第6話
授業はすでに一回受けているものだし、意外と内容も忘れていないので僕としては退屈で仕方なかった。
一周目の当時は周りのことなどに気を回す余裕はなかったけれど、二周目ともなれば逆に余裕しかない。
それに当時はただ声をかけるだけの行為にさえビクビクしていたクラスメイトに対してだって同じだ。もはや彼らのことは10コも年下な子供にしか見えない。
転職を繰り返しブラック企業で否が応でも鍛えられたというのがあるけれど、この程度のことも出来ずにうじうじしていたなんて我ながら情けなくて涙出てくるよ。
一周目の最期は勤めていた会社が所在するビルから飛び降りるといった最悪の結果をもたらした。
さすれば今回は、一つひとつ出来事に変化を与えて最終的に飛び降り自殺回避を目指す。
さすがにそれだけでは馬鹿らしいので、幸せな未来を作り上げるように努力しよう。もちろんその中には共に最期を迎えた飯館さんも含まれる。あんなことでも一度は心を許しあえた相手には違いないからあのような最悪の最期をどうやっても避けさせてあげたい。
そうは言っても自分のことは自己努力で処理できるけど、まったくの他人である飯館さんの方はどうすればいいのか?
僕も中身が大人になったとしても陽キャの生態なんてまったくわからないぞ。彼女らの思考回路なんて想像すらつかないからね。
まさか『僕は未来から来ました。あなたは僕と一緒に自殺します。だから一緒に回避しましょう』なんて絶対に言えっこないし。
死の直前に飯館さんが語ったことには、1年生の頃にはすでに容姿が可愛いってことでチヤホヤされて彼女はかなり調子に乗っていたと言う。
間違いなく彼女は可愛いし、休み時間の度に周りには誰かしらが侍っている状況は今日一日観測してみても話に相違がなかった。
特に昼休みは他のクラスからも男子が遊びに来てあれやこれやと言い寄るような言葉を並べていたのが印象的。
飯館さんはそういった奴らを適当にあしらっているのだけど、周りも嫌な顔せず離れていくようなこともなさそうだった。ああ言うのがコミュ力ってやつなのかもしれない。
果たしてみんなの人気者の彼女はいつ転がり落ちてしまうのだろう。この2年生の間であるのは間違いないのだろうけど。
ただ屋上での話に明確な時期の話はなかったので、きっかけになるようなことがあったのか無かったのかさえも見当がつかない。
放課後になっても陽キャは帰らず
「いずみん、来月の期末テストどうする? 中間は赤点とっても補習無かったけど次は夏休みに入ってからの補習があるんだよね~」
そう飯館さんに話しかけるのは、
たしかこの遠藤って子はこの2年生の夏休み明けの後に中退したクチだったと思う。縁がないので詳細は知らないし、申し訳ないがあまり興味もない。
「そうみたいだね、茜は勉強どうするの? すこしはしないと夏休みは補習漬けになるの確定じゃない?」
「え? しないよぉ。補習もブッチに決まってんじゃん! なんとかなるっしょ」
その時周りにいた奴らも『そうだ、違いない』と囃し立てている。あれではお情けで2年生には上がれたが、その先がないのは当然だよな。中退もさもありなん。
「やっぱそういう感じだよねぇ……。まぁでも茜たちも少しは考えたほうがいいと思うよ。わたしもちょっと思うところがあるんだけどね」
「ふえぇ~いずみん、お勉強するのぉ? めっずらしぃ~」
「うん、まあ。今はまだ考えているだけなんだけどね」
彼女らのテストに関する話はそこで終わったようで話題は変わっていった。
そこにピアスをごちゃごちゃ付けた女子が勢いよく教室に入ってきた。確か隣のクラスの
「やっほー和泉。ねぇねぇ! あたしら今から
「ん~わたしはパスかな。この後ちょっと用事があるんだ」
「え~マジ? そんなの後にして一緒にカラオケ行こうよ!」
「うん、ごめん。行かないよ。ホント無理なんだ」
「そうなの? でも大輝の知り合いとかも来るんだよ? おもしろいよ、きっと」
「誘ってくれてありがとう……でもごめん。じゃ、悪いけどわたしはこれで。ばいばい」
それだけ言うと話もそこそこに取り巻き連中をそこに置いたまま飯館さんはカバンを持って教室を出ていってしまう。
薄い記憶の中で彼女はいつも陽キャ仲間の誘いは絶対に受けていたような気がしていたけど違う場合もあるんだな。
もちろん一周目で僕もそこまでしっかりと飯館さんを観察していたわけではないから、知らないこともこの他にたくさんあるのだろう。
飯館さんが教室を出ていった後、残された陽キャの面々は皿元と一緒に教室をぞろぞろと出ていった。
「んだよ和泉、付合い悪いなぁ」
「ちょっと調子に乗ってんじゃね? それともアノ日だったりして⁉ ギャハハハ」
仲良さそうでも本人のいないところでは好き勝手言うものなんだな。
※
楽しかった! 面白い! 続きが読みたいと思っていただけましたらぜひとも♥や★をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます