359 情報収集 2
翌日、チューリンに向けて飛行する三人。
チューリンは昔から北方民族からの攻撃を防いできた防衛の最前線である。一際高いその城壁は、魔物だけでなく何度も北方民族の攻撃を跳ね返してきたが、同じように何度も侵入を許している。その度に、住民は皆殺しにされるか、奴隷として連れ去られるかしてきたのだ。
北方民族は土地所有の概念を持たず、食を求めて移動する生活を続けてきたので奪った領地に固執しない。その地の食料を食い尽くすと、食を求めて次の土地に移動していく。
彼らにとって他者は食を奪う対象でしかなく、略奪と支配の標的だ。人とその持ち物には興味を示すが場所に興味は無いのだ。
故に、チューリンの城壁は破壊と再建を繰り返してきたのである。そして再建のたびにその防衛力は上昇してきた。そしてここ数十年、辺境伯マルス・フランシスの代になってからは、戦いと交渉を繰り返してはきたが、北方民族はこの城壁を越えることはできなかった。
マルス・フランシスは、硬軟とりま混ぜた対応で曲がりなりにも領地を守ってきた名将と言えるのかもしれない。
「あれがチューリンだな」
「…………」
ロムの言葉にホドが頷く。ホドは東方から流れてきた時、一度この城塞都市を通ったことがあるのだ。
チューリンの城壁は何度も修理改修を繰り返しているために、その見た目はつぎはぎだらけで不規則な模様が施されているかのように見えないこともない。
「やっと到着じゃな」
「チューリンの東の方向で魔物と人が戦っているようですね。魔物に襲われているのかな?」
チューリンの上空に近づいたキルは、商隊らしい一団が魔物と戦っているのを発見した。
「キル君の察知能力はさすがじゃな。千里眼で見えたのか?」
「はい。間違いなく商隊が襲われていますね。魔物はコボルトの群れのようです」
「どうする。助けに行くか?」
「急ぎましょう。まだ助けられるかもしれません!」
キル達は全速力で助けに向かった。
「バウワウ!」
「ワウウオーン!」
「クソー!」
商隊の護衛の冒険者がコボルトを相手に奮戦していた。
コボルトは狼男のような魔物で、二足歩行で武器を持ち防具も身につけている魔石さえ体内になければ犬型の獣人と言ってもわからない魔物である。もっとも防具を身につけている個体の占有率は百%ではないが。
彼らは人と変わらぬ背丈で個体としてはそう強くはないが、三十匹から五十匹の大きな群れで襲ってくるため、狙われると厄介な魔物だ。
今回も五十匹以上の大きな群れが東からやってきた商隊を襲っているようだ。彼らにとって人間は食料だ。そして武器や防具も奪って利用する。
商隊側の冒険者は十人で、一人当たり五体のコボルトを相手にするのは厳しい状態だ。多勢に無勢ということもあり、冒険者達は苦戦を強いられている。
ガキーン! ガキーン!
剣と剣がぶつかる音が響き渡る。
「グワー! クソ!」
手傷を負わされた冒険者が悔しそうに引き下がる。
このままではジリ貧だ。このままでは助からないーーと覚悟を決めた冒険者が最後に足掻きだとばかりに撃ってでる。
「ダーー!」
「ウオーー!」
コボルト達は、冒険者達の必死の抵抗を冷ややかな目つきで冷静に躱し、囲い込んでジリジリと虐めるように追い詰める。
冒険者達の瞳に諦めの色がやどる。
「くそ! これまでか……」
「ギャワー!」
「キャイ〜ン」
突然コボルトの群れの後ろでそれは起こった。
バシュー! ズバー!
キラリと閃光が走り、血潮が飛び散る。コボルト達がばたばたとたおれだす。
「助けにきました! 頑張ってください!」
キルの声が響き渡る。
「シールドバッシュ!」
ドカーン!
ロムの盾でコボルトが吹っ飛ばされて宙を飛んだ。
「……」
黒髪の剣士ホドが駆け抜け、コボルトが寸断され倒れていく。
キルが片手で大剣を振り抜くと、一気に五匹のコボルトの上半身が分断された。
「ワオーーン!」
コボルトの群れは一瞬のうちに半数に減っていた。手強い相手だとキルに狙いを定めて残りのコボルトが殺到する。だが、その判断は大きな過ちだった。
キルは大剣にエネルギーを込め気合と共に横に薙ぐ。
『空間切り』
キルの大剣が空間ごとコボルトの群れを切断し、瞬時に全てのコボルトが二つに切断され、次の瞬間崩れ落ちた。
商隊の冒険者達がキルの強さに目を点にしてフリーズしている。
(ひ、一振りで? なんだこいつら、とんでもねー強さだ)
コボルトの群れを全滅させたキルは、襲われていた商隊の冒険者達に笑顔で話しかける。
「なんとか間に合ったようです」
「助かった。もうダメだと諦めかけていたんだ。助けてくれてありがとう」
怪我人の手当てとコボルトの回収が始まる。
「私はホルン、この商隊を率いるものです。本当に助かりました。何かお礼がしたいのですが、欲しいものがあったら言ってください。あるものなら差し上げます」
ホルンと名乗る商人が馬車から現れて話し始める。
キルとロムは顔お見合わせ、頷く。
「それじゃあ、北方民族の動向を教えていただけませんか? チューリンに攻め寄せそうな気配はありませんでしたか?」
「今すぐに攻めてきそうというわけではありませんが、その可能性はあります。私達は移動の途中で、彼等と商いをするのですが、食料は不足しているようで、全て売れてしまいました。武器も欲しがっているようでしたから戦いに備えている節はあります」
ホルンが思い出すように下顎に手を添える。
グラとホドが眉根を寄せる。
「良い話が聞けてありがたいです。やはり商隊の方からは、最新の情報が聞けて助かる」
「そんなことで良ければいくらでもーー北方民族に強いリーダーが現れて、たくさんに分裂していた部族が一つにまとまったようです。テムジという男ですが、各部族の長も強力なものが多い中、それらを心酔させ、今では手足のように使いこなしています」
「なんじゃと。統一の噂は本当じゃったのか」
ロムが真剣な眼差しをホルンに向けた。
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