第6話 魔法
ー三年前ー
お母様が失踪してしまった。父親は嘆き、兄弟は何日も涙を流した。無理もない、素晴らしい女性で、優しく厳しい母だった。
名は、アイビー・エフェクター。紫の髪と緑の瞳をもつ人で、私は母にそっくりだった。遺伝などは関係のない髪色や瞳色が、母娘で同じ色というのは珍しく、それにとても珍しい色だった。
そのためか、私と母は仲が良かった。
ある日、私は長男である兄と共に母に呼ばれ部屋に行った。そこで聞かされたことは、あまりにも荒唐無稽だった。
「この鍵をあなたたちに任せる。私の身にこれから絶対何かが起きるから、そのあとにこの鍵を使いなさい。」
母の耳に紫の宝石が光る。胸元には緑が光っていた。
母の予言通り、母は失踪してしまった。兄弟が涙を流している間、絶対に母は無事だという確信のあった長男と私は、鍵が嵌る場所を探し出すことに成功した。書庫の奥、その大扉であった。
その日に試すのは何故だか嫌であったため、私たちは一度部屋に帰った。
そこに父が兄を連れてやってきた。
「このイヤリングをルーカスに、ネックレスをティーナに。とアイビーは言っていた。大事にしなさい。」
そのネックレスが、母の形見だ。
深夜4時。私の足は自然と扉に向かっていた。そして、鍵でドアを開けた。目の前は真っ白で、戻ろうとしたが既に扉は消えていた。
ここはどこ?どんどん不安が募っていき、私の意識は手放されていった。
しかし次の瞬間、確かに私に衝撃がやってきた。
「痛っ…」
「今のは…は?誰だお前」
目を開けられるようになってきた。恐る恐る顔を上に上げると、とても背の高い男が居た。威圧感のある表情でこちらを見下ろすものだから私は体が震え始めた。
「おい、そこまでびびんなくてもいいだろ。っ!お前、その髪…それにその瞳は…」
よくわからないうちに私の方が驚かれているようだ。ここはどこなんだろう、そもそも誰なんだろう。
「…俺は…キール・クロス。お前さんは?」
「てぃ、ティーナ・エフェクターです。」
「エフェクターだと…」
そこまで警戒されるとなんだか悲しくなってくる。何か一人でぶつぶつ呟いているので、ちょっと心配だけれどスルーして立ち上がり、歩いた。
「(なんで書庫の奥に建物が広がってるんだろう、何より、窓から外が見えるけれど…絶対におかしい。)」
大きすぎる木に、宝石のようなものが浮かんでいたりする。
「おい!勝手に…とりあえず、ついてこい」
「ご、ごめんなさい。分かりました…」
その建物の中にはいくつかの部屋があるようで、すれ違う生徒たちは皆私を凝視してくる。そこまで目立つ理由があるのかな、と少し不安になった。
「やっぱ目立つな…これ被ってろ、着くまで絶対に脱ぐなよ?」
「えっ…はい」
黒いローブを手渡された。今どこから出てきたんだろうか。そのローブは私の足元まであり、フードは顔を隠すまでには長かった。
大柄の男と謎の黒ローブも目立つのでは?と言いたかったけれど、この重々しい雰囲気の中では言えなかった。
「おい」
「え?」
「乗れ、跨るんだ」
目の前に差し出されたのは、箒。訳がわからない、何をさせられるんだろう。はあ、とため息を吐かれた。持ち上げられてそのまま箒に乗せられた。
そして、ありえないことが起きた。
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