361 情報収集 4

騎馬に乗った北方民族が村に向かって矢をいかけている。


 馬上から矢をいるという技は当然難易度の高いものである。


 馬上で両腕を離すのであるから両足でがっちりと馬の腹を挟んでいる必要があるし、揺れる体を制御しながら走る馬の上で流れていく的に狙いをつけるのは瞬間的な判断が重要だ。


 馬に振り落とされないだけでも大したものかもしれない。


 馬上で長く過ごす彼等はそんなことは簡単にこなすばかりか、背後を向いて矢を射るといった高度な技をほぼ全員が簡単にこなす。


 全兵士が中級騎士のレベルにあるといっても良い。

 

 だが、中級百人など神級冒険者一人で簡単に倒せる。


 キル達は騎馬の群れに突っ込んでいった。騎馬の足は速いが飛行速度の方が上回っている。簡単に敵をとらえて斬撃を加えた。


 最後尾から突入して先頭に抜けるまで、キルは十騎以上に斬撃を加え、三人で三十騎以上を倒して上空に去っていく。


 二度目は正面から突入し、最後尾に抜ける。この二度目の突入で敵軍の勢いは完全に消える。騎馬は歩みを止めその場で立ち尽くした。兵も半数近くに減っている。


 上空から三度目の突入をかけようすると敵はバラバラになって逃げ出していく。逃げいく先は替え馬を待たせてある残りの百騎のところだろう。


 逃げる敵を見て村の中から歓声があがる。


「助かったー!」


「やったー! あの人達、誰?」


「ザマー見ろ!」


 キルは逃げていく騎馬を見ながらロムに問う。


「どうします? 向こうの奴等も倒しておきますか? どうせまた、どこかの村を襲うのでしょうし」


「そうじゃな。本隊に知らせがいかぬようにここで殲滅しておいた方が良かろう」


「…………」


 ホドも頷く。


 村から村長らしき人物が護衛を連れて村を出てきた。こちらと話がしたいのだろう。礼でも言うつもりなのだ。


「情報収集のために話をしてみましょうか?」

 キルはロムと視線を交わす。頷くロム。


「あのー、助けていただいてありがとうございます。あなた様方のお名前を教えてもらえませんか?」


「俺はキル、こちらがロムさん、そちらがホドさんです。見た通りの冒険者です。北方民族の状況を調べにきています。村が襲われているのを見かけたので助けに来ました」


 キルが村長らしき老人の応対にあたる。


「そうですか。どうでしょう、何もありませんが村でお礼の食事でも……」


「これから奴等の逃げた先の仲間も一掃してこようと思いますので、それは遠慮させてください。それよりこの辺りの村の被害状況とかを教えていただけませんか? 他に襲われた村はないのでしょうか?」


 村長らしき老人が顔を歪める。


「最近、三つの村が襲われて皆殺しにされていると聞きます。ここより東の村です。次はこの村かと思い守りを固めていたのですが、やはり奴等はやって来ました」


「今年は例年よりひどいのでしょうか?」


「はい。例年は食料を献上することで話がつくのですが、今年は要求が大きすぎるとか、問答無用とか聞いています。奴等の食料がかなり足りないのかもしれませんね」


 村長の話にキルとロムが見つめ合い頷く。


「分かりました。俺達は奴等の後を追います。急ぎますのでこれで」


 キルはそう言うと空に舞い上がった。そして奴等の方向に向かう。ロムとホドがついてくる。


「思っていたより状況は良くなさそうじゃな」


「そうですね」


 眼下に替え馬を従えた残りの北方民族達が見えてくる。もう逃げた奴等との合流は果たしたようだ。


「馬だけでも三百以上いますね。人は百数十人か……」


「どうしたものかな……」


「あの馬だけでも捕獲したいですね。ちょっと無理かな……」


「…………」


「五〜六人ずつで一チームのようですね。」


 五〜六人の集まりがあちこちで地面に腰を下りし何やら話をしている様子。待機中はこうして過ごしているようだ。そういう塊が二十数個見受けられる。馬はその周りに繋がれていた。


 キルは飛行しながら作戦を練る。


「俺がステルス状態で近づいて斬り込みをかけますから、混乱したところを反対側から切り込むっていうのはどうですか?」


「そうじゃな! それでいこう」


「…………」


 ホドも無言で頷く。三人は敵に気付かれないように所定の位置に移動する。


「ステルス」


 キルの姿が足元から消えていく。そして音尾立てずに敵に近づいた。


 六人が無駄話に興じている傍に立ちスリープを唱える。そして大剣を一振りし六人の首を飛ばした。隣のグループの者はこの事態にまだ気づかず無駄話に興じている。


 キルは次のグループに近づきまたスリープを唱える。そして大剣一閃。五つ目のグループを片付けた時、死体に気づいた兵士たちが騒ぎ出した。


 キルはそのまま大剣を振りながら一つずつ敵のグループを潰していく。


 キルの姿が見えないため兵士は大混乱になった。なにしろ突然隣のグループ全員の首が飛ぶのだ。 見えないキルの方向に剣を構え恐怖の視線を彷徨わせる。


 その時、背を向けた兵士にロムとホドが斬り込んだ。右後ろからロム、左後ろからホドに攻撃され大混乱に陥る兵士に姿を消したキルの大剣が一閃、また一つのグループが全滅する。ロムとホドが縦横無尽に走り回りくるが静かに首を飛ばす。


 百数十人いた敵は誰一人逃げることもできず、あっという間に全滅していた。


 消えていたキルが姿を現す。


「うまくいきましたね。馬も回収できるし」


 馬はロープで繋がれたまま逃げられずにいた。


「チューリンまでこの馬を運ぶと途中で夜になってしまうな。さっきの村に運ぶとするか」


 ロムの考えに二人が頷く。


「プニプニ! 死体の処分を頼む」


「全部食べて良いんです?」


「ああ。だが、武具は回収したい。一箇所に集めておいてくれたら俺がストレージにしまう」


「了解!」


 キルの肩パッドからプニプニが飛び出してスライムの体に死体を飲み込んでいった。


 キル達はさっきの村に300頭の馬を運び処分を任せるとその後チューリンに飛んだ。

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