第14話
土日の休みは特にやることがない。ただ一周目と違うのは瑞希がなんやかんやと傍にいて離れないことかな。
一周目の兄妹仲は最悪とまでは言わないが、かなり悪かったので、今回こんなにも妹にベタベタされることに僕は未だ戸惑うばかり。
「お兄ちゃん、遊びに行こうよ」
今朝も朝早くから僕の部屋に無断で入ってくる。いや、いちいち断りを入れることもないけれど。
休日はとにかく寝溜めをして平日に疲弊した心身を少しでも回復するっていうのが身についていたので、タイムリープして一週間では過酷サラリーマン時代の習慣が直らない。
「もう少し寝かせてくれよ……」
実際のところ花楓の勉強を見たのが少し堪えてはいたし、タイムリープ直後の一週間なのでそれなりには疲労も溜まっている。
「やーだー! せっかくの梅雨の晴れ間なのに遊びに行かないなんてないよ~! お兄ちゃん、起きてよ~」
「遊びに行くって、どこに行くんだよ……」
「自然公園の中にある動物園に行きたいの。学校でスケッチの宿題があるんだよ。だから。だめかな?」
あそこか。小さい頃はよく連れて行ってもらっていたな。
「母さんは?」
「今週はお父さんのところだよ。忘れていたの?」
我が家の父親は単身赴任で地方にいるので、月に最低でも1回は母親が父のところに出向いて身辺回りの世話を焼いていた。家事のできない父なので仕方ないのだろう。
「わかったよ。起きるから朝食の用意しておいてよ」
「わーい。ごはん用意するからすぐに来てね」
小学生の妹に食事の用意をさせる高校生の兄。なかなか絵面が悪い気がするが、瑞希が喜んでやっているようなので気にしないでおこう。
食事も終わり着替えようとタンスを開けてみたが、黒い服しか入っていない。
黒Tシャツ、黒チェックのシャツ、黒色チノパンに黒ジーンズ。
それ以外だと胸のところに英字が書いてあるダサTシャツが数枚。広げてみたら『Reset to Default!』って独特なフォントで書いてある。何だこれ? いつ買ったんだろう?
一周目はコレを着ていたんだと思うとものすごく恥ずかしいじゃないか?
さすがにこういうのが鬼ダサだって気づいた後だと着ることが出来ない。さてどうしたものか………。
未開封で仕舞ってあったビーフィーの白クルーネックをタンスの隅から見つけたので、黒ジーンズにこのTシャツを合わせ、黒のカジュアルシャツを上から着た。
白のデッキシューズもあったはずなので足元はそれを履けばいいだろう。
白と黒のモノクロコーディネートだけど思いの外悪くないのでこれで決まりにした。
「お兄ちゃん今日はカッコいい!」
「そうか? ありがとう。瑞希も可愛いぞ」
瑞希はダボッとした黄色系のTシャツ。アメリカンポップなキャラクターがデカデカとプリントされていてなかなか様になっている。
黒チェックのミニスカートも合っていてとても良い。ショートスパッツは恥ずかしさの表れなのかな?
髪型もいつもは簡単に結んであるだけのツインテールなのに、今日は髪を編み込んでツインテールにするなどアレンジを利かせる気合いの入れよう。
「えへへ。ありがとう。お兄ちゃんとお出かけだから頑張ってみた!」
「ううう。妹がかわいすぎる件」
一周目の反動でこのままではシスコンになりそうだ。いや、いっそシスコンでもいいと思う。瑞希が可愛いのは正義しかない。
自然公園に行くには電車とバスを乗り継いで1時間ほど。
「動物園ってどっちだっけ?」
「あっちだよ、お兄ちゃん。忘れちゃったの?」
前回と合わせると15年ぶりくらいになるので記憶が曖昧だ。
「動物園に来た記憶はあるんだけど、場所の記憶とかは全然ないな」
「じゃあ、今日はウチが案内するね。この前遠足できたからよく覚えているんだよ」
「そっか。今日は瑞希にお願いしよう」
「はーい。任された!」
中身的には27歳の僕が11歳の子供と動物園に来ているというのも不思議な感じではあるけど、外見的には16歳の兄と11歳の妹なので問題はないよね?
混んでいるからって瑞希が手を繋ぎたがって繋いだけど問題はないよね? だって兄妹だもんね?
「ねぇお兄ちゃん。ウチ、サイが描きたい」
「サイ?」
「うん。角がカッコいいと思うんだけど、どうかな?」
「いいんじゃないか、サイ。あまり動き回らないイメージだし、描きやすいんじゃないかな?」
小一時間ほどサイの前で瑞希はスケッチをする。
僕はその間は特にやることがないので、近くのベンチに座ってスケッチする瑞希を眺めていた。
瑞希は画才があるのか大胆なのか、サイの頭から肩口ぐらいをアップでスケッチブックいっぱいに描いていた。
(角がカッコいいって言っていたもんな。角メインで描いているんだろうか?)
「申し訳ございませんがお話伺ってもよろしいでしょうか?」
いきなり動物園の職員と思しき人に声を掛けられてベンチから跳ねるほど驚いてしまった。
「な、なんですか⁉」
自分から声を掛けたりするのには耐性はついているけど、他人から突然声がけされるのには未だ慣れていないんだよね。どうしてもびっくりしてしまう。
「あー、すみません。このあたりで小学生の女の子を連れ回す男がいるって通報があったもので確認に回っています」
「はい?」
※
楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます