第7話

 教室には誰もいなくなったので僕も出ていこうと思う。


「せっかくだし、図書室に行くついでに部室の様子でも見てみるか。見る価値はないだろうけど」


 当時、というか絶賛なのだけど、僕が所属していたのは文芸部というところ。


 基本的に本を読むことが活動の主体。たまに随筆や小説、詩歌などの執筆にも挑戦してみる、といったことが部の活動方針だった。

 部員は3年生二人、2年生は僕だけ、1年生も一人のみの四人だったな。廃部寸前の人員だけどそれなりに定番且つ部歴が長いので廃部だけは免れていた。


「今が6月ってことだと見沼先輩と瀬川先輩はもう引退したあとだよな」


 3年生の二人は5月末で受験勉強を理由に早くも引退していた。

 部長だった瀬川先輩と執筆活動もできる見沼先輩がいなくなったことで、ほぼ文芸部は解散したに近い状態になっていたと思う。実際あの後僕も部室に顔を出すことは無かったからね。

 もう一人の1年生の子の動向は知らないが、その子のことも見かけなかったので僕と同様なのだと思う。


 今日いきなり部室に顔を出そうと思ったのは単なるノスタルジーから。


 高校生活で唯一の思い出と言っていいくらいなのがこの文芸部での部活動だったと思う。文化祭で一部も売れなかった文集を編纂したり、読んだ本の感想を言い合ったり、わちゃわちゃ遊んだりしたのはいい思い出だった。


「勉強以外で青春っぽいのはあそこだけだったんだよな……」


 実験室や音楽室などの入った特別棟の三階の隅。広いだけが特徴のあまり使われていない図書室。その隣にある図書準備室というただの物置部屋が文芸部の部室だった。


 吹奏楽部の奏でる管楽器の音を聞きながら部室に向かう。外部から入るには図書準備室の鍵が必要だけど、図書室側から入るにはその必要はないので職員室まで鍵を取りに行くこともない。


 先ずは図書室でタイムリープとバタフライエフェクトについて書かれた書物を4~5冊借りることにした。

 当然ながら学術書や専門書などあるわけもないので、国内外の小説を書架から拾い集めただけなんだけど。まったく手がかりが無いよりはマシかと思ってね。


 貸出手続きを終えたら暇そうにしている図書委員の横を会釈しながら通り過ぎて、図書準備室に入る。図書室よりも狭い分インクの匂いがしみついてむせる。それに若干カビ臭いのがこの部室の特徴だった。懐かしい。


「あれ? せんぱいも出てきたんですね。今日は部活やるんですか?」


 中に入ってノスタルジーに浸たろうとすると左の窓際の方から声がかけられる。もう一人の文芸部員、海凪みなぎさんだった。


「おっと、み、海凪さんじゃないか。びっくりしたよ、久しぶり……」


 まさか海凪さんがいるとは思わなかった。彼女も部室に顔を出すことは無かったと思っていたけど実は思い過ごしだったとか?


「私も今日久しぶりに来たんですよ? 偶然ですね。やっとせんぱいも部活復帰ですか? 復帰ですよね?」


 圧が強い。そういえば、3年生がいなくなったあと、海凪さんと部室に二人きりという状況に無駄に緊張してしまうのも部活に出なくなった原因のひとつだった。

 女の子耐性がないゆえに部活を廃部に持っていっただなんて、なんとも恥ずかしい理由だったんだな。忘れていた記憶が少し戻ったよ。


「いやぁ、どうなんだろう?」


「廃部とか嫌ですよ。私みたいな陰キャボッチはここの部室が聖地なんですからね? 分かっていますよね、せんぱい?」


 この喋りからは信じられないが、彼女は僕と同じく教室では無口な友だちもいない人見知り陰キャボッチなのだ。信じられないが。


「そっか、今後はなるべく出るようにはするよ」


 今回は文芸部の存続を頑張ってみようかな。僕の動き一つで未来が変わるならやる価値はありそう。


「そうしてくださいね。あとなんで苗字呼びなのですか? 私のことは花楓かえでって呼ぶことにしましたよね? ね? せーしろーせんぱい?」


 そうそうこんな感じだった。だけどここまでグイグイと迫ってくるような子だったっけ? 僕に対してだけは少し過剰だったとは思うけど。



 海凪花楓は陰キャを称するには見た目が良すぎる。普段は伊達メガネと前髪で目の周りを隠しているけど、その素顔を拝めば十中八九の男子生徒が見惚れるに決まっているご尊顔を持っている。

 地味に一本結びにしている長い髪もそれを解けばさらさらとして風に靡きとても美しい。

 いつも大きめのカーディガンで誤魔化しているが、そのたわわな双丘は男子を悩殺するには十二分すぎるポテンシャルを持っているのも僕は知っている。



 そんな子と、僕だけに容赦なく懐いたり弄ってきたりするそんな子と二人きりで狭い部室にいるなんてあの頃の僕には刺激が強すぎたんだ。無駄な緊張が強いられるのも分かってもらえると思う。


 この二周目でも女の子と二人きりはやっぱり緊張するけれど、あの頃ほどは僕もキョドることはないだろうと思う。ビッチ上条の色情攻撃に耐えられた僕なら大抵のことなら大丈夫。僕は強い子。


「うん、ごめん。花楓」

「‼ ………///」


 さっきまで煽り気味にグイグイ来ていたのに一瞬固まると下を向いて耳まで真っ赤になる花楓。どした?




楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。

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