第12話

「せーしろーせんぱい、やっぱり何かあったんですか? 女ですか? 女ですよね?」


「えっと、花楓。何の話をしているのかな? 僕にはさっぱりなんだけど」


 今日も一日つまらない授業を受けて、今は放課後。文芸部の部室である図書準備室でタイムリープ関連の本を読み返していると後からやってきた花楓になんだか意味不明な詰問をされている。


「じゃあなんで突然こんなにも爽やかな感じなんですか? 可怪しいじゃないですか? 先日もそうですけど、急に大人びてイケメンになって。どう考えても女でしょ?」


「いや。ただ単に暑苦しくて見苦しいから髪を切ってさっぱりしただけだけど? あとさっきから花楓の言っている女って何?」


 イケメンはさっぱりして今までとの落差に目が慣れていなくて勘違いしているだけとして、大人びているのは僕の中身が27歳だからとしか言いようがない。言えないけど。


 今日一日教室で僕のことチラチラ見てくる人が多かったのはそういうことみたいだな。見た目ステータスがマイナス20からプラス3くらいになるだけでも23はパラメーター上がるから変化がでかいってことだな。


 自分自身が思っているほど他人は自分に関心がないと思っていたけどインパクトがそれなりにあったみたいだ。ほんと髪を切っただけなんだけどなぁ。

 習慣として不潔に見られるのは社会人的に宜しくない、ってだけなんだけどね。ま、これも大っぴらには言えないけどね。誰も聞いちゃこないだろうけどさ。


「女は女です。せーしろーせんぱい、好きな人ができたのですか? それとも、もうすでに彼女さんがいるとか?」


「はぁ? 僕には彼女は疎か好きな人でさえ出来ていないよ。花楓、僕だよ? この僕だよ。ありえないでしょ?」


 言っていて悲しくなるけど生涯童貞で彼女いない歴イコール寿命な僕に酷な質問は止めたまえ。


「本当ですか?」


「うん。本当。気にかけている人はいるけど、それはちょっと特殊だからノーカンでいいと思うし」


「やっぱりいるんじゃないですか⁉ 特殊ってなんですか? アイドルですか? 二次元ですか? それともフェチですか?」


「どっちでもないし、僕はフェチじゃないし! でも細かいことは言えないんだ。ごめん、これくらいで許してくれ」


 なぜ花楓に許しを請わなければならないのかは置いておいて、気にかけているのは飯館さんだからちょっと毛色が違うし、どうして気にかけているかは言えない。

 彼女がビルから飛び降りないように、とは口が裂けても言えっこないもんな。


「むぅ……。仕方ないですね。今日のところはこの辺にしておいてあげます」

「ありがとう。でも、花楓はなんで僕のそんなことを気にしているんだい?」


 揶揄われて弄られていたことは覚えているけどここまで花楓って僕にあれこれと構ってきていたかな? これも実はバタフライ効果だったりして。


「えっ? 気にしている……わけじゃないですよっ。なんかちょっと気になったというか……。えっと……なんで気になったんだろう?」



 先日は駅前まで一緒に帰ってマッコに寄ったが、本来僕の家は駅方面ではない。それなので今日は校門のところで花楓と分かれることに。


 別れ際に花楓がものすごく寂しそうな表情をしたのだが、先日が楽しかった分ボッチで帰るのが辛かったのだろう。トボトボ歩く花楓の背中に哀愁が漂う。


 一方の僕は自転車なので颯爽と帰宅の途に着く。若いだけあってこの体は鍛えてなくても非常に軽い! 27歳の愚鈍な身体とは大違いだ。

 そもそも社会人になった頃から自転車自体乗っていなかったので最初はほんとおっかなびっくりだったのだが、意外と身体が覚えているようで直ぐにこれといった問題もなく運転できた。


 自転車以外の移動手段としては例えば高校まで電車で来ようと思えば来られなくもない。というかふつうに来られる。

 自宅から駅まで10分ほど歩いてそこから電車に乗って20分くらいで学校の最寄り駅に着く。そこからはまた徒歩で20分くらい。待ち時間諸々合わせて1時間ほどかかる計算。

 しかし倍の時間とお金をかけて到着する場所は一緒(当たり前)。なんか勿体なくない? って思って電車通学は荒天のときなどの数えるほどしかしていなかった。


 ただ、今の時期は梅雨まっ最中だから雨が降ると合羽を着て自転車を漕ぐことになるので嫌なんだよな。今日は一日中曇天なだけで雨が降っていなかったけど。


 3番目に勤めたブラックな不動産会社で台風の日に百均の薄っぺらいポンチョだけ着させられて街角で案内看板もたされたのに比べれば雨合羽で自転車漕ぐのぐらい大したことないけどね。

 あのときは、プラカードみたいな手持ち看板が暴風に煽られて飛ばされそうになるし、信じられないような豪雨がシャツからパンツまでビシャビシャに濡らしてくれた。当然そんな日に客など来るわけもなくなんのためにあんなことさせられたのかわからない。が、それが当たり前の会社だった。半年でクビになったが。


 嫌なこと思い出したな。

 まあいい。二度とあの会社に勤めることはないんだから。


「とりあえず3日間は何事もなく無事に過ぎたな。多少の歴史改変は仕方ないだろうけど、ニュースを見ても大局的には何も変わっていないみたいだから安心だよね!」


 僕など全世界に影響を及ぼすほどの人間じゃないからね。飯館さんも今のところトラブルに巻き込まれているフシはないし、このままいい方向に転がっていってくれれば助かるんだけどな。



楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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