「あ、いいや。なんでもないよ。狭くてインク臭くてゴメンね」
「ううん、インクの匂いは嫌いじゃないよ。広さも、佐野くんと密着するほどぎゅうぎゅうじゃないから平気だよ」
ちょっとぎゅうぎゅうな場面を想像しちゃったよ。これはギルティ……。
「で、えっと何だっけ? そう。お願い、って何かな?」
「うん、あのね。迷惑だったら考えることなく断ってくれてぜんぜんおっけーなんだけど――」
「うん」
「わたしに、勉強を教えてくれないかな?」
彼女はどうも期末テストを前に勉強をしなければならないと一念発起したらしい。
その理由はあまり言いたくないと言うことなので無理に聞くことでもないのでスルーすることにする。
しかし、彼女はいざ勉強をすると言っても今まで大して勉強をしてこなかったのでどうやればいいのか検討もつかないという。
しかも遠藤茜の言動を見ても分かるように、飯館さんの友だちには勉強なんてするほうが可怪しいという謎のコンセンサスがあるようなのだ。
よって彼女としても大っぴらには勉強したいという態度を見せることは出来ないようで、今回のようにこっそりと僕にコンタクトを取る以外に方法がなかったという。
「あの子達、悪い子じゃないとは思うんだけどちょっと流されやすいし自分に甘いのかなぁって。わたしも人のこと言えたクチじゃないんだけどね」
「そうなんだ。でも、勉強を教えるのになんで僕なの?」
たとえ、前回と違って飯館さんが勉強をしようと考えたところで、一周目も今回もまったく絡みのなかった僕に声をかけるというのは一体どういうことなのか?
いくらリスペクトしてくれていたとしても、いざ教えてもらうとなるともう少し近しい関係の人を選ぶのではないだろうか。
「佐野くんは勉強できるでしょ? あと、友だちいなさそうだから吹聴して回ることもなさそうじゃない? あとは、意外と誠実そうだし勉強している最中にヘンなことしなさだしね」
褒められているのか貶されているのかよくわからないぞ。
勉強ができるのも友だちがいないのも間違いではないけど、そんなに僕は誠実ではないし、僕だって男だ。それなりに腹黒いことも考えるかも知れない。
「ヘンなことくらいはするかも知れないよ。ほら、今だってキミのこと密室に誘い込んでいるわけだし……」
そう言いながら、すっと飯館さんのすぐ隣に寄っていく。
「えっ⁉ さ、佐野くん??」
「せんぱーい! おまたせ、し、ま……し、た? だだだだっだだっダレ⁉」
※
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