第9話

 海凪さん改め花楓には申し訳ないが、暫く一人で調べ物に専念させてもらう。


 せっかく久しぶりに部活動をしているのだから少しぐらいは花楓とも話をしないといけないとは思うが、今暫くは僕に時間を与えてほしい。


 先ずはバタフライエフェクトって小説から。そしてバタフライエフェクトについての情報を先ずまとめておこう。


『バタフライ効果は、カオス理論に関連する概念であり、初期条件に微小な変化がある場合に、結果に大きな影響を与える可能性があることを指し、「ブラジルで蝶々が羽ばたくことが、テキサスで竜巻を引き起こす」という有名な比喩がある。

 微小な変化が、全体に波及し、一つの行動や出来事が未来にどのような連鎖反応を引き起こすかを想像するのは困難だが、系統的な予測や分析を行うことで、特定の結果への影響を予測する助けとなる』


「うーん。さっぱりわからん。要するに最初の小さな行動が連鎖的に変化を促し、ドミノ倒し的に大きな影響を与えていくってことだろうな」


 つまり僕がタイムリープしたせいで、この世界に元々起こるはずだった事象に変化を及ぼしている、という認識でいいのだろうか。


 ということはやはり僕が一周目と違う行動をすることで未来も変わっていくということになりそう。要は僕次第で自殺という破滅の未来は変えられるということだ。


 ならば、飯館さんの未来はどうなるのであろうか? 僕一人の行動で彼女に聞かされた悲惨な未来を変えることはできるのであろうか?

 飯館さんに関しては分からないことが多い。というよりも分からないことだらけといったほうが正しいと思う。

 何しろ僕が彼女について知っているのは死の直前に話した身の上話程度のこと。しかもあれは高校を退学した後の話が大半だった。


「こんなになるなら高校時代の話も聞いておけばよかったなぁ」


 まあまずタイムリープするとは思っていなかったから聞くことはなかったんだろうけどね。


「それとなく彼女に接触できる機会でもあればいいけど、一周目がゼロだったんだからかなり難題だよな」


 今朝目が合っただけでも僕的大ニュースだもんな。

 ブツブツと独り言を話していたせいか花楓に不審な目を向けられてしまった。


「とりあえずはこの小説を読み終えよう……」


 一気に読みふける――1時間半後には読み終えた。


 久しぶりに本を読んだが、昔取った杵柄ではないが変わらず本を読む時間は早い。だが、内容的には面白かったもののタイムリープについてはそれほど参考にはならなかった。


「もう5時半か。そろそろ帰り支度をしようかな。あ、花楓も一緒に帰るか?」

「あ、はい。いいのですか?」


「久しぶりなのに花楓のこと放っておいたからな。駅前のマッコでコーヒーでも奢るよ。どう?」

「本当ですか! 行きます! 今すぐ片付けますね」


 コーヒーくらいでそんなにはしゃがなくてもいいじゃないかとは思うが、僕ら陰キャはマッコみたいなファストフード店でさえなかなか入ることは出来ないからな。

 僕は大学から社会人になってまでずっとひとり飯だったからもうマッコぐらいではビビらないんだよ。でもトドールは平気でもスタハは最後まで無理だったな。


「せーしろーせんぱい! ポテトも頼みたいです」


「かまわないぞ、ポテトだろうとナゲットだろうと。なんならデザートにアップルパイも頼んでいいからな」


「! ハイっ、じゃあ早くいきましょう」


 前回はなかった行動。部の仲間と一緒に部活帰りに寄り道をしていく。


 こんなことさえも一周目のときはしなかったんだな。なんて勿体ないことをしたのだろう。

 まあいいや。青春のやり直しはできるみたいだし、先ずはひとつひとつやれることをやって変えられることを変えていこう。






「せーしろーせんぱい。ほ、本当に入るのですか?」

「いや、入るよ。入らないと買えないじゃん? ドライブスルーするのか、自転車で?」


 今僕と花楓はマッコの前にいる。いざ店内に入ろうとしたら花楓が二の足を踏んだのだ。


「だって……マッコって陽キャの溜まり場じゃないですか?」

「そう思うだろ? 陰キャのビビるマッコも所詮はただのファストフード店でしかないんだ。花楓の考えるよりもお一人様もけっこう多いぞ」


 なんだか泣く子も黙るみたいな言い方になってしまったが、ここまで来て帰るのは馬鹿らしいのでね。


「……そうなんですね。わかりました。は、入ります!」


 僕も一周目の学生時代は同じような印象を持っていたからよく分かるよ。大人になって入ってみるとただの飲食店以外の何物でもないんだよな。

 あの頃はなんであんなに恐怖していたのだろう。それももう過去でしかないがな。


「花楓は何を頼む?」

「……コーラとポテト……でいいです」


 花楓はまだ自分で頼むのにはハードルが高いようなので、ボソボソ話すのを聞き取って僕が注文する。今も僕の後ろで縮こまっている。


「コーラのMとポテトのL。アイスコーヒーとナゲットの小お願いします。あとアップルパイも一つ」

「かしこまりました――」


「ポテトとアップルパイは半分こ、な? ナゲットは花楓が3つ食べていいぞ」

「は、半分こ。はい!」


 初マッコに花楓も嬉しそうだ。なんか高校生の放課後っぽくて僕もテンション上がるよ。




楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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