第15話

 ひどい目にあった。


 確かに瑞希は背が低い方なので小学校6年生には見えづらいかも知れない。しかし、それとは別に僕が瑞希のことを連れ回しているようには見えないと思うんだけど?


(手を引かれていたのは僕の方だしさ)


 直ぐに瑞希が来てくれて無実は証明されたんだけど、如何ともしがたいこの気持ちはどうしてくれるのだろう?


「たぶんウチ達じゃなくて他に怪しい人がいたんだよ」

「そうかなぁ」


「だってあの職員さん、他の人のところにも声を掛けに行っていたもん」

「……ならいいんだけど」


 なんか気に食わないけれどこればかりは納得するしかないかな。



「お兄ちゃん、お昼だよ。ごはんにしない?」

「もうそんな時間か。ここってレストランとか売店ってあったっけ?」


 なければ一旦外に出ないと昼飯が食べられないな。


「じゃーん」

「なに?」


 瑞希は背負っていたリュックから包を幾つか取り出している。


「お弁当だよ」

「弁当?」


 母さんが作って行ってくれたのかな? 言ってくれれば僕が持っていたのに。


「ウチが作ったんだよ」

「瑞希が? 本当に?」


「お兄ちゃんと一緒に食べようと思って早起きしてお母さんに教わりながら作ったんだよ」

「感動した! ちょっと抱きしめていいかな?」


 兄妹不仲のまま十数年。そのまま非業の死を遂げてしまった僕に幸せがやってきた。


「やだ。ちょっと恥ずかしいよ。そういう事するのはお家の中だけにして」

「家の中ならしてもいいんだ」


「そういうわけじゃないけど……ゴニョゴニョ」

「ヤバい。秘めたるシスコンが発露しそう……」




 うん。余計なことしていないで早く頂こう。木陰にちょうどいいテーブル席が空いていたのでそこでお弁当を開かせてもらう。


「美味そうだな」


 お弁当のごはんはおにぎり。おかずには焼き鮭に卵焼き。タコさんウインナーとマカロニサラダ。ほうれん草の胡麻和えまで入っている。


「頑張ったでしょ?」

「彩りも最高にいいな。さすが瑞希だな」

「えへへへ~もっと褒めてもいいんだよ」


 ではさっそくいただきましょう。まずは卵焼きから。


「うっま! ふんわりと柔らかいくせに噛みごたえもあるちょうどいい焼き加減。味も出汁の香りの中にほんのり甘く舌が喜ぶこの旨さ。最高だな」


「ほ、褒め過ぎだよぉ~」


 褒めろと言うから褒めたのに顔を真赤にしてもじもじとしている。うん、瑞希が正義。可愛い。


「鮭はどうかな……。おお。旨い。ちょっと汗ばむような今日みたいな日にちょうどいい塩加減。それよりも少しオーバーベーク気味でパリパリになった皮が僕の好みにぴったりだ。


「お母さんに聞いてお兄ちゃんの好きな焼き加減にしたんだよ」


 薄い胸を張ってどうだと言わんばかりに得意顔をしているが可愛いしかない。大丈夫、高校生ぐらいの頃には巨乳ちゃんになっているから安心しておけ。




 午後も瑞希のスケッチをのんびり見学させてもらって、終わったら動物園を再度ぐるりと見物して回った。午前中はサイのところで止まったからね。


「キリンの舌って黒いんだね。キモっ」


「象の皮膚ってひいおばあちゃんみたい! シワシワ」


「シマウマって毛を刈ったら何色なんだろう?」


「ライオンのオスがメスの上に乗っているよ! お兄ちゃん、あれは何をやっているの?」


 瑞希は小学生らしく、あれこれと感想やら質問やらをぶつけてくる。

 お兄ちゃん動物博士じゃないから、聞かれても全然わかんないや。最後のもお兄ちゃん、経験ないんでわからないです。聞かないでください。




「お兄ちゃん、疲れた……」

「だろうな。あれだけはしゃいで周ったらそりゃ疲れるだろうよ」


 僕だってもうクタクタだもんな。時間ももう4時だしそろそろ帰るとしよう。



 バスに乗ってとりあえず駅まで。

 地元の駅まで帰ってきたらそこからは自宅までまた歩くことになる。


「お兄ちゃん、お腹すいた……」

「歩き周ったからな。兄ちゃんもお腹すいたよ。帰っても母さん今夜はいないんだろ? どこかで食べて帰ろうか?」

「えっ、ホントに? やったー」


 外食ってだけで喜ぶんだからやっぱ小学生だよな。可愛いもんだ。


「で、何が食べたいんだ?」

「えっと、マッコか、ノスバーガー。バーガークイーンでもいいかなぁ」


 全部ハンバーガーじゃないか⁉ そこまでハンバーガーが食べたいのか?


「母さんから今日のお小遣いって余分にもらっているからどこでも構わないぞ」


 朝方、食卓の上に僕宛ての封書がお小遣い入りで置いてあったのを見つけていた。


「ホントに⁉ パフェ食べてもいいの?」

「パフェだけじゃ駄目だけどな。御飯のあとなら頼んでもいいぞ」

「わーい! じゃあロイキャにする!」


 決まったので、駅そばのビルの2階にあるファミレスに入ることにした。1階がドラッグストアなところ。


 ファミレス。久しぶりだな。意外とファミレスって高コストなので安月給の僕は敬遠しがちだったんだよね。

 大体食事は、立ち食い蕎麦とかうどんか、早くて安くてなお店ばかりだった。ワンコインでお腹ないっぱいな店は開拓しまくったなぁ。


「今日はちょっと贅沢しちゃおうかな⁉」

 ファミレスで贅沢とか言っちゃうのは大人としてどうなのか、とかは言いっこなしで。


楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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