第33話 願い
扉付近に火炙りになっているドラゴンを発見した。炎属性だから正直あまり効果はないようで、当の本人も涼しげな顔をしていた。
「いや、さっきのことを謝ろうと思ったんだが」
「部屋には入れねーから。どうせ他の要件あるんでしょ?3階のラウンジにでも行こうか、火炙りのままがいい?」
「そうだな!行こう」
このドラゴン、声がでかい。まじで鼓膜にくるから勘弁してほしい…いや、いいんだよ、うるさいことくらい。でも絶対配慮とか考えたことないタイプだよね。
ラウンジに着くと、そこには三つ編みの女の子がいた。普段なら気にも留めないけど、流石にこのうるさいの連れて行ったら可哀想かなぁ…
「!リューク。ようやく会えた…!」
リューク?って誰だっけ。…いやこの状況だったらこのドラゴンしかありえないんだけどさ。知り合いなら別にいいか…あー、帰りたい。
「ドール。この人が、紫の髪と緑の瞳をした魔女だ」
「…!あなたが…本当、綺麗な色…」
「え、私今ドラゴン族で高値で売られたりしてる?」
「いやいやいや」
いや、どの種族だろうと私のことは高値で買い取ってくれるだろうね。生まれついての紫と緑だからね。
ドールと呼ばれたその人は、黄緑の髪と黄緑の目をしていた。なんとなく目に優しい色だからガン見してしまった。てへぺろ。
「実は…俺の故郷の炎の砦が、地震が頻発するようになって」
「ふーん」
「し、神話では紫の髪と緑の瞳をした魔女様が同じ状況になったときに助けてくれるんです!」
「そんなかっこいい魔女様ならもういないよ」
その神話がいつのなのかは知らないけど、所詮神話は神話。というかもう少し早く起きてれば私の母親がどうにかできたのに。
「…ねぇ、そもそもその神話っていつのもの?」
「え…1000年は昔と聞いていますけど…」
「ならありえないよ。紫の髪と緑の瞳を持った魔女は…歴史上二人しかいないから。」
まぁ母親と私なんだけど。1000年ってことは全然記録も残ってるような時代だし、カウントされてないわけがない。
というかさっさと帰ってくれないかな。地震…炎の砦の地震か。神話にそんな話あったっけ。結局どんな世界でも読まれるのはファンタジーっていうし、これもフィクションなんじゃ?
てかそうであれ。面倒。
「おい、ここは他校生立ち入り禁止だぞ」
「あっ!ご、ごめんなさい…」
「そーだそーだ。私は任務でもない限り動かないから。またなっっっっっ!」
本当にありがとうキリさん。さっきまでも注意できるタイミングはあっただろうに、私が聞きたいところだけは聞かせてくれたんだろうな。
やっぱ精神年齢は高い方がいいわ。
「キリさん、ちょっとごめん。紅茶だけ飲ませて…」
「おう、お疲れ。ティナああいうの嫌いだよな。俺も苦手だ。銘柄は?」
「アッサムがいい、ミルクティーにして〜」
プレッシャー与えてくる奴本当に嫌い。今ではまぁ自分で対処できるけど、昔はできなくて辛かった思い出ある…
それはそれとしてミルクティーって美味しいよね。いろんな紅茶でやったことあるけど、やっぱりアッサムが好きなんだよね。
「そういえば、昔食堂に緑のお茶置いてあったよね」
「あー、グリーンティーか?あったなぁそんなのも」
「時々あるよね、なんかああいう風変わりなの」
「あれなぁ…実は時々、異界の扉から人間以外にも物が届くことがあるんだよ。茶葉だったり服だったり。前は時計もあったな」
キリさんはそれを異界の贈り物と呼ぶらしい。それを食堂に来た生徒に渡してるってことか。なるほど、だからキリさんはあの扉の周りを厳重にしてるんだ。変なのが届いても平気なように…
「前にな、なんかすげぇ美味いパンがあったんだよ。カスタードみたいなのが入ったやつ」
「え、何それ美味しそう。」
てかこの人勝手に食べてるってこと…?毒とか入ってたら不味いのにね?
まぁ今度からちょっともらおう。
「そういえば、あのドラゴンの部屋って…」
「一階の西だな。」
「じゃあ三階ウロウロするのマジで不審者じゃん…」
ちなみに私は別棟に住んでいるからまた別のくくりに入る。別棟にはキリさんと、私しか住んでいないのでまぁまぁ広い。
全員個人部屋なんだけど。
「いやぁ、私Aクラス主席とか呼ばれるのは嫌だったけど別棟に住んでたら全部のフロアにいてもおかしくないってとこがいいよね。」
「異界からの客は全力でもてなすのが礼儀って法律もあるしな…」
「なんてこった」
そんな法律もあるんだ…確かに待遇は良かったけど。
「最近は任務続きで体が重いんだよね〜。もっともてなしの心を持って欲しいよ」
「あ、そういえば任務の知らせきてたぞ」
「…嫌って言ったら?」
「俺が困る」
「だよねぇ…」
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