362 情報収集 5
チューリンで一泊するキル達三人は晩飯を取るために繁華街に繰り出す。当然住民達の噂話の聞き込みも目的の一つだ。
国境の街とはいえ繁華街はそれなりに大きい。旅商人、商隊の護衛冒険者、異民族の旅人、あたりで見かける人の種類はルビーノガルツよりも多彩だ。中には犬猫の獣人も見かける。
そういう雑多な人間達を受け入れられる鷹揚さがこういう国境付近の街には必要なのだ。
街を歩くと武装をしている者が多い。街のあちこちでいざこざを起こしている男達も見かける。そういう意味ではルビーノガルツより治安は悪いのだろう。それも多種多様な文化がぶつかる国境の街では必然なことなのかもしれない。
キル達はかなり大きめの客の多い居酒屋風の店を見つけて入店する。周りに仕切りはなく隣のテーブルの話はまる聞こえだ。情報収集にはちょうど良い。
「いらっしゃいませー」
調子に良さそうな青い瞳の小男が注文をとりにきた。
「何になさいます? 飲み物は、まずピールですかい?」
「そうじゃな! キル君も、もう酒を飲んでも良かろう」
キルは毒耐性1を持っているので酒には強いはずだ。
「分かりました。いただきます」
こういう状況で一緒に酒を飲まないのも気を使わせるようで心苦しい。キルはこれから酒も飲むことにした。
「よしよし、じゃあピール3杯じゃ!」
「つまみはどうしやしょう。今日のお薦めは馬刺しとモーモウ肉のジンジャー焼き、クードム豆とポケルカサラダで!」
「じゃあそれをくれ!」
「へい!毎度」
ロムがおすすめを頼むと小男は立ち去った。
周りではわあわあぎゃあぎゃあとつまらない話が聞こえている。
「さて、これからのことじゃが……」
ロムが声を顰めて話し出した。三人は頭を寄せて小声で話そうとする。
「この地の領主に会えると良いのじゃがな。おそらく北方民族は、近々攻めてきそうな気がする。その辺領主がどう感じているのか、危機感を抱いているのか、何も感じていない無能か、そこを確かめたい」
「そうですね。俺もそう思います。あと、単独で対応できるのかルビーノガルツに援軍を求める必要を感じているのかですね」
キルは真剣な顔でロムを見つめる。
「問題は、わしらが今は一介の冒険者に過ぎぬということじゃ。一介の冒険者に詳しい話はすまい」
ロムが眉根を寄せるて俯く。
「そうですね。確かに本音が聞けなければ、会っても意味はないですし」
「まずは予定通り、冒険者ギルドを訪ねてみるか?」
仕方がないという表情をするロム。
「なるほど! Sランクの冒険者証を見せれば領主への紹介状くらい書いてもらえるかもしれませんね?」
「そうじゃ。紹介状を持って領主に面会するんじゃ」
キルの言葉に、そういう方法があったかと気付かされるロムだが、初めからそのつもりだったような顔でそう言った。
「さすがロムさん! なかなかそんなこと、思いつきませんよ」
ーー思いついていなかったんだけどね……まあ良いか。
ロムは額の汗を拭く。
「お待たせしました。まずピール三杯!」
さっきの小男がピールを運んできた。
三人はピールを受け取り乾杯をして飲み始める。
「あーー! 美味い!」
「グビグビ!」
「これがピールですか。ちょっと苦いんですね!」
初めて飲むピールの味は、なぜこれをみんなが飲みたがるのか、キルには理解できないものだった。
「はい。馬刺しとモーモウ肉のジンジャー焼き、クードム豆とポケルカサラダです」
小男がつまみを運んでくる。テーブルの上には美味そうな料理が並ぶ。キル達はその料理を口に運んだ。
「美味いぞ! この馬刺し。臭みも無いしお前も早く食べてみろ」
ロムがキルに馬刺しをすすめる。
「そうですか?」
半信半疑で馬刺しに手を伸ばし付属のソースをつけて口に運ぶ。
「う、うめー! 本当ですね。ロムさん」
口の中に広がる肉の旨みとソースに味わい。
「…………」
ホドも満足そうに頷く。
ロムはクードム豆を口に運んでいる。
「やはりピールにはこれが合うな!」
キルもロムに倣って、クードム豆をつまんだ。塩味のついたクードム豆は確かにピールのつまみに最適だ。ピール、豆、ピール、豆、エンドレスに続けられそうだ。
「美味いな! この豆」
キルはピールをグビグビと飲む。美味いつまみとピール。キルはみんながピールを飲むのがわかったような気がした。
「おーい!ピールのおかわりだ」
ロムが小男を呼ぶ。
「はいはい。三杯ですねー」
「そうじゃ! 三杯な」
「すぐお持ちします! 馬刺しのおかわりはいかが?」
なかなか調子の良い小男だ。ロムは上機嫌で追加の注文をする。
「おう、馬刺しと豆も追加だ!」
「クードム豆ですね! 毎度あり」
小男が喜び勇んで踵を返す。
晩飯を楽しむキル達にこの時気になる言葉が耳に入った。
「ーードラゴンがーー」
「!!」
三人が視線を合わせた。
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