324 ザロメニア城塞の攻防 13
キルは再びフライを使って空を飛んだ。
上空で止まっている仲間達と合流する。
「流石はキル君ね! あの猛者達を一刀の元に切り伏せるとは、感心したわ。グラだってああはできないでしょう」
サキがキルの剣技を褒めた。引き合いに出されたグラが苦笑しながらそれを認める。
「ああ。多分俺には無理だね。凄いよ」
「いえ、それほどでもないですよ。グラさんにもできますって」
いや、相手があのレベルだとちょっと無理だな……と思うグラだった。
「さあ、残りを片付けてしまいましょう!」
サキはにこやかに笑う。さっきから爆烈魔法をぶっ放してストレスを発散しているのだろうか?
いやいや。そんな事はないだろう。サキさんは人族のために一生懸命戦ってくれているのだ。
キルは人族の為、ベルゲン王国の人達が戦禍に巻き込まれないように戦っているのだ。サキもそうに違いないと思う。
「キル君! お疲れなら私とクリスで爆烈魔法、落としとくね!」
にこやかに笑うサキさんがなんだか楽しそうに見える。気のせいかな?
「行くわよ。クリス」
「はい」
クリスもとても可愛らしく笑って答える。
二人が魔法攻撃を再開した。敵空軍は全滅させているのでリラックスして魔法が撃てるのかも。
「エクスプロミネン!」
キノコ雲が立ち昇り、爆音が響き渡り、地面が揺れる。
サキとクリスが魔法を放つた後には獣人軍のいたあたりに大穴があいて煙が立ち昇っている。
キルも二人に遅れぬように魔法を放つ。
「エクスプロミネン!」
第三軍のグラムヒューイット軍が爆発の中で逃げ回る。ケントギルガメスの残存兵は四人の精霊達に掃討されつつあった。もう進級精霊にダメージを負わせられる猛者がいないので、戦闘というより蹂躙と言った方が良いだろう。
「「エクスプロミネン!」」
サキとクリスが続けざまに爆烈魔法を撃ち続ける。キルも二人に続いて魔法を唱えた。
グラムヒューイット軍からキノコ雲が上がり続けた。
「クソ! 我が軍の空軍ではやはり太刀打ちができなかったか! 俺の遅れていた通りになってしまった。逃げろ! 全軍撤退! バラバラに四散して的にならないようにしながら逃げるのだ!」
グラムヒューイットは全軍に撤退の命令を下した。獣人達がバラバラに逃げ出していく。その方が爆発に巻き込まれる数が少なくて済むのだ。その逃げ足は全速力と言って良いものだった。グラムヒューイットがこうなった時のために逃げ方を伝えていたのだった。
前回に続いて今回も爆撃になす術がなく撤退せざるを得ないとはグラムヒューイットにとっては耐え難い屈辱だった。
「くそ! 奴らが地上に降りてさえいれば! この俺の力を見せてやるのに! くそ! クソ!」
屈辱を堪えながらグラムヒューイットは二度目の退却をするのだった。
「なんという事だ! 我が空軍が一撃も加えることができずに全滅したというのか? 奴らは十数名の飛行部隊だと聞いているぞ。そしてあの爆烈魔法の嵐か!もう魔力が尽きるのではないのか? 尽きないとすれば相当高ランクの実力者という事になる」
王の右腕と呼ばれるノートザンギが怒りを露わにした。
まだノートザンギの軍にまでは爆撃は及んでいないが、直前のグラムヒューイットの軍にまでは爆撃が及んでいる。そしてグラムヒューイットの軍が退却を始めたのが分かった。
「ウーム! 上空の敵に攻撃が届くものが数名しかいなくては、一方的に蹂躙されるだけだな。ここは進軍を止めて引き返す方が良さそうだ」
ノートザンギは悩んだ挙句に撤退を決断した。王に進言せねばならない。しかし誇り高き獣人軍が退却するなどという事を王が認めるだろうか?
「全軍反転して西に向かう。転身せよ。それから王に伝令を遅れ!ここから西に転進すると。これは戦略的転進である。決して撤退ではないぞ」
ノートザンギが大声で怒鳴った。苦虫を噛み潰したような顔をしている。ノートザンギが編成した空軍は目も当てられない悲惨な結果となっている。ノートザンギの失態と言われても仕方がない状況なのだ。
「なんて事だ! まさか200名もの空軍がたった十人そこそこの人族に負けるとは誰も思わないだろう」
そもそも、空軍200は獣人軍が出せる空軍の全軍である。全軍で戦って相手にならないのだからそもそもやりようがなかったではないか。そして空軍全てを失った今、敵空軍になす術がない。
ここは王にも納得してもらわなくてはなるまい。あるいは王自らがあの空軍と戦う以外は勝てる見込みがないのではないか?だが王が破れるようなことがあればそれは虎族の国は滅亡するということだ。
空で戦えるのは将軍達と俺と王しかいない。ノートザンギは頭を痛める。
「あの空軍さえいなければ! あいつらさえ!」
ノートザンギは軍を西に向け進軍させると王の元に馳せ参じながらブツブツと独り言を続けるのだった。
ノートザンギの獣人軍はバラバラに逃げてくる兵士を集めながら西に移動し続けた。
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