第7話 完璧の証

 ふわ、と足元が浮いた感覚があった。え?と零す間もなく私は地面といつの間にかおさらばしていた。

 身体中にじわりと汗が浮かぶ。目の前にいるキールさんの背中をがっしりとつかみ、落ちないように落ちないようにと願い続けた。

「箒に乗るときはできるだけ後ろに体重かけろよ?」

 ひえ、と小さく悲鳴が出た。ありえない、海の真ん中にポツンと城がある。攻め込まれたら終わりみたいなものでは?

 地面に降り立つと、体の奥底から何かどっと出てきたような感覚がする。少しだけ平衡感覚を失いながらもキールさんの後ろをついて行った。



「連絡もなしに突然くるなんてな、驚いたぞ。」

「申し訳御座いません国王陛下。異界の扉からこの者が現れまして…」

 小声でローブを取るように指示され、大人しく従った。それにしても、異界の扉とはなんなのだろうか。異界…まさか、私のいた世界が異界とでもいうのだろうか。

「なんと…紫の髪に緑の瞳とは…」

 また髪と目に注目するとは。もしかして、今私国王に売られてたりするのかな?珍しいのでお眼鏡に適うかと、的な?

「…アイビーによく似ておる」

「え?母と?」

「…は?」

 もしかして無礼だったかな?でもよくわからないままここに連れてこられているのだからできたら許して欲しい。

「まさか、アイビー・エフェクターの…娘?」

「は、はい」

「…キール。今すぐ学園に入学及び寮に部屋を。採寸師を呼べ!」

 なんか良くわからないけれど多分私がぽやっとしてるうちに話が進められているのはわかる。まずい、このままだと私の疑問はいつもでも解決されない気がする。

「あ、あのっ…色々と聞きたいんですけど…」

「おっと、そうだったな。名前を聞いてもいいか?」

「…ティーナ・エフェクターです。」

「そうか、いい名前だな…よし、着いてこい」

 そのまま奥に通された。煌びやかな部屋に動揺していると、何をしている、座れ、と言われてしまった。

「そうだな…まずは髪と瞳についてかな…」

 この世界で最も尊い色。それが髪の紫、瞳の緑。今まで歴史上に私と母しかいないことと、紫の髪の起源は大昔の魔女、緑の瞳は女神のなごりらしい。

「つまり…ティーナ、君は今この国で一番尊い…完璧の証をもったたった一人なんだ。」


 完璧の証?魔女?女神?何を言ってるのだろう。褒められている気がしない、これから一体何が起きるのだろう。

 帰れるのかな?帰れないならどうしたらいいの?

 唐突に不安が襲ってきた。涙がこぼれないように、上を向いた。けれど、手遅れだったみたいだ。

「国王陛下。ティーナ様もお疲れのようです。本日は下がらせていただけないでしょうか?」

 突然だったため目を見開いて驚いてしまった。

「…そうだな、今日は下がれ。すまなかったね、長居させてしまったようだ」



 パチ、と目が覚める。

 懐かしい夢だったな、なんて私はあくびのせいなのかもわからないようなほんの少しの涙を浮かべて立ち上がった。

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