336 ザロメニア城塞の攻防 25
ロマリア軍と獣人軍の戦いは、ロマリア軍が再び押し始めた。
各所で獣人軍の副官のヘキサグラムズが討ち取られた事が戦局に大きく影響していた。
『15の光』は定位置に全員戻っている。
キルは敵のオクタグラムの出現に備えていた。ここまで出てこないところを見ると相手もこちらの空軍の出撃に備えているのだろうと思った。
誘い出す為にこちらの空軍を出撃させようか? だがオクタグラムは強い。戦いは慎重にならなければならない。冒険者の死亡率は30%を超える。その大半が新人冒険者だったとしても、たとえ十分な備えをしたベテラン冒険者だったとしても、突然の死はすぐ隣にある。
ましてや危険を感じる未知の強者を相手にするとなれば、その戦いはできれば避けて通りたい。
此処でこの集団を殲滅しておかなかった時、戦力を整えてまた侵略を始めたとするとどうだろう?
今全滅させてしまえば安心かもしれない。だがここまで敵を減らしたのだからもう大丈夫かもしれない。
戦うべきか?戦わざるべきか?戦えば勝てるのか?仲間に死者を出さずに済むだろうか?
キルの眉がつりあがる。
ここまで来て、禍根を残して帰るのか?このヘタレめ。いや、此処で引いておくのは後日確実に勝つための時間稼ぎ、戦略的撤退だろう。ましてや戦争としては勝っているのだ。キルは自問自答する。
キルの厳しい表情を見てクリスが心配そうな顔をする。
「大丈夫ですよ。皆んなで戦えばきっと勝てます。新しいスキルも用意しましたし」
そういうクリスに勝利の確信はまるで無い。皆んなで戦うと言っても自分が足手纏いにならないか心配になる。ただクリスには命を賭ける覚悟があった。
初めて見たオクタグラムの強さには、その身が放つ闘気にでさえ圧倒された。勝てないと感じていた。
「クリスは凄いね。俺は本当はあのオクタグラムにビビっているのさ。恥ずかしいけどね」
キルがクリスを見つめる。
「私もですよ。誰だって怖いと思いますよ。あれを見たら」
「そおっすよ! 自分なんてあれを見た時は少しちびっちゃったすもん。内緒っすけど」
ケーナが小声でキルに耳打ちした。キルの顔が少し和らぐ。
キルは二人の様子を見て覚悟ができていないのは俺だけだったのかと思う。そして自分を恥じた。
ケーナにしてからが、こんなにリラックスしているとは……。
「さて、俺たちもそろそろ出撃しようか!」
キル達は独立遊軍の立ち位置にある。ある程度の自由度が認められている。勿論要請によって動かなければならない事もあるが、要所では自分の判断を優先しても良いのだ。
そして今はロマリア軍が獣人軍を押し込んでいるまさに要所、此処で空からの攻撃を行わなければ敵のオクタグラムが陸の戦いに参加するところだろう。そうなればこの勢いが止められる事も考えられる。
そう。今この時が空軍出動の好機なのだ。
「行くわよ!」
サキが少女達を見回した。
全員がスキルを使ってバフをかける。
「「「攻撃力強化! 防御力強化! 腕力強化! ………」」」
全員が全てのステータスの強化用のスキルスクロールを使ってスキルを取得済みだ。
「「「トリプレットスキンシールド! マキシマイズオートカウンターアタック! グラビティーフィールド! オートマチックハイヒール!」」」
キルは対オクタグラム用に全員に四つのスキルを覚えさせている。
『マキシマイズオートカウンターアタック』は受けた攻撃の半分の威力の攻撃を反射して攻撃相手に撃ち返すスキルだ。
『グラビティーフィールド』は自分の周りに相手に重力の抵抗を与える球状の空間を作り出すスキル。これによって敵の動きに負荷がかかり、動きが遅くなる。
『オートマチックハイヒール』は一撃がハイヒール回復量相当のダメージを受けた時にハイヒールが自動発動されるスキルだ。
オクタグラムと戦う為に、キルはかなりの準備を行ったのだ。実際キルはこんな準備が必要な時が来るとは思ってもいなかった。これほどの強化を行なっていても不安は無くならない。誰も死ぬ事が無いようにと願った。
『15の光』が空中に飛び上がった。そして川に向かって飛行し、攻撃を開始した。
敵軍から空に飛び上がってくるものが一人現れる。予想通りオクタグラムは空軍に備えていたのだ。
やはりな! とキルは思う。此処が本当の勝負である。
「来たぞ! 全員遠距離攻撃!」
全員がオリンピアサドニスに集中攻撃を開始した。
矢が飛び剣撃が飛び、無数の槍が飛ぶ。オリンピアサドニスはその全てを回避することは出来ないが、それでも九割以上の攻撃を回避し平気な顔で近づいて来る。
キルが一人前に出てオリンピアサドニスを迎え撃とうと身構えた。
「凄い集中攻撃だな! この前とは攻撃人数が違うのか。 まさか全員から遠距離攻撃を受けるとは思わなかった。この前はたった二人だったのにな。この前の撤退はなんだったんだ」
オリンピアサドニスがダメージを気にしながら呟いた。今まで空から地上に攻撃していたのは五人と報告を受けていた。まさか遠距離攻撃を出来るのが全員とは思っていなかったのだ。
「フ! 近づいてしまえば撃つことも出来まい!」
オリンピアサドニスが両手剣で攻撃を弾きながら無理やり高速で近づこうとしていた。
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