321 ザロメニア城塞の攻防 10

「獣王様、マリクべナムの帰りが遅すぎます。返り討ちにあったかもしれません」

暗殺に出かけた左腕のマリクべナムがいつもと違う事が気になり出した右腕のノートザンギが眉根を寄せる。


「奴がやられる程の者が人間にいるとは考えずらいがな」

虎族の王、獣王オリンピアサドニスが憮然とした表情で、はきすてる。


「しかしマリクべナムが、今まで翌日に帰らなかった事は有りませんでした。もう二日も経っているのに戻らないという事は、おそらく……」

ノートザンギは頭を下げて跪きながら言った。


「フ! おもしろい。人族にそこまで強い者がおるというのか? 軍の再編補充はできたのか?できたのなら出陣するぞ」


「はい。三軍に各一万の兵をふたたび預けました。その他は、マリクべナムが不在のため、このノートザンギが二万の兵を率います。獣王様は三万を連れてゆっくりとおいでください」


「しかしロマリア王国軍か! ケインドラグマの軍が全滅させられるとは、想像以上に手強いのだな。敵軍にそれほど強い者がいるということか」

オリンピアサドニスが胸で両腕を組んで考え込んだ。そしてすぐに口を開く。


「近衛軍の元に戦える兵をできるだけ配属しろ。どのくらいになる?」


「戦えぬものは一万のていどでしょう。全員に戦闘準備で臨むように伝えます。ですが、警戒しすぎではございませんか?」


「久しぶりに、わし自ら戦ってみたくなったのだ。それはどの強者が居ればの話だがな」

オリンピアサドニスがわらった。


「聞くところによると神級精霊を召喚する者、空を飛び魔法で攻撃してくる者がおるようです。ですが獣王様の手を煩わせる事は無いでしょう」


「うむ。ノートザンギ! 頼んだぞ」


「は!」


「飛行部隊を編成してできるだけ数を揃えて戦いに臨め!」


「は!」


獣人軍が再び移動を開始した。先頭はまたピートキャスト軍、続いてケントギルガメス軍、グラムヒューイット軍の順だ。その後ろにノートザンギ軍が二万、そしてオリンピアサドニスが二万の兵と非戦闘員一万を引き連れていた。




「今度こそ城塞都市ザロメニアを落としてやるぞ!」

ピートキャストは悔しそうに呟いた。いつものように先鋒を任されたピートキャストである。ただいつものような勝つ事に対する自信がない。陸上戦力だけなら互角以上に戦えると思うのだが、敵の空軍にはお手上げなのだ。


ノートザンギが空軍を急遽組織して各軍から200人の空中ジャンプ能力者を集めたと言っていたが、果たしてそれで敵空軍に対抗できるのだろうか?

グラムヒューイット軍の空中戦の敗北を見る限り、決して安心できるものでは無い。王もノートザンギもあの空中戦を見ていないのが気に掛かった。数で圧倒できるかが鍵だろうが?


ピートキャストは難しい顔をして副官のジョンソリッドに聞いた。

「お前、敵の空軍部隊を200のジャンプ兵で倒せると思うか?」


「敵はわずか十数人です。200で攻撃すれば余裕でしょう」

ジョンソリッドが笑いながら答えた。


ピートキャストはその答えを聞いても不安が消えなかった。ヘプタグラムの俺が陸上で戦えば二〇や三〇の特級兵士など瞬殺できるのだ。果たして奴等はどのくらいに強いのだろうか?

ピートキャストは空を睨みながら進んでいった。


ケントギルガメスも考え込みながら行軍していた。

「ケルヒアイスよ、お前あの精霊に勝てるか?」


「一対一でもなかなか厳しいものがありますね。フランクウットと二人がかりでなんとか互角かどうかというところでしょう」


「だろうな、俺だって一対一でいい勝負だ。あれが神級精霊という奴なんだな」


「そうですね。俺も初めて見たぜ。それを各種四体も召喚するなんて、ロマリア王国は、人材が豊富だな」

ファイウットは神級精霊を召喚できる者が四人いるのだと思っていた。

普通に考えれば一人一体というのが一般的な事であろう。一人が四体同時に召喚しているなどという考えは露ほども浮かばなかったのだ。それは他の獣人達にしても同じだった。


「そうだな。あれが出て来たら三人がかりで一匹ずつ倒していくしか無いだろうな。頼むぞお前達」


「はい。それしか無いでしょう。厳しい戦いになりそうですね」

「まったくだ」

ケルヒアイスもフランクウットも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


第三軍で進んでいるグラムヒューイットは二人の副官を失い尚且つ空中ジャンプのできた有能な部下を多数失っていた。もう軍を運営する事自体が難しいと言ってもいい状態だ。なにしろ部隊長級の部下が相当数死んでいる。第三軍の戦力は著しく落ちていたのだ。


似たような事は他のに軍についても言えた。空軍を組織するためにかなりの人数が引き抜かれていたからだ。空軍部隊を作った事で、思わぬ影響が出ていたのだった。


しかし空軍なしで戦うという選択肢はない。それは一方的に空爆され続ける事を意味するのだから。


三人の将軍達はそれぞれ不安を抱えつつザロメニア城塞への道を行軍するのだった。

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