393 指名以来 10

 翌朝、キルは不穏な気配に目を覚ます。南東方向から二万程度の軍の気配を感じたのだ。それはキル達の横を素通りしてチューリンに向かおうとしているかのようである。


 グラ達四人は気付いていたようで目と目が合うと頷いた。


「あれはチューリンを狙う別働隊ですね」


「キル君、その別働隊を頼んで良いかな? 他のルートでチューリンに向かう軍もあるかもしれない。僕らはみんなを起こしてここから北を遮断する」


「了解しました」


「わしとホドが一緒に行こう。それで良いな」


 ホドがロムを見て頷く。


「頼んだロム」


「ああ、任せい!」


「じゃあ私は女の子達を起こしてくるね!」


 サキが踵を返し、キル隊三人が空に舞い上がる。グラが三人を見送った。




 キルとロムとホドの三人が南下して北方民族の別働隊二万を眼下に収めると、キルは先頭を狙って魔法を放つ。


「アトミックインパクト! アトミックインパクト! アトミックインパクト!」


 二万の兵馬が爆発に飲まれて消えていく。キルは魔法を撃ち続けた。


 まるで白い巨大なキノコを栽培しているかのように、一面にキノコ雲が広がる。


 前衛、中衛、後衛、爆発が敵軍全てを焼き尽くすのに三十分とはかからなかった。


 生き残ったものは数百騎だろう。上手く爆発を避け引き返した者だけが生き残ることができたのである。キルは焦土になった眼下の一帯を悲しそうな表情で見渡しため息を漏らす。そして思い直すようにきっと唇をかみしめて東の方向を睨んだ。


 そしてキルはロムとホドに、戻ろう……と目で合図を送る。


「ここはこれで十分じゃろう。早く戻ってグラ達と合流した方が良い。敵の出方に対応せねばならんしな」


 ロムがキルの考えを分かったように口にする。眼下に広がる焦土を一瞥し、ロムはもと来た方向に飛び始める。ホドとキルがそれに続く。


「おそらく北を抜けようとする軍もあるじゃろう」


「俺もそう思います」


 残りの十数万の兵が一気に方々から抜けようとすれば、グラ達だけでは手が足りなくなるはず。急いで戻らないとチューリンに戦果が及ぶことになりかねない。


 急ぎ戻ったキル達は、グラ達と合流する。グラ、クリス、ケーナ、ルキアとモレノの五人だ。残りの五人は北を抜けようとする軍を殲滅するために、さらに北へ向かったらしい。


 グラ達五人の東から十万近い敵の本軍が近づいている。キルには索敵でそのことが分かっていた。だから急ぎ合流をすることにしたのだ。グラもキルの動きは察知していた。


「まにあって良かった。東から敵の本軍が近づいています!」


「そうなんだ。キル君が戻ってから動こうと思って待っていたよ! なにせ敵は十万くらいの大群だ。無理やりここを抜けるつもりに違いない」


「ここを通すわけにはいかんな!」


 ロムが眉根を寄せて胸の辺りで両腕を組む。


「ここに防衛線を貼りましょう。空爆を抜けてきたものを討ち取る最終ラインを」


「そうだね。キル君には、プニプニと神級精霊の召喚をして欲しい。ラインはできるだけ長くしたいから、戦う駒は多い方がいいからね」


「了解です! プニプニ頼んだぞ」


(任せな!)


 キルは地上に降りてプニプニをおろし、風、火、土、水、の神級精霊を召喚する。


 そして空爆のためクリスとケーナを連れて前方に飛行する。


「クリス! ケーナ! いくよ。これからが決戦だ!」


「はい! キルさん」


「分かったっす!」


 クリスとケーナが真剣な顔で返事をする。三人は爆撃しやすいように間隔を広げる。


「アトミックインパクト!」


「エクスプロミネンス!」


「エナジーアローレイン!」


 押し寄せる騎馬の絨毯に、広域大魔法を撃ち始める。十万の騎馬の絨毯が端から食いちぎられるように消えていく。


「アトミックインパクト! アトミックインパクト! アトミックインパクト!」


「エクスプロミネンス! エクスプロミネンス! エクスプロミネンス!」


「エナジーアローレイン! エナジーアローレイン! エナジーアローレイン!」


 眼下に広がる空爆の壁を運良く抜けた騎兵が無理やり前進するが、その騎馬達にはグラ達の攻撃が待っている。


 巨大な神級精霊の姿を眼前に捉えた騎兵が逃げるように横にそれても、その隣にも巨大な神級精霊が立ちはだかり間を抜けようとしても神級精霊達の攻撃が飛んでくる。


 プニプニの風魔法、グラ達の遠距離攻撃が容赦なく残った騎兵を斬り刻む。三人、五人とまとまった騎兵が一度に斬られて倒れていく。


 プニプニは倒れた騎兵を吸収分解しながら更にその大きさを増し攻撃力を増していく。


「撤退! 撤退だー!」


 北方民族軍に『撤退』の号令がかかっているが大軍の動きはルーズだ。


 キル達がどんどん北方民族軍削るなか、後方の絨毯の後方移動が始まっていく。


「逃すかー! アトミックインパクト! アトミックインパクト!」


 空爆組の奮闘が続くが三分の一は逃してしまった。


「く! 残念だが数万の敵を逃してしまったか」


「逃げ足も速いっす!」


「仕方ありませんよ」


 空爆目標を失った大地を見渡しながら三人が嘆いた。そしてグラ達の元に引き返す。目標は巨大に増殖したプニプニだ。


 プニプニは巨大な本体の他に五体の普通に大きな分体が辺りで掃除を行なっていた。


 巨大な本体のそばにグラ達と神級精霊が集まっている。キル達三人は着陸して残念そうに報告する。


「残念ですが三分の一くらい逃げられてしまいました」


「仕方ないよ。でもまずまずの戦果だと思う。最終ラインんは抜かせなかったから、チューリンには行けないと思うし」


「残り数万ならもう攻めてはこんじゃろう。半分も討ち取られれば、普通全滅と言われるものじゃ。それにそれだけ兵士が減れば食料が不足するということもあるまいて」


 グラとロムが戦いの結果を総括した。まだサキ達は戻ってきていないが、敵を殲滅してくると確信している。


 そしてその確信は間違っていなかった。意気揚々と戻ってきたサキ達は敵を殲滅したと報告したのだ。


「これで、ルビーノガルツに戻っても大丈夫じゃろう。チューリンに戻って挨拶したら帰るとしよう」


「そうしましょう!」


 サキが嬉しそうに笑う。キル達はチューリンに戻って報告を済ませルビーノガルツに戻って行った。




ーーーーーーー


395話で完結します。

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