325 ザロメニア城塞の攻防 14

「ノートザンギよ」


行軍途中で獣王の幕舎を用意したノートザンギは獣王オリンピアサドニスにあっていた。王の前でかしこまり膝をついて頭を垂れている。


「ノートザンギよ! 今回の急な転進はどうしたのか?」


ノートザンギが緊張した面持ちで答える。


「はい。実は敵の空軍に此方の空軍が全滅をきっしまして、相手に対する攻撃手段がなく、一方的に空爆をされ続ける状況となりました。よって被害が甚大になる前に転進をした次第であります」


息苦しい沈黙がその場を包んだ。獣王の側仕えも硬い表情のまま動きを止めている。


「で、あるか」


獣王オリンピアサドニスが沈黙を破った。オリンピアサドニスは渋い表情でノートザンギを見すえる。


「ロマリア王国には勝てそうがないようだな」


「……」


黙り込むノートザンギ。


虎族最強の獣王オリンピアサドニス様自らが戦えばもしかそたらロマリア王国に勝つことができるかもしれないとは口にできないノートザンギだった。


「そうか、口にはできないが、勝つ方法があると思っているのだな?」


ノートザンギは、オリンピアサドニスに心を読まれたようで驚き、頭を上げて彼の顔をみた。


「ふふふ、良い。言わずとも分かったぞ。わし自らが戦えば勝てるかもしれないのだな。おもしろい。わしも自ら戦ってみたいと思っておったのよ。良かろう。それほどの強者がおるとは楽しみだ」


オリンピアサドニスが笑い出した。


「なりません。王自らが戦うなどと」


ノートザンギがオリンピアサドニスに苦言をていした。


「ふはははは、うるさいぞ、ノートザンギ! 貴様、わしに指図をするつもりか。わしも久々に戦いたいものだと思っておると、言ったであろう」


オリンピアサドニスはノートザンギを一喝すると立ち上がった。ノートザンギは口を閉ざし、首を垂れる。


「出るぞ!」


オリンピアサドニスが歩き始めノートザンギの横を通り過ぎていく。ノートザンギは硬直したまま、動くことができなかった。


オリンピアサドニスは幕舎を出ると東の空を睨んで地を蹴った。オリンピアサドニスの体が飛び上がる。そして続け様に空を蹴って東に飛んでいくのだった。そして腰から両手剣を抜き放ってニヤリと笑った。




空爆を続けていたキルは異常な気配の急接近を感じ取って西の空を睨んだ。来る。とんでもない何かが飛んでくる。


キルは危険だと感じた。


「皆んな攻撃を中止して撤退です! とんでもない奴が空を駆けてくる! 逃げてください」


キルの叫び声にサキとクリスが驚いてキルを見つめた。そしてすぐに異常な気配の接近に気づく。

二人は顔を見合わせ頷くと東に向かった飛び出した。


「皆んなここまでにして逃げるわよ! 星8が飛んでくる!」


サキが叫んでメンバーに撤退を促した。全員が攻撃をやめて東に向かって飛び始めた。


キルは殿の位置に着くと西に向かってマシンガン爆裂バレットを撃ちながら、東に飛び始めた。撤退戦の開始で有る。この魔法攻撃で敵を倒せるとは思っていない。ただ追撃速度を多少でも遅らせられればと思っているだけなのだ。


キルの放って無数の弾丸はオリンピアサドニスの飛行速度に多少の影響を与えたがたいした意味はなかった。彼はキルの放った弾丸を細かく避け避けられないものは両手の剣で斬って防いだ。斬られた弾丸が爆発する。だがその爆発でオリンピアサドニスがダメージを負うということはなかったのだ。


「ふはははは! やるではないか。もうわしに気づいて攻撃してきたか。そして撤退を始めたな。逃がさん!」


オリンピアサドニスが笑う。その笑いには久々に戦う事への喜びが感じられた。


キル達は高速で逃げ始めていた。誰もが悪魔と戦った時以来の恐怖を感じていた。冒険者は冒険はしない。自分達に損害が出る可能性は極力避けるものなのだ。だがこの追跡者は明らかに星7以上の強さを持っている。だから皆んなは全力で逃げ出した。一塊になって一人の犠牲者も出さないようにしながらだ。


「早いな! 皆んな全速力で飛ぶぞ!」


グラが全員に叱咤する。一塊になって飛行しているために、その速度は一番遅い者に合わせられている。キルだけならこの倍以上の速さで飛べるだろう。キルはその分魔法を放ちながら飛んでいた。


「やはりダメージを受けている様子はないな。これが例の星8というやつか」


キルの言葉にロムが答える。


「そうに間違いないじゃろう! もしかすると敵の親玉かもしれんな」


親玉という言葉にケーナがぴくりと反応した。そして弓矢を構えて見えない敵にアーツを発動する。


「サウザンドアロー」


ケーナは気配の感じる方向にエネルギーの矢をはなった。千本の矢がオリンピアサドニスに向けて放たれる。


そしてまた全力で逃げ出した。



オリンピアサドニスはキルの放った爆裂バレットの弾丸を弾きながら千本の矢による攻撃も躱していた。それは流石にオリンピアサドニスの飛行速度を大きく削る結果となった。


「ふはははは! やりおるわい。まあ良い。今日のところは見逃してやろう。これでは追いつけぬわ」


オリンピアサドニスは空中で立ち止まって追撃を諦めるのだった。


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