316 ザロメニア城塞の攻防 5
散り散りに逃げる獣人軍に対する追撃を諦めて、キル達はザロメニア城塞に引き返した。キングナバロ、バットウ、ビッグベンの軍も引き返し始めていた。
これ以上追いかければ、敵の本隊とぶつかることになりそうだからだ。
推測するに敵の本隊はまだ六万はありそうである。今逃げ延びた兵を合わせれば、おそらく半数が逃げ延びたとして合計八万はいそうだ。
それを倒すためには現在のロマリア軍では兵が損耗し過ぎているという判断を下したのだった。追撃をし過ぎて逆襲に遭い殲滅された例はたくさんある。引き際は大切なのだ。ザロメニア城塞に戻った兵士たちは城内の兵と合わせて六万程度であった。
キル達は引き返すロマリア軍のビッグベン軍に接触を図った。先ほどキルはビッグベンと話をしていたからだ。その時の感触で、ビッグベンならいきなり捕らえたりはしないと判断したのだ。
「先ほどは助けられたよ」
一人空から降りてきて近づくキルにビッグベンが話しかけた。
「いえいえ。大したことはしてませんよ。先ほどの提案、我々『15の光』と手を握る話はどうお思いですか?」
「私はぜひお願いしたいと考えているよ。他の将軍達にも君達を紹介して話を通しておきたいんだ。彼らも喜んで君達を受け入れてくれるはずだ」
ビッグベンが和かな表情で言った。
キルが空を舞う『15の光』に手を振ると全員が降りてくる。キルの後ろに全員が降り立ちグラが進み出る。
「お初にお目にかかる。我々は『15の光』、今はベルゲン王国ルビーノガルツで冒険者クランをしている。ザンブク王国滅亡を知り人族の危機を感じて応援にやって来た。共に獣人軍と戦って頂けると思って良いのかな?」
「勿論だ。俺はビッグベン。今やロマリア王国は獣人軍の攻撃目標だ。あなた達がいなくてもこうして奴らとは戦う定めにある。あなた方の参戦は心強い。我らと協力して戦って欲しい」
ビッグベンがグラに握手を求める。グラもビッグベンの手をとった。
緊張していたクリスやケーナ達に安堵の微笑みが浮かんだ。
ビッグベンは、空から攻撃をおこなって戦局をひっくり返した『15の光』の活躍を高く評価していたが、それをおこなったメンバーのほとんどが可愛い少女達であることに目を見張った。
「これは驚いた。まさかこんな可愛いお嬢さん方が空から攻撃していたとは思話なかったよ」
ビッグベンはそう言ってからキルを見て続ける。
「キル君だったな。あなたの剣捌き、スピード、アーツには驚いたよ。過去の事件は棚上げにして気にせず我々に協力して欲しい。あれはそもそもヤオカ流に非のある事。俺が、罪に問われないよう取り計うよ」
キルはビッグベンの言葉を聞いてグラに視線を向けた。グラはキルの視線を受けて頷いた。キルはまたビッグベンに視線を向ける。
「よろしくお願いします。ビッグベンさん」
「あら! ビッグベンさんって、あの五竜大将軍の?」
「当たり前だろう、サキ。一軍の指揮官だぞ。五竜大将軍が戦場に向かった話は聞いて知っていただろう。他の指揮官も五竜大将軍だぞ。きっと」
グラがサキに呆れたように言った。サキが不満そうな顔をする。
「知っていてくれたとは、光栄だな。だが今は五竜大将軍も四人になってしまったよ」
キル達はビッグベンのその言葉に沈黙した。
「いやなに、これは戦争なんだから、誰が死んでも不過ぎじゃないだろう。君たちが来てくれなかったら俺だって死んでいたかも知れなかったしな。ははは!」
ビッグベンは笑って暗い雰囲気を打ち消した。
「ザロメニアに着いたら他の将軍達にも紹介するよ。その時一人ずつ自己紹介してくれるかな?」
少女達も頷いた。ビッグベン軍と一緒に行軍しキル達もザロメニア城塞についた。
キル達は本陣になっているペロロバン侯爵邸に招かれて、五竜大将軍やペロロバン侯爵やキョクア騎士団長との謁見が行われる。
「彼らは『15の光』、昼間我々を助けてくれたベルゲン王国ルビーノガルツの冒険者達だ」
ビッグベンが紹介を始めた。
「右から剣士グラ、盾使いロム、剣士ホド、魔術師サキ、魔術師クリス、弓使いケーナ、剣士エリスとユリア、聖職師マリカ、拳闘士ユミカ、盾使いモレノ、槍使いルキア、スクロール職人キルの13人だ。彼らは全員神級だそうだ」
ビッグベンの紹介を受けて全員が頭を下げた。
全員神級という言葉に将軍達がざわめく。
「次にまず、俺は、ビッグベン、右からキングナバロ、バットウ、リンメイ、ペロロバン、キョクアだ。よろしくな。じゃあ一人ずつ自己紹介してもらおうか」
ビッグベンがグラに視線を向けた。
グラは、ビッグベンの意を察して自己紹介を始めるのだった。そして自己紹介は順番に続いていった。
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