360 情報収集 3
「それで、彼等の動きは?」
キルは少しでも多くの情報を引き出そうと試みる。
「そうですね。多分近隣の三つの部族がこちらに向かうのかと……」
眉間に皺を寄せながらホルンが答える。
分からないことまで聞いても確かな情報は得られない。ホルンの表情から想像で答えているのは明らかだ。
だがその想像は今まで彼等を見てきた情報の蓄積から判断されているのだ。決して根拠のないものではないし多少は当てにしても良いだろう。というより聞いておいても損にはならない。
「その三つの部族の規模や族長のことを教えてもらえますか?」
キルがもう一掘り情報を掘り下げようとホルンを促す。
「スジタイ族八千、クムタイ族六千、ガムタイ族一万というところかな。それぞれの族長の名はスジヤム、クリゲン、ガガンジだ」
「今は、どの辺りにいるのですか?」
「そうだな。スジタイ族の集落を出たのが一昨日だ。東に二日行ったあたりにスジタイ族、クムタイ族とガムタイ族はそこから北東と南東に二日くらい離れたとこころいたと思う。今は多少移動したかもしれんがな」
ホルンが思い出すように上を見ながら答える。
「その距離なら一っ飛びじゃな。今晩はチューリンに宿を取り明日その三部族を上空から偵察するというのはどうじゃ」
「一っ飛び? 上空から偵察? 」
意味がわからないという顔のホルンを横目にキルが同意する。
「そうですね。そうすればかなり状況が分かるでしょう」
「それじゃあ、チューリンに飛ぼう。ホルンさん、いろいろ聞けて助かったぞ。それじゃあ道中気をつけてな」
ロムがホルンに別れを告げるとホルンが引き留めた。
「ちょっと待ってください。コボルトの素材は倒したあなた方に権利がある。なんなら私に買い取らせてください」
キルとロムは顔お見合わせて頷く。
「それは良いですよ。そちらで好きにしてください。また何かの時はよろしくお願いします」
「いや、命を助けていただいた上にコボルトの素材までいただくなんて申し訳ない。では感謝の印として何か差し上げたい。すこしおまちを」
キルとロムは苦笑する。ホドは黙って遠くを見つめる。
ホルンが荷馬車から戻ってくる。
「つまらない物ですが、東方の特産品で真珠の首飾りと翡翠の腕輪です。女性を飾る品ですみませんが、大事な方にでも……」
差し出された品はかなり高価な物だと一目で分かった。
ロムがホドにめくばせすると、ホドは頷く。その目が高価な品なのかと聞いているのは明らかだ。ホドは東方出身者である。
キルはロムとホドの様子を見てから差し出されて品を受け取った。受け取った方がこの場が揉めることなくあっさりと済ませられると思ったからだ。
「どうもありがとうございます。こんな高価な品を貰ってしまって申し訳ないです」
軽く会釈をして踵を返す。そして少し離れたところで『フライ』を唱える。
上空に舞い上がっった三人は、チューリンを目指して引き返す。眼下に助けた商隊を見ながらその周りに危険がないのを確認し、更に上昇すると西にチューリンの城塞が見える。
南に小さな村らしい柵に囲まれた集落が見える。そしてその東に上がる土煙。
「おいあれ!」
グラがその煙を指差す。なんとも国境付近というのは危険な場所なのだろう。
「あれは北方民族の小さな一団が村を襲おうとしているみたいですね。馬に乗った北方民族が武器を振り上げて村に向かっています。百騎程度ですね」
それが北方民族なのは服装や顔のカラフルな刺青で一目瞭然である。
村に向かう目的が略奪なのは振り上げている武器を見れば間違いないだろう。
キルの千里眼にかかれば馬上の人間の険しい顔の表情までハッキリと見えるのだ。
それは戦いに臨む者の表情であり、決して観光を楽しもうとする者の顔ではなかった。
「行きましょう」
「そうじゃな!」
「…………」
キル達は南に方向転換する。
「さっきの話だと一番近いスジタイ族の集落まで荷馬車で二日のはずですよね?」
「たぶん、そこの一群が稼ぎに出張ったんじゃろう」
「日帰りできないところも攻撃目標になるんですか?」
キルの質問にホドがぼそっと答える。ホドの方が北方民族の習性には詳しいのだ。
「片道三日は余裕で襲う」
別の意味でキルはホドの解説に驚く。
「たぶん近くに本隊がいる。そこに代えの馬を数頭連れているはずだ」
キルが千里眼で周囲を見回す。そしてホドの言うように代えの馬を引き連れた一団を見つけた。
「確かにいました。馬をたくさん、四百くらいかな……連れてますね。人の数はやはり百くらいのようです」
「彼等は移動の時、全速力で馬を走らせるから普通より早く移動できる。そして疲れた馬を取り替えるから一日中最高速度で動けるんだ」
ホドの説明を鑑みれば、彼等に取っては本拠地からここまでは一日くらいの距離なのかもしれない。
キル達が話しながら飛んでいるうちに、彼等は村に矢を射かけ始めている。
村人は柵を頼りに盾に隠れ矢で応戦を始めた。だが村人は少なく村じゅうを守るにが戦力が足りない。
騎馬の移動力は高く守りの薄い所に移動されて集中攻撃をされている。いずれ突破されるのは明らかだ。突破されれば村のあちこちで殺戮と陵辱が行われるだろう。そうなれば、そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。
キル達は攻撃されている村に急いだ。
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