334 ザロメニア城塞の攻防 23

ビッグベン軍とグムヒューイット軍でも始めは押していたビッグベン軍にグラムヒューイット軍の副官二人が斬り込んでいた。


そしてその二人、マルスケーリッヒとライトノアの元にはエリスとユリアが向かっていた。


「強いの出てきたみたい? あまりやられないうちに、倒しに行こうー」「うん。うん」


良いよねという視線をキルに向けるふたり。キルは黙って頷く。そして二人は楽しそうにマルスケーリッヒの方に向かって行った。マルスケーリッヒを倒したら、ライトノアの方に向かうつもりだ。


「良いなあー! 私も行きたい」

モレノが羨ましそうにエリス達の後ろ姿を見送る。ルキアもやはり羨ましそうに二人を見送っていた。


キルはやれやれという表情をしてから二人に言った。


「ルキアとモレノも行ってくれば? 倒したらすぐに帰ってきてね!」


二人が満面の笑顔になってルンルンしながらエリス達が向かっている副官とは別のライトノアの方向に歩き出した。やや足取りがスキップになっている。


おいおい、遊びじゃないんだけどな……と思いながらキルは苦笑した。

四人の戦いを少しも心配していないキルだった。王級の実力者一人に、神級冒険者が二人がかりで挑もうというのだから、安全マージンは取りすぎという物だろう。


エリスは立ち止まるとユリアを見る。

「あら、モレノとルキアがもう一人の副官の方に向かっているようね。それでは私たちはこっちの強そうなのだけを倒したらお終いね。二人で一人か〜! 残念」


「え〜! じゃあ〜この子はエリスにあげるわ! 次は私にちょうだいね、ウフ!」

ユリアがニコリと笑ってエリスに腕を絡ませた。


「ありがとう、ユリア。それじゃあ次はユリアにあげるね」

エリスがユリアに笑いかけながら言った。そして二人は、またマイペースでマルスケーリッヒの方に歩き出した。


「あ! いたいた。あれね」


エリスの声を聞いてマルスケーリッヒが視線を向ける。


「ほーう。人間にも強そうなのがいるんだな。おもしろい」

マルスケーリッヒが剣を向けエリスに狙いを定めた。


互いに剣を振り下ろし二人の剣がぶつかる。


「ガキーン!」


互いに受け止めた剣で押し合うような状態で二人は静止した。剣を挟んで睨み合う。


二人の剣がガタガタと小刻みに震えるのは力比べになっているからだ。


「おまえ! 何者だ?」


「エリスよ! 名前くらいは教えてあげるは」


互いに後ろに飛び跳ねて身構える。


「死ね!」

マルスケーリッヒが剣を振り下ろした。エリスが受け止める。マルスケーリッヒは連続してエリスに斬りかかるがエリスはその全てを弾き返して微笑んだ。


「あなた、まだまだね! 剣速も剣圧も全然弱すぎる」

エリスは逆にマルスケーリッヒの剣を弾き返すと攻撃に転じた。エリスに剣がマルスケーリッヒに振り下ろされ、マルスケーリッヒはエリスの剣を受けるので精一杯だ。


「あわわわわ……」


「えい!」


顔色を変えるマルスケーリッヒの喉元にエリスの突きが放たれた。


「ウグ!」


エリスの剣がマルスケーリッヒの喉元を突き抜ける。エリスが剣を抜くとマルスケーリッヒはばたりとたおれるのだった。


「もう倒しちゃったの? もっと楽しめばよかったのに!」

ユミカが口に手のひらを当てながら目を見張る。


「だって、大したことなかったのよ。拍子抜けだわ」

エリスはつまらなそうにベロを出してポーズをつけた。



一方モレノとルキアは二人でライトノアと戦っていた。


ライトノアは槍使いだ。2m半の長槍は柄まで全て金属製だ。殴られるだけでも並の人間なら即死級のダメージを負う。身長2mのライトノアが持つとさほど長く見えないがモレノの持つ槍は2mで、それより50cmも長い。太さも一回り太い。それは衝突時の物理エネルギー量の多さに直結する。


その槍の攻撃をモレノとルキアは軽々と受け止めた。彼女達の体は強化魔法で底上げされている以外にも三重のエネルギーシールドで覆われているのだ。仮に最外層のエネルギーシールドを破壊できても瞬時に再生させることができるため割っても割っても元に戻る。


三重のエネルギーシールドは今回キルが『15の光』の皆んなにスクロールを配って覚えさせたスキルだ。

『トリプレットスキンシールド』

これは星8相手に瞬殺されないように紋様辞典を調べて見つけ作って皆んなに使わせたのだった。


キル自身が少しでも星8相手に防御力を上げておきたかったのもあるが、仲間が殺されるのをできるだけ避けたいということもある。このスキルの発動によって三重のエネルギーシールドが敵の物理攻撃の衝撃をクッションのように吸収する。その為に強烈な敵の物理攻撃も軽く感じられるのだ。


そもそも神級の二人はステータス的にライトノアを上回っていたのだから、その攻撃を軽々と受け止めた弾き飛ばしても不思議ではないのだ。


「無限突き!」


モレノが金色の髪をなびかせながら見えないほどのスピードで無数の突きを放つ。

無数の槍が襲って来たように見えるほど、その高速の連続突きは残像を残すのだ。


「グハ!」


ライトノアが身体中を突き抜かれて血まみれになり崩れ落ちた。


「どんなもんだい!」

モレノは胸を張り、得意げにルキアを見る。

ルキアは呆れたように横を向きながら言った。


「コイツが弱すぎ」


「へへ! そうだけどさ。早く戻ってこいって言ってたから、戻ろうか?」


ルキアは頷きキル達の方に戻り始めた。



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