330 ザロメニア城塞の攻防 19
数日の間、獣人軍は回復の為に陣を敷いて留まっていた。大平原を獣人軍のテントが一面に埋め尽くしている。
中央の一際大きなテントが王の為のテントである。中には玉座に座るオリンピアサドニスと周りに控える重臣達がいた。
「獣王様! 人間共に援軍が到着した模様で御座います」
側近の兵が首を垂れて報告しにやって来て言った。
オリンピアサドニスは遠くをグッと睨む。そして口の端をつり上げる。
「雑魚がどれだけ増えようと関係ない」
「さようで御座いますな」
ノートザンギが玉座に座るオリンピアサドニスに追従する。
「援軍が到着したとなればまた、攻めてくるやもしれぬ。注意を怠るなよ。あの空軍が現れたら、直ぐにわしが出るぞ! 今度は逃さぬ」
オリンピアサドニスは不敵な笑いを浮かべた。彼のムキムキの筋肉が早く戦いたいというかのようにピクピク動きながら熱気を放ちまるでカゲロウの様に彼の周りの空気が揺れ動いている。オリンピアサドニスはかなり戦いが好きな、言わば戦闘狂なのだ。明らかにキル達と戦いたくてウズウズしている。ただ王という立場上自分の好きに闘うことができないでいるのだった。
獣人の世界では強さが何よりも価値のある。それ故に強い者はより強いものと戦いたがるのだ。己の強さを証明する為に。最強のものが王になる為戦って買ったものが王となる。世襲などということは起こり得ない。つまり、時々王座を巡って正当な戦いが行われるのだ。その戦いはどちらかが死ぬまで勝負がつくことはない。つまりオリンピアサドニスも前獣王を殺して王になったのである。
稀に獣王が国を出ていく事によって決闘を避けて命を長らえる事もあるらしいが、そうなった元王は腰抜けの謗りを受け群れの者の目につくところには居られなくなる。それが分かっていながら戦わずに位を譲るのは闘う事イコール死である時だけだ。
それに戦争の中で経験値を積み上げるにしても星8になるまでには数十年かかるのが普通なのだ。なのでヘプタグラムズの誰かが次に王位を狙う者になり得るのだが、そもそも才能が星7の者は星8に進化はしない。したがって王はある程度安心してヘプタグラムズを使うことができるのである。
星8に進化して初めて星8の王に挑む土俵に立つ実力を得るのだ。だが進化したての星8がベテランの星8に勝てるはずは無い。したがって、王が星7の時は王位を巡る戦いは頻繁に起こるが、王が星8の時は、その治世は安定し他国を侵略する事が多くなるものだ。
事実オリンピアサドニスの獣王国は侵略に次ぐ侵略を重ねて来た。だがここに来てオリンピアサドニス獣王国は大きく躓いたのだ。それほどまでに大きな損害をキル達に被ったのだ。
オリンピアサドニスは必ずキル達をその手で倒そうと心に誓っていた。
「そろそろ敵も動き出しそうで御座いますな。此度の戦いは、申し訳ありませぬが、王のお手を煩わす事になりそうで、心苦しく思います」
ノートザンギは頭を大きく下げた。
「ならお前も早く強くなるんだな。強くなって、お前があいつらを倒せるようになるのだ。たくさんの討伐経験値を稼げば、それだけ強くなれる。奴らを殺してまくるれ! この戦いで、わしはまた強くなるぞ。ハハハハハ! わしの地位を盗めるのはマリクべナムかと思っておったが、奴が死ぬとはな。マリクべナムを倒した奴を倒せばかなりの討伐経験値が手に入るに違いない。お前も早くわしを脅かすくらいに強くなれ!」
オリンピアサドニスの余裕の発言だった。部下達との間に大きな力の差があっての発言だ。オクタグラムに進化した後も戦い続けて強くない続けて来たオリンピアサドニスとヘプタグラムズでは大きなステータスの差があった。それこそ瞬殺できるほどにだ。
圧倒的な強さを誇る王にノートザンギが緊張しながら言った。
「は! 王のお役に立てる様、この戦いで活躍して見せまする」
「フ! 楽しみだな。久々に面白い戦になりそうだ」
オリンピアサドニスは重臣達を見回した。
「ピートキャスト! お前にも獅子奮迅の戦いをしてもらわねばならぬ。敵の数が増えたようだからな」
「は! ケインドラグマとケントギルガメスの分まで、この俺が殺しまくってやりましょう」
ピートキャストが硬い表情でオリンピアサドニスを見返した。
グラムヒューイットの表情も硬い。新しい副官達も緊張感の中に強い殺意を漂わせている。
「もう兵達の傷も癒えて来ました。今度こそ奴らを皆殺しにしましょうぞ!」
グラムヒューイットの言葉に副官達も頷いた。
そこにまた報告の兵が入って来て側近の兵に耳打ちした。
側近の兵が王の前に来て跪き報告をつたえる。
「人間達がザロメニア城塞を出て、こちらに向かっております。その数は約十万です」
オリンピアサドニスがニヤリと笑いながら玉座から立ち上がった。
「全軍出陣だ! 奴らを迎え撃つぞ!」
「は!」
獣人軍が迎撃の為に動き出すのであった。
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