319 ザロメニア城塞の攻防 8
「良かったですね」
クリスがキルの耳持ちで囁いた。これでロマリア王国内でも犯罪者扱いはされないようだ。
「そうだね。思わぬところでご利益があったね。これで俺たちは晴れて何処でも犯罪者ではないわけだ」
キルも嬉しそうに微笑んだ。キルの笑顔に釣られるように少女達全員が笑顔を見せる。
今まではロマリア王国内で取り締まられるような事になれば、荒事になっても仕方ないと思っていたが、これでもう、そういう心配はなくなったわけだ。真面目に業務を遂行しようとする役人を痛めつけなければならない事態の心配が無くなって、心のつかえが取れて良かった。
「良かったわね。キル。これで活躍しなければならなくなったわね」
サキがニコニコしながらキルに発破をかける。
「そうですね。早速今晩あたり何かありそうですから活躍できそうですけれどね」
キルは、意味深に笑った。キルの索敵範囲は直径一kmもの範囲に及ぶ。キルは、その索敵範囲にヘプタグラムらしき強力な気配をみつけていたのだ。
明らかに近づいて来ているその気配からして、おそらく今晩あたり城塞内に忍び込んで来ようとしているに違いないのだ。隠密のスキルを使って隠れても今のキルの索敵能力を誤魔化し切ることはできないだろう。
並の神級能力者では。キルは神級に進化してからも、かなりの討伐経験値を稼いでいる。キルはユニークスキルで討伐経験値を十倍獲得できるのだ。そのためにもう討伐経験値によるステータスの加算が相当な数字になっていたのだった。
サキはキルの言葉に眉根を寄せる。
「どうかしたの?私に索敵能力だとなにも感じないのだけれど?」
「隠密スキルで気配を隠しているようですが、俺のステータスだとみつけられるようですね。多分ヘプタグラムですよ。ザロメニア城塞の周りをウロウロしています」
「どういうつもりかしら?」
「夜にでもなったら、秘密裏に城内に侵入するつもりでしょう。暗殺でもするつもりなんじゃないかな」
ヒソヒソと話すキルとサキの様子を見てビッグベンが聞いた。
「どうかしたのかな? キル君?」
「ええ、ちょっと怪しい奴がウロウロしている気配がありまして」
キルがこたえた。
「夜になったら城内に侵入してくるかもって、キルは思ってるみたい。暗殺者かもって」
サキが補足した。
サキの言葉に一同が騒然となった。
「なんだって! 俺には感じられないんだけどな」
ビッグベンが疑問を挟んだ。
「私にもわからないんですけれど、キル君の言うことの方がきっと正しいんだと思いますよ」
「そうじゃな。キル君の索敵が一番性能が良いからな」
サキとロムがビッグベンの疑問を打ち消した。
「多分こう言う状態なんですよ」
キルはそう言うと隠密スキルを起動した。キルの気配が消える。さらにステルスを発動すると姿も見えなくなった。
「消えた。気配もない」
ビッグベンが驚きの声を上げる。他の将軍達もおどろいている。誰一人キルを見つける事ができないようだ。
すぐにキルは姿を現していった。
「隠密スキルを使うとステータスに開きがない限り見破れられませんよ」
「なるほど。と言うことは敵は相当強い奴だと言うことか!」
バットウが焦り気味に怒鳴る。
「多分神級レベルなのでヘプタグラムということでしょうね」
「奴を見えるのはキル君だけなのか? なら対抗できるのはキル君だけだ。キル君に倒してもらわないと大変な事になりそうだな」
キングナバロがキルを見て頼むという表情をする。
「わかりました。俺も姿を消して奴を待ちますね」
キルはそう言うと再び霞むように消えていった。
「消えてしまった……」
ペロロバンが辺りをキョロキョロ見回すがキルの姿は見つからない。
「キルのことは置いておいて話を続けてください。きっとキルが侵入者を倒してくれますよ」
グラが将軍達を見回しながら言った。
「そうだな。でも皆んな、見えない敵に気をつけて話を続けるぞ」
キングナバロが言った。そして話続ける。キルは姿を隠して侵入者の方向に向かった。
建物から外に出て空を飛び気配の方に飛んでいった。
問題の獣人はすぐに見つける事ができた。奴のスキルはキルには見破られて意味がなくなっているにも関わらず本人にはその事に気づいていない。そして尚且つ奴はキルのことには気づいていないのだ。
キルは気配を悟られないように空から降り立ち剣を抜く。
獣人が城壁を目指して移動する分キルの方に近づいてきた。
キルはゆっくり後ろにに回り込みながら近づき剣を突き刺した。
グサ!
キルの剣が獣人の背中から腹に抜ける。獣人は何が起こったか理解できずに自分の腹から突き出た剣を見つめた。そして口から血を吐き出した。
「いつもなら、お前がこうやって暗殺していたのではないのか?」
キルがボソリと言った。
刺された獣人が震えながらキルの方に顔を向ける。
キルは剣を引き抜くと横に一閃する。獣人の首が飛んだ。
キルは獣人の首を拾うと獣人の身体も掴んで空を飛んだ。
侵入者の死体を持って報告に向かうのだった。
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