332 ザロメニア城塞の攻防 21

ヒッコルトとダネージョが ビルアダムスにジリジリと近づく。


ビルアダムスは隙だらけのようにだらりと大鎚をぶら下げているが実は全く隙がないのだろう。

ヒッコルトとダネージョの額に汗が光っている。


あれほどの大鎚を自在に振り回しているあの腕力は刮目に値するとヒッコルトは思った。


ビルアダムスがその大鎚を肩に背負って左手で手招きをした。

「さあ来いよ! 俺の大鎚が怖くて近寄れないか? ククククク!」


九人の特級冒険者はビルアダムスの周りの獣人達を近づけないように戦っていた。ビルアダムスと三人の聖級冒険者の周りに広いステージが用意されたようだった。


ダネージョがその槍をビルアダムスにむける。


「たー!」


ビルアダムスが体を捻ってダネージョの槍を躱し担いだ大鎚を振り下ろす。ダネージョも横っ飛びに飛んでその一撃を避けた。大鎚が地面にめり込んで地面が揺らぐ。


「ククククク! いいね、いいね! どんどん来なよ」


ビルアダムスが地面にめり込んだ大鎚を軽々と引き抜きぐるりと回した。


「あの大鎚を軽々と……」

ダネージョが呟いた。


ヒッコルトが剣を振りかぶり瞬足で間合いを詰めるとその剣を振り下ろした。そして連続して横になぐ。常人には見えないスピードだ。その連撃をビルアダムスは難なく躱した。


ビルアダムスはすでにヒッコルトの剣の間合いから外れている。左に避けてから大きく後ろに下がったのだ。


「ドオリャア!」


今度はヒッコルトが大鎚を避けて後ろに飛んだ。元いた足元に大鎚が打ち当たり大音響と土煙をあげる。


「ドカーン! バラバラ」

弾けた土くれがヒッコルトに当たって飛んだ。


ファーブルが爆射攻撃をすると大槌を振り回してその矢を爆発させる。


すかさずダネージョが槍でつく。ビルアダムスがその攻撃を躱した反撃をする。


三人とビルアダムスの戦いは一進一退の攻防が続いく。




中央の戦い。拳王バットウ軍とノートザンギの軍の戦いも始めはバットウ軍の優勢で始まったが二人の副官の参戦でやはり二箇所で押し込まれ出していた。


ガッツドゴラ、双剣使いの大男。虎族のヘキサグラムズは皆巨漢だがこの男は例外的に180cmしかない。180cmは人族なら小さいわけではないだろうが獣人特に虎族の中では平均的な身長だ。


だがその強さはもうすぐ進化するのではないかと思われるほど強かった。


もう一人の副官はゴメスキメラ。こいつは2mの大女で武器は大剣だ。その体験は幅が広く横にすれば盾にも使えそうだ。その重量級の大剣をブンブンと振り回せば飛べるのではないかと錯覚してしまうほどの風を起こす事もできる。


その二人が参戦することによってバットウ軍は切り崩されていた。二人の狙いはこの軍を指揮する剣王バットウだ。剣王バットウの目には二つの波が軍を突き破って自分を目指して突き進んでくるのが見えていた。


「此処に来るのは時間の問題か。二人同時に来られるのはまずいな。どちらか片方を先に迎え撃つか?」


剣王バットウは剣を手に歩きはじめる。そして片方の波に向かってすすんでいった。

バットウの前にマリクゴドラが現れたのはすぐだった。


「見つけたぞ! お前がこの軍の指揮官だな」


「勘違いするな。見つけたんじゃない。俺が出向いてやったのだ!」

バットウが剣をぬく。


マリクゴドラは向かってくるロマリア兵を両手の剣で切り刻みながら歩み寄ってきた。不敵にその口の端を吊り上げて静かに笑う。


「ふふ……わざわざ自分から死にに来るとは愚かな奴」


「ふ! 残念だがお前にこの命はくれてやれんな。ーもう一人の相手もしなくてはならないからな」


「奴には悪いが、あいつはお前に会うことはないさ。お前は此処で死ぬのだからな」


「悪いがお前に時間はかけられないんでね。いくぞ!」

剣王バットウがガッツドゴラに斬りかかった。バットウの剣をガッツドゴラは片方の剣で受けるともう片方の剣で反撃の剣戟を打ちつける。バットウは体を捻ってその剣撃を躱した。


バットウが剣を振り、その攻撃を躱したガッツドゴラはすかさず返しの剣戟を繰り出す。そして続け様に斬りつけた。


バットウはガッツドゴラの二本の剣戟を跳ね除け続けた。


「く! なかなかやる。すぐに倒して次に向かうつもりだったが簡単には行かぬか」

バットウの顔がゆがんだ。


「オラオラオラオラ!」

ガッツドゴラが勢いづいて剣撃のスピードを早める。バットウはその剣戟をを受け続けた。


「ガキーン! カキーン!」

剣のぶつかる音が響き続けた。


バットウとガッツは互角の戦いを続けている。実力が伯仲しておるのだろう。一人をすぐに倒してもう一人に向かうというバットウの思惑は完全にはずれてしまった。


まずい、時間がかかればもう一人の奴が此処にきてしまう。焦るバットウの剣撃にいつもの鋭さは感じられない。ガッツドゴラに押され気味なのか?バットウの額に汗が光る。


バットウの後方で兵士の壁が吹き飛ばされた。そこに現れたのは大剣を振り回す大女だった。

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