第11話
よろしくお願いします。
※※
昨日よりは遅い時間に教室に入ったので半分ほどの生徒はすでに登校していた。
見知った顔に挨拶しながら僕も教室に入るが、相手は僕が挨拶する度に皆キョトンとした顔をしてくる。
挨拶は社会人としての基本だぞ、自分から挨拶する、挨拶されたらしっかりと返すのが絶対なんだ。
――と思ったが、一周目の高校生当時の僕は誰とも挨拶などしていなかったのを思い出す。
(う~ん。これは前途多難)
自分で蒔いた種とはいえこれを回収してまわるのは大変そうだと感じた。
でも今の僕はこれしきで心折れるほどヤワではないのだ。ブラック企業謹製の鋼の心臓は伊達ではない。まぁ前回の最後にはその鋼も腐食崩壊したけれどね……。
今日も授業は退屈だ。次に先生が何の冗談を言うかまで分かるような科目まであると本当に飽きてくる。
もうすぐで期末テストだから復習ぐらいはする必要はあるけど先ずこの分ならば前回よりも良い成績は取れそうな予感。
あまりにも暇なので飯館さん様子を伺うが、話に聞いていたほど授業を蔑ろにしている雰囲気はみられなかった。
彼女はちゃんと授業を聞いているようだし、ノートも細かに取っている様子が遠目にも伺えたのだ。
対比として遠藤茜の様子も見たが、こっちはずっと寝ているかスマホを弄っているかのどちらかだったので勉強など一切していないのがよく分かる。
(飯館さんも言うほど勉強をしなかったわけではないんだな。勉強したけれど理解が追いつかなかったってタイプだったのかな?)
でも確か『わたしは流されるだけで結局何もしなかった』と言っていたはずなんだよね。
どうもこの言葉と今の行動が一致しない。勉強はしなかったと言い切った彼女は現在真剣に授業を受けている最中。
これもバタフライ効果が彼女に及ぼしている影響なのかな。最期が僕と一緒だったがために影響を受けやすいというのがあるのかも。
悪い影響とも思えないし暫くは様子見ってことでいいだろう。単なる僕の記憶違いってこともあるかもしれないし。
放課後は昨日借りた本を図書室に返しに行く予定。今日の部活動は休みだったはず。活動日は月水金の3日間だったと記憶している。
放課後になったら飯館さんも直ぐに教室からいなくなったので観察もない。そう毎日観察していても気持ち悪いやつでしかない気がするけど。
なので、今日は昨日借りた本を返したら髪を切りに急いで帰る。昼休みに電話したら5時に予約が取れたのでまっすぐ帰れば余裕を持って間に合う。
今日も暇そうな図書委員に本の返却処理をしてもらう。昨日借りて今日もう返すものだからすごく怪訝な顔される。
変に思われるのが嫌で「読むのが早いので……」などと余分な一言を言ってしまう。気の小ささは27歳の精神でも変わらずだな。
学校からbo-omって美容室までは自転車で30分くらい。腕時計は4時を指している。さすがに予約の30分前に到着するのは早すぎる。
仕方ないので市立図書館にでも寄って帰ることにする。学校の図書室にないタイムリープものの本があるかもしれないしね。
初めて知ったが帰りがけにあるこの市立図書館は分室らしく、蔵書はそれほど多くない。
「ま、時間つぶしだしね。ざっとみてめぼしいものがあればラッキーぐらいかな」
それにしてもタイムリープやバタフライエフェクトは分野的には何になるのだろう? 自然科学分野の物理系かな?
どちらかというと空想科学になるのかもしれないな。多分そうだと思う。空想科学読本面白いよな。
ひとしきり小説の棚をざっくり眺めてみたけど目新しいものは何もなかった。
「収穫なしで、時間つぶしだけはできた。と」
ここの分室は1階が図書館で2階が読書室になっているようだ。勉強をしている高校生らしき人たちもちらほら見かけた。
「ふーん。こういうところでも勉強できるんだね」
参考資料は階下の図書館にいっぱいあるもんな。僕は自宅でしか勉強しなかったので新鮮な感じがしたよ。
「あれ? あれって飯館さん?」
読書室の仕切板の向こうに見える亜麻色の髪の学生は飯館さんだ。
「こんなところで何しているんだろう……」
今日も陽キャは遊びに行ったようなので飯館さんも一緒かと思っていた。
ふと貸出カウンター前のラックを見ると雑誌が多数。さすがに下世話な週刊誌は置いていないようだけどファッション誌や情報誌は豊富に置いてあった。
なるほど。こういう雑誌をチェックしているんだな。お小遣いの少ない高校生にとってはこういう場所は助かるもんな。
飯館さんの倹約家な一面をみたあと図書館を後にした。のんびりしていたら予約の時間に今度は間に合わなくなりそうだ!
◯
「髪、長いですね」
「そうですね。バッサリやっちゃってください」
「えっと、本当にいいんですか?」
「本当にいいです。暑いし、重いし、不潔そうだしでいいとこなしなのでこざっぱりお願いします」
こざっぱりお願いします、は社会人になりたての頃使っていたオーダー方法。これで意外となんとかなるものなんだよね。
約1時間後、頭も心も軽くなった俺は自宅に帰った。
しかしなぜか母さんと瑞希が驚愕の悲鳴を上げたのは解せない。
「「せーくん(お兄ちゃん)がイケメンになって帰ってきた!」」
いくらなんでも身内贔屓がすぎるって。
※
楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます