第16話

 良い意味で想定外の週末を過ごせた。タイムリープ後は今のところトラブルもないし、悪いことも起きていない。


 すこぶる健全だ。


 一周目では有り得なかった平穏な日常を謳歌している気がする。

 心が27歳の大人ということもあるだろうが、とても僕自身、精神が安定しているような気がする。なんというか、何事にも余裕があるのだ。


 これはいい傾向。


 周りではバタフライ効果であろうか、妹の瑞希が前回とまったく違い可愛すぎて嬉しい悲鳴が出そう。花楓のこともそう。疎遠になるはずが、勉強を教えるまで親密――は言い過ぎだけど、仲良くなっている。

 この週末も、メッセージが飛んできては勉強をちょこちょこ教えてやっていた。


 ちなみにだが、僕らが使っているメッセンジャーのアプリケーションはみんなが使っているL○neではなく、超マイナーなwire-upという海外製アプリ。

 メジャーに寄り付かず隅っこに吸い寄せられて行ってしまうのは陰キャの宿命なのだろうか? 二周目だというのに根っこは同じなんだな。


 それにしても花楓はこういったメッセージのやり取りが初めてだったらしく、僕のメッセージ1に対して花楓のメッセージは10から30と大幅に多い。

 全部に対応するのは厄介なので、花楓のメッセージ5から10に対して一回だけ僕は返信している。それでもなんだか嬉しそうな反応が返ってくるので面白いのだが。


 ただ、面白いんだけど、パフォンパフォンと鳴り続けるメッセージ着信通知音には若干辟易。とりま通知音だけはオフにしておいた。

 花楓はまだ音声通話やビデオチャットには手を付けていないようなので、まだマシなのかな? 陰キャにこれらのハードルは高すぎるので越えられないとは思うけど。

 陽キャの子ってそういうの平気そうだから強いんだね。




 今週が期末テスト前週ということもあり、授業も復習やテストの出題箇所に則した授業になっている。復習くらいはやっておこうと思っていたのでちょうどよかった。

 ま、これも一周目で受けていたので内容は大体わかっていたけど。


 ただ幾つか困ったこともあった。

 10年先の未来と、この僕が高校2年生のときでは変化していることがあったりするんだよね。


 歴史的に新しい発見があって過去の常識が覆ったり、社会が変容して10年前の常識が非常識になっていたり。科学も化学も技術もこの先10年でだいぶ進歩していく。

 アップデートされた常識や知識を昔に戻すというのはなかなか面倒な作業だった。


「あーこれ、事実誤認だったことが発表されていたやつだな。でもテストのときは間違っている方を解答欄に書かないと不正解になるんだよね。ああ、頭ごちゃごちゃするぅ」


 未来に発見される事実を10年前の今公表すれば一躍時の人になれたりするのかな? 絶対になりたくはないけれどさ。


「でもそれやっちゃ影響が大きすぎるのかな?」


 過去に戻って大規模な歴史改変を行ったら未来が大変なことになった、みたいな小説もあったな。タイムパトロールに追跡されるとかね。

 僕はそんな大きなことを成し遂げたいとは思っていないので、絶対に手は出さない。小さく自分の周りだけ幸せになれれば御の字だよ。



 そう言えば、クラスメイトに毎日挨拶をするようになったら何人かは挨拶を返してくれるようになったよ。二言三言なら話だってしたこともある。

 なかなか良い傾向だよね。このままこれは続けていこうと思う。僕の明るい未来計画。目指せボッチ脱却!




 放課後は今日も部室で花楓の試験勉強をする予定。部活は試験前なので休みになるけれど、図書室で勉強だと他の自習している人に迷惑かもしれない。なので、部室。

 うちの学校に図書室で試験勉強をするひとがいるかどうかは知らないけど。そんなに学力レベルが高くない学校だからね。

 どのみち他人がいるところで花楓が勉強できそうもないから部室でちまちまやるのは決定なんだよな。


 担任が教室に来ないので帰りのホームルームが始まらない。1時間も2時間も待たすわけでもないので多少の遅れは花楓も気にしないだろう。

 やることもないので始まるまで窓の外でもぼーっと眺めていることにする。


 誰かが僕の机の横をすっと通ったのを感じた。声を掛けられたわけではないのでホントただ感じただけなんだけど。

 ふと見ると机の上には紙片が一つ。折ってある授業中に回ってくる女子の手紙みたいな紙。


(はて、いつの間に?)


 周りを見ても誰だか分からない。だって、ホームルーム前でみんなふらふら歩いちゃ友だちとおしゃべりに夢中。


 手紙を開いてみれば分かるかと思って、そっと開いてみる。


『放課後、図書室で待っています』


 一言だけ。

 差出人不明ですね。


 いたずらだろうか? 一周目のときはあまりにも眼中に無さすぎて誰も僕にいたずらを仕掛けたりいじめをしてきたりさえ一つもなかった。


 それはそれで安心安全だったのだけど、今回のこれは一体なんだろうか?


「花楓の勉強を見るから図書室にはいずれにしろ行かないとだし構わないんだけど」


 思いを巡らせていたらいつの間にかホームルームがとうに始まっていて、なんやかんやの連絡事項があったあと程なく終わる。

 飯館さんも直ぐに席を立ったらしくもういないので今日も観察はナシ。


 毎日こうもが続くと不安に感じてしまうのはなぜだろ。これは社畜ゆえの習慣なのか? いやな癖だよな……。



楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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