第10話

 家に帰ってからも残りの借りた本を読んだ。読み漁った。斜め読みしたので早くに読み終えた。


 それらから分かったことが幾つか。


 先ずタイムリープには幾つかの種類があるということ。


 死や何らかの事象をきっかけに過去に戻るのはだいたいどのパターンにも共通していた。僕の場合は死がきっかけだった。


 過去に戻る理由については分かるものと分からないもののどちらか。ただ分からないものは、タイムリープに拘っていないタイプの話によく出てきていた気がする。

 つまりタイムリープという事象よりも主人公の人生をやり直すことに主眼がおかれたタイプの話ということになる。

 今のところ僕のタイムリープ先がこの時期なのは理由がはっきりしない。もしかしたら死の間際に高校の同級生に会ったことが単純なきっかけに過ぎないかもしれないとは思っていたりする。


 ただ判断は保留。なにしろ誕生日に自殺して戻ったのは誕生日より3ヶ月も前の何もない普通の平日だ。この関連性がさっぱり分からない。

 物語にありがちだった高校の入学式の日や始業式の日でもない。ほんと何でもない平日。いくら考えても判断に窮する。


 次にタイムリープの後どうなるか、について。


 一番嫌だったのは死に戻りループもの。(神様とか誰かに)決められた通りのルートを通らない限り死が待ち受けていて、死によって振り出しに戻ったり、セーブポイントに戻ったりするやつ。

 課題をクリアしないと永遠にループを繰り返す嫌なヤツ。何度も死ぬなんてたまらないよ。


 次点もループを繰り返すもの。これは何を行おうと必ずループして何度も同じ日を繰り返すといったものがあった。これも最悪だと思う。

 この手は記憶さえなければループに気づかないけれど、毎回ループしていることが記憶に残っているっていうホラー物だった。この場合ループ抜けの答えを探すのが主人公の目的だった。


 時限的に過去に戻って、ふつうに生活をして過去の過ちを正すことで未来に戻っていくという物語もあったが、この場合主人公は死んでいない場合にほぼ限られていた。

 なので、この手は除外する。未来に戻ったら地面に激突する直前とかだったら目も当てられないもんな。


 僕が今一番ありうるのではないかと思っているのが、過去に戻ってやり直しを行いそのまま未来へと繋がっていく話。タイムリープに拘らないあれ。

 タイムリープはあくまでもきっかけであって、神様が僕に人生のやり直しのご褒美をくれた、という僕に都合が一番いいやつ。


 劇的な人生を送ってこなかった僕にはちょうどいい加減の内容ではないだろうか?


 ――まっ、所詮は全部物語でしかないので本当のことなんか一つも分かりゃしないのだけど、道標がないと不安じゃない?






 目を覚ますとそこにはアスファルトの地面が直前に――なんてこともなく、自室の天井が目に入る。場所も変わっていないし、日付も一日進んでいただけだった。


「ふつうに目が覚めたな……」


 ベッドで横になったままでいると今朝は階段をタタタッと駆け上がる軽やかな足音がしてきた。そして、部屋のドアがスッと開く。


「お兄ちゃん! 起きて! 早く御飯食べないと遅刻するよっ」

「おはよ、瑞希。ちょっと早すぎじゃないか」


「いいじゃん! お兄ちゃんはウチに起こされるのは嫌なの?」

「嫌じゃないさ」


「えへへっ。じゃぁ毎日起こしに来るね! 早くご飯食べてね!」


 瑞希の態度が昨朝から一周目と180度違うのに慣れないが、兄妹仲がいいことは存外いいものなのでそのまま受け入れることにしようと思う。

 昨夜も『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と甘えてきて可愛くて仕方なかったもんな。



 階下に降りると今朝は母さんもいた。パートは遅番なのかも知れない。


「おはよう、母さん」

「おはよう、せーくん」


「ごはん食べるの?」

「うん、食べる」


 母さんは一周目と大差変わりはないような気がする。変化に僕が気づかないだけかもだけど。



 食事を終えて洗面所で身だしなみを整えていると気になることが幾つか。


「ねえ母さん。髪の毛切りたいからお金くれない?」

「あら、どういう風の吹き回し? いくらお母さんが言っても頑なに切らなかったくせに。はいどうぞ、これで切ってきなさい」


 そうだった。あの頃は髪を伸ばして目元まで隠し、まさに陰キャを絵に書いたような生活をしていたっけ。

 今となってはこの見た目は不潔そうだし、そもそも邪魔すぎて不必要にしか思えない。清潔感は大事。


「駅前のbo-omって美容室は5千円あればカット出来たよね。電話予約は必要なのかなぁ」


「え? 美容室?」

「え? 電話予約?」


 母さんと瑞希が目を丸くして驚いている。なんで?


「だってせーくんは小さい頃から通っていた床屋さんしか行かないじゃない? それだってここ最近は疎遠だったのに。それが美容室よ? 驚くわよ」


「家にかかってきた電話さえ出たがらないお兄ちゃんが自分から電話で予約するなんてありえないと思ってた!」


 美容室もマッコと同じで別に怖くないのを知ったからな。おまかせでマトモな髪型にしてくれるので一周目の未来でもよく使っていたし。

 電話も散々アポ電って仕事を鬱になりそうなほどさせられて慣れた。今や電話をかけることくらいは屁でもないよ。




楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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