340 ザロメニア城塞の攻防 29
苦しそうな顔でノートザンギがユミカをにらみつける。ダメージは決して軽くはなかった。
(やるな、此奴思ったより強敵だ)
ノートザンギが鉄棒をユミカに突きつけて身構えた。全身から闘気が立ち昇る。
「猛虎狂突牙!」
ノートザンギの突きが唸りを上げてユミカを襲う。ユミカはその突きを紙一重のところで躱した。ノートザンギが突き続けた。ユミカはその突きを躱し続ける。トリプルスキンシールドにかすってそのシールドを砕きことがあってもユミカの身体には傷ひとつつけられなかった。
(鋭く強い突きであるがまだまだであるな)
ユミカは躱しながら余裕を見せる。
「千手真拳豪衝連撃!」
ユミカはアーツを使って反撃に転じた。今度は無数の拳がノートザンギをおそった。
ノートザンギは金棒をプロペラの様に回転させてユミカに拳を弾き飛ばす。
二人は互いに攻撃し、防御しながら白熱の戦いがつづく。
「結構やるっすね!」
「互角の様ですわ」
クリスとケーナが二人の戦いを観戦しながら心配そうにしている。
「いや、ユミカの方が強いよ」
キルが二人の心配を打ち消す様にユミカの勝ちを予想する。
「飛竜拳!」
「猛虎狂突牙!」
強力な攻撃が飛び交う。
二人は肩で息をしながら互いの隙をうかがった。
周りの獣人兵はロマリア兵に討たれていなくなっていた。前線は川向こうまで押し上げられている。ノートザンギは一人ユミカと戦っている状態だ。
初めのうちはキル達が近付く獣人兵を遠距離攻撃で追い払っていたが今はもうその必要もない。
「ター!」
ユミカが通常の正拳突きを連続して繰り出す。ノートザンギがその拳を鉄棒で受け止める。
唸りを上げる正拳突きを受けた金棒にかかる衝撃で、ノートザンギが苦痛うに顔を歪めた。
受け止めるだけでもかなりのダメージが蓄積している様だ。
ユミカは時々ハイヒールなどで回復しているのでダメージの蓄積は少ない。ここに来て二人の勢いに差が生じてきていた。
「キル先輩の言う通りっすね〜」
「ユミカちゃんの方が余裕があるみたい。ハイヒールとかで回復できてるのが良いのかしら」
「そうだね。もうそろそろ獣人の反応が落ちて来ているし、そろそろ決着がつきそうだよ。獣人は耐えているけど金棒はそろそろ限界だ。武器破壊するつもりは無くてもこのレベルの戦いともなると、武器が壊れる事はあるだろうね」
ユミカのドラゴンナックルは自己修復能力を持っている。このクラスの武器を使っていなければ、それだけでも不利だったと言えるだろう。ノートザンギが使っていた金棒ではランクが低すぎた。
キルの予想の通り、ユミカが攻撃を繰り返しているうちに金棒の金属疲労が限界に達したのだ。
「バキーン!」
ユミカの正拳突きを受けた金棒が二つに折れる。
「ま、まさか!」
ノートザンギが驚きの声を上げた。ノートザンギは折れた金棒を二刀流に構える。
だが、付け焼き刃の二刀流ではユミカの攻撃を凌ぎ切る事はできなかった。
繰り出される連撃を幾度かは避けたが避けきれず被弾して吹っ飛ばされた。
ユミカは倒れたノートザンギの鳩尾に上から右の正拳を撃ち下ろした。
「グエ!」
ヒキガエルを潰したような声を出してノートザンギが気絶する。
ユリアは満足そうに振り向いてキル達のに視線を向けた。
「ユミカちゃん、勝ったっすね」
「凄いわ! ユミカちゃん!」
クリスがユミカに手を振って祝福した。ユミカが照れながら歩み寄る。
「スッキリしたである」
ユミカにとっては強い敵を相手に会心の闘いができたというところだろう。
「グラさん達とロムさん達はどうなったかな?」
「どうなってるか見に行くっすよ」
「それが良いであるな!」
ケーナもユミカもグラや、ロム達が敗れることなどこれっぽっちも考えていないようだ。
索敵で気配を察知した感じではグラ達は敵を倒して此方に戻る途中のようだ。
ロム達の戦いも敵の状態からしてもうすぐ終わるだろう。勿論勝ちだ。
「もうすぐグラさん達は此処に来るし、ロムさん達も勝ちそうだ。此処でグラさん達と合流してからロムさん達を迎えに行こう」
(これでやっと獣人軍との闘いが終わるな。それにしても戦争は多くの犠牲者を出してしまうのだな)
キルが感傷にふけっているとグラ達が戻って来た。
「皆んな無事でよかったですわ」
クリスが小声でつぶやいた。
「勝ったであるな?」
「もーちーろんよー」
「大した事なかったね。あんなの余裕さ!」
「モレノ、実は危なかった」
得意に強がるモレノをジト目で見ながらルキアが言った。
「もー! ルキアったら、そんな事なかったよ〜」
モレノは顔を赤らめてルキアを揺する。
「ロムさん達の所に行きましょうか。もうすぐ勝負がつくようですけれど」
「そうしよう」
グラが頷きサキがロム達の方を気にしている。
「あ! 終わったみたいね。無事買ったみたいだから此処で待っていても良いみたい」
「本当だ。終わったね」
「グラさん、獣人との戦いもこれで終わりですよね? これからどうします?」
キルが今後の事について相談しようとした。
「あの、私一度ルビーノガルツに戻りたいと思うん出すけれど」
クリスがキルの横に来てキルを見つめる。ケーナもクリスに寄り添ってニッコリと笑った。
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