326 ザロメニア城塞の攻防 15

「どうやら逃げ切れたようね!」

サキが額の汗をぬぐう。


飛びながらマシンガン爆裂バレットを放ち続けるキルもオリンピアサドニスが追撃を諦めた事を感じ取っていた。そして攻撃をやめて大きなため息を吐く。


「諦めてくれたようで良かったですね。あんなのと戦わなければならないとは! まあ想定はしていましたが、本当に星8がいるとは信じていませんでしたよ」


「そうっすね! 自分らでは相手にならず、殺されてしまうっすでしょうね。助かったっす」


「無傷と言うわけにはいかないだろうね。キル君以外では通用しなさそうだ」

グラが暗に自分では通用しない事をみとめる。


「敵に星8がいそうだと言う事を、早く帰って報告し他方が良いわ!」


「そうじゃな」


「………」


「わたし、怖いから早く帰りたい」

モレノの言葉にルキアも頷く。


皆んな全速力で飛び続けていた。それは少しでも安全な所に早く行きたい、或いは仲間を安全な所にで守りたいと言う思いに根ざす行為でもあった。


皆んなを危険に巻き込んでしまったな……とキルは思った。今更だが、自分一人で来れば良かったと考え出す。


神級ならほとんど危険はないだろうと思っていたが、この戦場では、もう安全とは言い切れなくなってしまったのだ。


今までワンランク上の魔物を相手に戦うことは何度もあったが、ワンランク上の獣人は、それよりとても危険な者に思われた。十対一なら勝てるだろうが犠牲も出るかもしれないなと思う。


俺が倒すしかないだろうな。勝算はないわけではない。でも確実かと言えばそんな事はない。

キルはそんな事を考えながら飛び続けた。ザロメニア城塞が見えてくる。

キル達は城塞の中に離陸した。


四人の五竜大将軍とペロロバン侯爵とキョクア騎士団長がキル達を出迎えにやって来た。


「大戦果を上げたと聞いておりますぞ」

ペロロバンがニコニコしながら寄ってくる。


「凄い魔法のようですな! ここに居ても音とキノコ雲が分かりましたぞ」

ビッグベンがサキに握手を求める。


「私だけじゃないですよ。あの魔法を撃っていたのは」

サキは握手をせずにクリスとキルを視線で指し示した。そして困ったように顔を顰める。


「結局、逃げて帰って来たのよ。危なかったわ、」


サキのその言葉に六人が凍りつく。


「逃げてきたって!」

バットウが驚きの声を上げた。


「敵の空軍を全滅させたと報告が来ていたが、誤報だったのか?」

キングナバロが眉を顰めた。


「いや。敵の空軍は殲滅したよ。だがそれ以外に一人空を駆けてくる強者がいたのさ。その気配を感じただけで、僕たちは逃げ出して来た。それほど危ない奴だった」


「あれは、星8レベルじゃな。間違いない」


「グラさんとロムさんの話を疑うわけではないのですが、星8レベルというのは気のせいではないですか?最強でも星7のはず」


「いや。バットウよ。奴ら獣人族の最高ランクは人族と違って星8と言う説がある。過去に星8レベルと戦ったと言う記録もあるぞ。今まで信じていなかったがな」

キングナバロが胸で両腕を組んで考え込んだ。


「その話は俺も聞いたことがある」

リンメイも頷いた。


ビッグベンが場の雰囲気を変えるために話題をずらした。

「敵に強い奴がいるのは分かったが、今日の空軍の戦果を確認させてくれ。敵の三つの軍を蹴散らした様だがそれで良いのか?」


「そうじゃ」


ロムが肯定する。

サキが詳しく説明し出した。


「敵の三つの軍を爆撃によって、半分くらいには減らせたと思うわ。それとキル君が敵の指揮官級を三人殺したけど、多分星7一人に星6二人だと思う。そうよね、キル君?」


「はい。そのくらいの強さだったと思います」


ビッグベンが指折り数えながら眉をぴくりと動かす。


「これで一軍を指揮する敵の将軍二人と副官を七人、暗殺にやって来た将軍クラスを一人殺した訳だな。獣人軍に残った猛者は少なかろう」


「ビッグベンの言う通りだ。今日は無傷で大戦果をを上げて来たようだな」

キングナバロがグラを見る。


「多分敵兵二万は減らせたでしょう。それと、感じられた敵の猛者の残りは、推定星8一人、星7三人ですね。僕の感じた星6は一人以外全部打ち取れたようですが、キル君ならもっと遠くの敵まで把握できてるかな?」


「えーと、最後尾の軍に三万の獣人がいるという話ですが、そこまでは索敵範囲が及びませんでした。なのでそこにどれだけの猛者が居るかは不明ですね。多分星5が数人……五人くらい居そうな雰囲気でしたかね」


「獣人軍に一万の軍が始めは四つあって、その一つ一つを星7一人、星6二人が指揮していたようだな。そしてその四軍のうち二つは壊滅させ、二つは副官を削った。獣人の総数は十万から六万に減らせたと考えて良いな」


キングナバロが総括した。此方はあと数日すればロマリアから援軍の兵が到着するはずだ。そすれば獣人軍に此方から攻撃を仕掛けられるだろう。今は兵数的には互角、無理に動かず援軍と合流してから獣人を殲滅すれば良い。


ただ問題は敵の星8だ。星8をなんとかしなければ最終的に負ける可能性がある。


「問題は、敵の星8をどうするかだな。何か良い考えはないか?」

キングナバロが皆んなを見回した。

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