364 情報収集 7

 辺境伯マルス・フランシスーー彼の代になってからチューリンの街は北方民族からの攻撃で、壁を越えられたことはない。


 それはとりも直さずマルスがある程度は有能な領主であることを示している。


 チューリン冒険者ギルドマスター・コンノに連れられて突然キル達が訪問したにも関わらず、マルスとの謁見は受け入れられた。


「失礼致します。マルス様。今日はドラゴン討伐を請け負ってくれたSランク冒険者を同行して参りました。彼らに任せれば、必ずやドラゴン討伐をやり遂げてくれるものと思っております」


「ほう。Sランク冒険者だと。それは凄いな。それ程の者が我が領内にいたとは聞いていないから多領に応援を要請したのか? 後ろに控えているのがその冒険者か?」


 マルスはコンノの後ろに控えているキル達三人に視線を向ける。


「いえ。彼らは別の目的でチューリンを訪れたようですが、ギルドに登録に来ましたのでドラゴンの討伐を指名依頼したまでです。マルス様に謁見を求めておりましたのでお連れしました。事情はこの者達から……」


 コンノは簡単に事情を説明し、キル達の方を向く。


 キルが代表して話し始める。


「ルビーノガルツ冒険者ギルド所属、クラン『15のひかり』のクランリーダー・キルです。こちらがロム。そしてホド。北方民族の動向を調べにやってきました。その事でマルス様とお話がしたく、謁見の仲立ちを頼んだのです」


「なるほど。それでドラゴンの討伐を頼まれたというわけか……」


 マルス・フランシスが大きく頷いた。


「そういえば、ルビーノガルツ卿にも北方民族についてに問い合わせを受けていたな。クリーブランド様は、そんなにも北方民族どもが気になっているのか。」


「北方民族に統一の動きがあるとの噂。もし統一がなって、こちらに攻め寄せてきた場合、ルビーノガルツから応援のために出兵することになるかもしれませんので」

 

「それについては、今のところその必要はないと答えたはずだぞ」


 マルス・フランシスは心外だというように顔を歪める。


「はい。クリーブランド様からはそのように伺っております。ですがそれは『今は』でございましょう? 我がクランにはクリーブランド様の三女・クリスチーナ様が所属しております。そしてクリーブランド様の出兵を避けたいと望んでおります」


「で?」


「ですので、事前に援軍の必要性を潰しておこうと調べにに参った次第です」


「ほう。面白い。事情は分かった。ところでドラゴン討伐の方は大丈夫なのか?

Sランク冒険者と聞いたが他の二人は何ランクだ?」


 マルスはSランクは一人だろうと考えてロムとホドのランクを尋ねる。


「三人ともSランクです。ドラゴン討伐の方はお任せを。ドラゴンなら何百と狩ってきましたので」


 キルの答えに目を見張るマルス・フランシスは、三人を品定めするようにまじまじと見つめた。


「三人ともSランクとは……なんとも羨ましい。クリーブランド様は良い部下をお持ちだ」


「クリーブランド様の部下ではありませんが……」


「はは! そうか。だが部下のようなものだな。ギルマスを任命しているのは領主だ。その傘下にあるわけだろう」


 確かに見方によってはそうとも言えるが、冒険者の自由は約束されているーーほぼ。指名依頼だって断る権利はあるのだから。


「そうかもしれませんね」


 キルはマルスの言葉に一応頷く。こんなことで言い合っても意味はない。それに戦争ともなれば多くの冒険者が募集に応じるのだ。自分たちの故郷を守るために。


「クリーブランド様は敵にはできませんね。ははは! ところで、北方民族の動向についてだが………」


 マルスが眉根を寄せて言葉を詰まらせる。


「領内を何度か荒らされたのは事実だ。だが例年との違いというと微妙だな」


「昨日ある村が奴等に襲われていたのを助けたのですが、今年はかなり高圧的で交渉も上手くいかないと言っていました。もうすでにいくつかの村が全滅の憂き目に遭っているとも」


 キルの言葉にマルスは顔色を曇らせる。


「あ! 村を襲っていた奴等は片づけておきました。二百騎ほどでしたよ」


 キルは昨日の事件をマルスに告げる。


「そうですか? 二百騎…………」


 マルスは腕を組んで考え込む。

 黙って聞いていたロムが口を開く。


「困った時は冒険者ギルドを通して我らに依頼をしてくれ。連絡を受ければ、ここまで一日で移動できる。侯爵に援軍を頼むより強くて早いぞ」


 マルスの顔がパッと明るくなった。


「二百騎を三人で倒したのか?」


「もちろんじゃ! 二百が二千でも二万でもまけるきはせんぞ」


「ロムさん。言い過ぎですよ」


 困惑した顔でキルはロムを嗜める。


「空から広域魔法で一発じゃろう?」


「まあ状況によってはそうですけど……何発でも撃てますしね」


 本当なのかとキルを見据えるマルス・フランシスがたどたどしく頼む。


「その時は、ギルドに指名依頼を出すとしよう。驚いたな。ははは…………」


「では我々は、ドラゴン狩りに出かけようぞ」


 ロムが話を切り上げて出かけようとすると、マルスが言った。


「できれば、ドラゴンの素材は私に買い取らせて欲しい」


「分かりました。それでは」


 キルは即答してその場を離れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る