339 ザロメニア城塞の攻防 28

ビッグベン軍に戻った『15のひかり』にビッグベンが駆け寄った。


キルの手に下げられた首を見て問いかける。


「それは、あの星8か?」


「はい。飛んできた最強の獣人です」


「勝ったんだね。爆発は此処からでも凄いのが分かったよ」


ビッグベンの言葉にキル達が苦笑する。


「多分それがこの獣人達の王、オリンピアサドニスの首だ。キングナバロに報告しておくよ」


「戦況はどうなっていますか?」


「順調に進んでいるよ。此方が優勢だ。各軍の将軍を倒せれば、後の兵士は殲滅出来るだろう」


グラとホドが顔を見合わせて頷いた。


「それじゃあその三人を倒しに行こうか?」


「………」


「敵は星7レベル。油断は禁物です。全員で行きましょう」

キルが倒しに行こうとするグラを押し留める。


「グラったら、一人で勝てるつもり。相手も神級レベルなんだから油断してるとやられるわよ?」


サキがグラを構う様に言った。


「アハハ! そ、そうだね。皆んなで行こうか?」


グラが照れ笑いをして誤魔化す。


「そう急ぐことは有りませんぞ! 今強敵と戦ってきたばかりなのですから少し休んで下さい。我が軍も敵を押し込んでいますしね」


ビッグベンが少し休む様にといたわった。確かに今はロマリア軍が優勢だ。獣人軍は撤退戦をしていると言ってもいい状態にあった。


一人一人を比べれば獣人は人間より強い種族だ。特に虎族は強いと言える。


だが今の状況は兵数の差が圧倒的に違う。三倍から四倍の兵力差が生じているのだ。一人で三人を相手にするのは並の兵どうしでは辛いものがある。しかも今は獣人軍の指揮が低すぎた。


大きな波に飲まれる様に獣人達が倒されている。


ビッグベンはその状況を良く分かっていてキル達の出番はもう少し後だと思っているのだ。


「お気遣い感謝します。ですが、獣人軍には後三つ神級レベルの強い気配が残っています。おそらく敵の将軍です。それさえ倒してしまえば、敵の反撃の芽は無くなるでしょう。どうせですからそこまでやってから休む事にしますよ」


グラが皆んなに目配せしながらビッグベンの申し出を断った。


サキも皆んながやる気十分なのを一目で確認する。


「じゃあ、最後のお仕事にいきましょうか?」


「飛ぶよ!」


グラの掛け声で全員がゆっくり浮き上がり、上空で頷きあうと一気にスピードを上げて戦場に向かう。雲一つない晴天の空を13の人影が矢の様に飛んでいった。


「キル班は正面、ロム、ホド班は右の奴を頼む。俺の班は左の奴を倒しに行くぞ!」


グラが一声かけると真っ直ぐ飛んでいた13の矢が三つに分かれてそれぞれの敵に向かった。


キル、クリス、ケーナ、ユミカの四人はノートザンギ。グラ、サキ、モレノ、ルキアはピートキャスト。ロム、ホド、エリス、ユリア、マリカはグラムヒューイットの担当だ。



真っ直ぐ進んだキル達は眼下にノートザンギを捉えて攻撃を開始した。


ケーナが千の矢を放ってノートザンギとその周りの獣人をハリネズミにした。


ケーナのエネルギーの矢を回避できたのはノートザンギただひとりだった。


一人立つノートザンギの元にキル達四人が降りたった。問答で戦いが開始される。


「歯ごたえにありそうな奴であるな。私に任せてくれないか?」


ユミカが一対一の闘いをしたいらしくキル達に手を出さない様に懇願の視線を送った。


「仕方ないわね」


「ユミカはそう言うと思ったっすよ」


「危なそうなら手を出すからね」


三人の許可を取り付けたユミカが嬉しそうに拳を揉んだ。


「勝負だ! 獣人。私はユミカ。あなたの名前を聞いておこう」


ノートザンギが空から降りてきた四人に警戒しながら彼の武器(巨大な金棒)を握りしめた。


「俺はノートザンギ。獣王オリンピアサドニス様の右腕と呼ばれた男だ」


「と言うことは獣人軍のナンバー2ということであるか?」


「ナンバー2は左腕と呼ばれていたマリクべナムだ。行方しれずだがな」


「そいつも獣王もキルさんに倒せれたであるな。つまり残った獣人の中であなたが最強ということであるな。相手にとって不足はない」


ユミカが笑顔になり、ノートザンギがキルのことを睨んだ。見ただけでもキルがこの中で一番強いという事は分かるのだろう。一番強そうなキルが二人を殺したのは名を確認しなくても分かったのだ。


「次はお前だ!」


ノートザンギがキルを指さして挑発する。


「ユミカを倒せたら相手をしてやる」


キルもノートザンギを睨み返した。


「行くぞ!」


ユミカが拳を構えてノートザンギに一歩詰め寄る。ノートザンギは鉄棒をユミカに向けた。


拳と鉄棒ではその攻撃の間合いが全然違う。普通であれば鉄棒の方が圧倒的に有利だがユミカの拳には遠距離攻撃のアーツがある。


「飛竜拳!」


突然金棒の間合いから繰り出された遠距離攻撃にノートザンギが対応しきれずに引き気味の態勢で胸に飛竜拳を受けて後方に飛ばされた。


「グホ!」


顔を歪めて耐えながらそのまま追撃を逃れるためにさらに意図的に飛び後ずさる。


ユミカは追撃の手を緩めず一瞬で間合いを詰めた。


気がつくと目と鼻の先にユミカが居り正拳突きが繰り出された。ノートザンギは鉄棒を前に出してユミカの拳を受けるがその威力でさらに後ろに飛ばされる。


ユミカは追い続け連続で正拳突きを打ち込み続けた。

ノートザンギがユミカの拳を受けながら、なんとか態勢を立て直した。


ユミカは間合いをとって息を整える。


ダメージは相当与えたはずだがまだ倒れないノートザンギを見て打たれ強いなと感じるユミカだった。


「まさかあんな技を使うとは、だが二度は喰らわんぞ!」


飛竜拳はもう覚えた。同じ技を二度貰うノートザンギではない。勝負はこれからだ。

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