363 情報収集 6

「ーードラゴンーー」


 突然聞こえた言葉に視線を合わせる三人。声の方に注意を向ける。


 その話をしているのは、屈強な冒険者三人。持っている獲物から一人は剣士、一人は槍使い、もう一人は魔術師のようだ。


「どうする? 依頼は受けたいが相手は正体不明のドラゴンだ。俺たちだけじゃあ太刀打ちできねえ。ギルマスも困っているようだったぜ」


「どうすると言われても、Aランク三人でドラゴンに挑むってんだろう。グリーンドラゴンなら上手くすりゃあ……だが、もう少し情報が欲しいな」


「赤くはないが緑でもないらしいぞ。翼を持った黒っぽいドラゴンって……エンシェントドラゴンか? まさかな」


「緑の濃いー奴なんじゃないのかね? それでも俺は遠慮したいよ」


「しかし、この街にAランク冒険者は俺達だけだぜ」


「よそから応援を呼ぶしかなかろう!」


 話を静かに聞いていた三人がニヤリと笑う。三人で戦えばエンシェントドラゴンくらい簡単に勝てるだろう。ドラゴン出現ともなれば、話は領主にまで通っているはず。これは都合よく領主との渡りがつけられそうだ。


「ついでにドラゴンも狩っておくか?」

 

 小さい声でロムが微笑む。


「そうですね」


「…………」


 ホドも無言で頷く。


「よし! 明日はギルド、今日は飲むぞー!」


 三人は再び乾杯して飲み出した。


  

  *  *  *


 翌日、チューリン冒険者ギルドを訪れた三人は、依頼掲示板をチラリとチェックしながら受付で冒険者登録をしてもらう。


「冒険者登録を頼む。これがルビーノガルツ冒険者ギルドの登録証じゃ」


 ロムが三人分の登録証を差し出す。


「承りーーえ! 少々お待ちください」


 登録証をチラリとチェックした受付嬢が驚いてギルマスに指示を仰ごうと席を立つ。その場で少し待っているとギルドマスターが飛び出してきた。


「ギルドマスターのコンノと申します。奥の部屋にお越しください」

 

 Sランク冒険者といえば国に数人というレベルの希少な存在。それが三人も現れたのだからコンノにしてみればビップが突然現れたという状況である。特に今はドラゴン討伐のために強力な冒険者を必要としていた矢先である。コンノはこの機会を逃すまいと必死であった。


 ギルドマスターの部屋に案内されたキル達三人は、中央の応接セットに座らせられる。


「登録にいらしたとのことですが?」


「実はルビーノガルツ侯爵は最近の北方民族の動きを気にしていらっしゃる。もしもの時は援軍を派遣せねばならぬからな。三女のクリスチーナお嬢様は我がクランの同胞でな。そこで我らが自主的に北方民族を調べにきたというわけじゃ」


「それで登録を?」


 コンノは不審な顔で聞き返す。


「うむ。実は昨日北方民族に襲われている村を助けてな。今までに三つの村が襲われて皆殺しにされたと聞いたぞ」


「はい。そう聞いております」


「だからな、わしらは領主がこの状況をどう認識しているのか知りたくなったんじゃ。そこで領主に会うためにギルドで紹介状を出してもらえればと思ってな」


 ロムは見下すような圧をかけてコンノを見る。


「なるほど、それで登録をということですか。納得しました。紹介状は用意しましょう。ですがこちらからもお頼みしたい案件がありまして」


 コンノの言葉に来たなと思うキル達。


「なんですか?」


 すました顔でキルが聞く。


「実はドラゴンが目撃されていましてーーその討伐をお願いーーしたいのです」


 ばつ悪そうにコンノが答える。


「無理ーーでしょうか?」


「ドラゴンの種類は?」


 ロムが怖い顔をつくって厳しい口調で問いただす。


「全身が黒く羽のあるドラゴンだと聞いています。カチカ山の火口から飛んでくるのを見たという話です」


 三人は顔お見合わせ頷く。


「エンシェントドラゴンですかね?」


「たぶんそうじゃな!」


「…………」


 黒いドラゴンということはレッドドラゴンやブルードラゴン、グリーンドラゴンより強いエンシェントドラゴンの可能性が高い。そこまでは昨日の情報で知っていたので驚きはないが。


「あの……ドラゴン討伐のレイドに加わってもらえませんか?」


「構わんが、メンバーはSランク以上に絞ってくれ。エンシェントドラゴンは、足手纏いを連れて戦える相手ではないんじゃ」


「Sランク以上ーーなんていませんよ!」


 コンノが驚いて声を荒らげる。


「なら俺たちだけで狩ってきますよ。その方が確実だし」


 笑顔のキルが軽い口調で言い放つ。


「エンシェントドラゴンならこのキル君一人でも十分倒せる。わしらに任せよ!」


 ロムもニヤリと笑った。


「本当ですか? いや失礼。それは頼もしい」


 コンノが目をキラキラさせてキルを見つめる。

 

「まあ、エンシェントドラゴンなら何度も狩っていますからね。でもエンペラードラゴンだったらどうなるかわかりませんよ」


「エンペラードラゴン! そんなこともあるのですか?」


 コンノの顔が一瞬のうちに曇った。


「大丈夫じゃ! エンペラーは世界に一匹。そんなに簡単には出会えるものではない。それに我々の目標はエンペラードラゴンを倒すこと。出会えれば幸運というものじゃ!」


「もし、エンペラードラゴンだったとしたらはっきり言ってどうなるか分かりません。倒せそうもなければ逃げかえってきますが、強さが分かれば手の打ちようもあるということ。なんとかしてみせますから安心してください」


「おお!」


 コンノの瞳がキラキラと輝く。そして尊敬するようにキルを見る。


「ドラゴンのことは任せてくださ。それより領主との面会の方は大丈夫ですよね」


「はい。分かりました。ドラゴン討伐に向かう前に御領主様に謁見に参りましょう。私もご一緒いたします。そうだ! これから会いに行きましょう。前は急げです!」


 キル達はコンノに連れられてギルドの馬車に乗り、辺境伯邸を訪れるのだった。

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