366 ドラゴン素材の評価と新展開

 チューリン冒険者ギルドに報告を兼ねて、ボロボロになったドラゴンの素材を預けにいく。ドラゴンを倒した証拠でもあるし、マルス・フランシスに依頼されているものでもある。


 受付嬢にギルドマスターのコンノの面会を求めた。


「少々おまちください」


 そう答えて席を立った受付嬢は、ギルマスの部屋に案内するためにもどってきた。


「マスターがお会いになるそうです。こちらにいらしてください」


 キル達三人は、受付嬢にマスターの部屋に案内された。


「これは皆さん、私に会いたいとのこと、いかがしました?」


「ドラゴンは倒したが、問題がありまして……」

 

 キルが言いづらそうに言葉を濁す。


「も! もう! もう倒した……って! 素晴らしい! ……て問題があるとは?」


 コンノは、驚いた後で心配そうな顔になる。


「実はマルス様に頼まれたドラゴンの素材なんですが…………ちょっとボロボロになってしまって…………」


「そうですか…………ですがドラゴンは強いですから、素材のことまで考えて倒すというのも難しいです。故に普通はドラゴンの素材はボロボロになっているものです。まずはその素材を見せてもらいましょう」


 コンノは冷静にまず状況確認をすることを望んだ。そして買取所で素材を預かることにしたいと言う。


 キル達は買取所の倉庫に移動して、集めてきたドラゴンの破片をストレージから取り出す。


 首、羽、腕に脚、尻尾、鱗、そして魔石。首には角と牙が完全な形で残っている。腕と脚には完全な形で爪も残っていた。


「うーん! これはすごい。ドラゴンがバラバラだ」


「エンシェントドラゴンの変異種です。あまりの強さに素材のことまで考える余裕がなくて……爆散させてしまったので、飛び散った素材を集めたんですが、こうなってしまいました」


「これはこれで仕方ないです。マルス様も納得はしてくれると思います。それにこれを買い取るとして、かなりの金額にはなりますよ。大事なパーツも残っていますし、量もかなりある。完全な形ではないのが残念ですが、これで十分ですよ」


 予想に反し、コンノはキルの持ち込んだ素材に高い評価を下し、十分な価値をみとめた。


「良かった。ではこれをマルス様にお届けしてください。お願いします」


 キルの顔には無事ドラゴンの素材を納入できた安堵の色が浮かんでいる。本当は魔石だけは手元に残したかったのだが、それは我慢した。


「分かりました。代金ですが、査定には少し時間がかかりますのでお待ちください。それと実はマルス様から早速指名依頼が入っております」


「え!」


 突然想定外の追加注文に驚くキルだが、これは北方民族に関することに違いないと予想する。


「ですので明日、またマルス様に会いに行くということでよろしいですか?」


 キルがロムに目配せするとロムは頷いた。


「分かりました。では明日朝ここに来れば良いですね」


「そうしてください」


 コンノが愛想の良い笑いを返した。


 キル達は頷いて踵を返す。そして晩飯を食べに繁華街へくりだした。




「さて、突然の指名依頼。なんなんじゃろうな?」


 キル達は繁華街の居酒屋でピールを片手に晩飯を食べている。


「指名依頼をしろと言ったのはこっちですからね。しかし、いきなりとは」


「今日の今日じゃぞ」


「援軍が欲しい時は依頼を出すようにと言ってきたわけで……」


「戦いになるということか?」


 キルも首を捻りながら答える。


「そうですねーーあれだけ俺たちの戦力をアピールしたから……多分北方民族関係の何かだと思いますけど。まさか一万位の敵を片付けてくれとか……言われないですよね?」


「ハハハハハ! そんな馬鹿な! しかし援軍に呼ばれたという可能性は大きいかもな。それはそれで良いのじゃが」


「良くはありませんよ。援軍が必要ということは相手は大軍ということでしょう?」


「確かにそうじゃが、それはそれで早く倒せて心配の種がなくなるのは良いことじゃろう」


「うーん。確かにそうですが……」


「そうじゃ。だから北方民族関係なら良いことなんじゃ。さあ飲め!」


 ロムがキルにピールを進める。この国には飲酒に対する年齢制限はない。

 

 キルはゴクゴクとピールを飲んだ。


「俺たちが二百騎殲滅したのが何か影響があったんですかね?」


 昨日殲滅した部隊以外にも近くに部隊がいたとか? 殲滅した部隊が戻らないためにもっと大きな軍団が調べに来たとか? キルはあり得る仮説を思い浮かべる。


 昨日助けた村は大丈夫だろうかという不安が脳裏をよぎる。


 考えれば考えるほど昨日の戦いと関係がありそうに思えてくる。


 しかし、昨日のあの状況で助けにいかないという選択肢はなかったし、残りの百騎も殲滅するのは当然のように思える。


 もっと良いやり方があったのか? 自分のせいで戦争が起きるのか?


 自分を責めても仕方がないかと思い直すが、いつの間にかまた考えていた。

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