320 ザロメニア城塞の攻防 9
倒した獣人の首と剣を持ってペロロバン侯爵邸に戻ったキルは、それらを将軍達に見せた。その首はヘプタグラムのものと分かる強者の面構えでありその剣はミスリルの片手剣、伝説級の逸品だった。
キングナバロは、その顔を覗き込み下顎を撫でながら唸り声を漏らす。
「うーむ。なかなかの面構えだな。ヘプタグラムの実力者か?」
「たった一人で敵の城内に乗り込もうとするとは、豪胆なのか、バカなのか? どちらにしても信じられない奴だったな」
ビッグベンもナバロと同じように下顎に手を当てて獣人の首を覗き込んだ。
剣王バットウはミスリルの片手剣を手にしてその刀身を光にかぜして唸りを上げた。
「うーん。名刀だな。魔力の透りが凄いぞ」
どうやら魔力を試しに流していたようだ。ミスリルの剣は魔力の流れ方に抵抗が少ない物ほど当然魔力を流し易い名剣のなのである。魔力が流れているほど強度も斬れ味も破壊力も高いからだ。
「残念だがこれはキル君のものということになるな。倒した奴の持ち物は、倒した者に所有権がある。俺が倒しに行けば良かったか」
バットウが口惜しそうに言った。
「多分お前じゃあ、返り討ちになってただろうな」
キングナバロが口の端を上げる。
「まあ、見えない、気配も感じられないでは、返り討ちにされていただろうな」
バットウがキングナバロの言を素直に認める。ナバロ以外の言葉だったらこう素直に認めたりしないかもしれない。と言うよりバットウにそんな事を言えるのは限られたものだけだろう。
実力を認めていないものがそんな言葉を口にすれば即座にその者の首は飛んでいるだろう。バットウはそう思わせるほど気の短そうな激しい性格をしていた。
「お気に召したら差し上げますよ。その剣」
キルがそう言うとバットウが笑った。
「いや。これほどの名刀、君から取り上げるつもりはないさ。俺の名誉に関わる」
バットウは、プライドも高かった。他人の手に入れた剣を奪うような真似は自尊心が許せないのだった。他人から施しを受けるなどもってのほかである。ましてやキルのように少年からなど言うまでもない。
「多分殺した人間から奪った物でしょうね」
キルは冷静に推測を述べた。獣人族にこれほどの剣を鍛える技術は無い。人族の持ち物を殺して奪ったのだ。おそらく元の持ち主はかなりの実力者だったに違いない。神級か王級か、最低でも聖級の戦闘職だったに違いない。
「そう言えば昼間に倒した将軍と副将達の武器防具も回収してあるだろう。あれらも考えてみればキル君のものになるはずだ。後で調べて渡す事にするからね」
ビッグベンが言った。
キルは軽く頷きながら感謝の言葉を口にした。おそらく武器一つでも一億から数千万はする業物に違いないのだ。雑兵達によって回収しているはずなので今に所在がわかるに違いない。そして俺に引き渡してくれると言う事らしい。ちょっとした恩賞だなとキルは思った。
「ちょっとしたボーナスっすね! キル先輩」
ケーナがキルに耳打ちして笑顔をむける。
「そうだな」
キルは苦笑しながらケーナをみた。今回は空から数千万本の矢を射て疲れているに違いない。笑顔の奥に少し疲れが見え隠れしているような気がしたずっと飛んできてその後いきなりの戦闘だったのだから無理もない。キルは将軍達の方に向き直ると言った。
「すみません。少し疲れたので我々は休みたいのですが」
グラがキルの後に続いて言った。
「部屋と食料がいただけるとありがたいのですが」
ペロロバン侯爵がキル達の方を見てからキョクアに命じた。
「キョクア、彼らに部屋と食事の用意を」
「はい。では皆様、此方にどうぞ」
キョクアはついてくるように手招きをして、会議室を出る。『15の光』は彼の後をついていった。
「まずは此方でお食事をお出しいたします。此方のテーブルに座ってお待ちください」
キル達は豪奢な部屋の大きな長テーブルを指さされてそのテーブル席に着いて食事が運ばれてくるのを待った。料理が運ばれてくるのにさほど時間はかからなかった。
戦時下ということもあり贅沢とは言えないが、それなりに美味しい満足のいく量の食事を出されて、キル達は十分な栄養補給と英気を養うことができた。
「戦時下でこの食事は少し贅沢かしらね? 良心が痛むわ」
そういうサキの笑顔には良心の呵責などこれっぽっちも感じられなかった。
「満足じゃな。大事にされているという事じゃろう」
ロムの言葉にグラも頷いている。
皆が食事を終える頃を見計らったように、キョクアがやって来た。
「それでは、お部屋にご案内いたします。お食事はお済みでしょうか?」
「はい。もう全員食べ終わりました」グラが代表してキョクアに答える。
「それでは私の後をついて来てください」
キョクアに案内されて寝室に案内されるのだった。
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