317 ザロメニア城塞の攻防 6

「それにしてもルビーノガルツの冒険者はレベルが高いのですね。ベルゲン王国の冒険者は他の都市のギルドの者もあなた達のように強いのですか?」


ペロロバン侯爵が尋ねた。当然の疑問かも知れない。ロマリア王国でも、ザンブク王国でも神級の戦闘職の人間は本当に数人しかいない。それがルビーノガルツの一クランに13人もの神級職冒険者がいるなどと、二国の状況とかけ離れている。


グラが言い辛そうな顔をしてその問に答える。

「我々を除けば、聖級、王級、神級の戦闘職の数は、各国と変わりはないと思いますよ。勿論他の都市の冒険者ギルドにはほとんど神級の冒険者は居ないという事です。我々が余分に多いと考えてもらっていいと思います」


五竜大将軍達が何故かホッとしたように息をつく。つい最近ベルゲン王国とロマリア王国は戦争状態にあったのだ。その戦争でやはりベルゲン王国軍(緑山泊軍)に空爆をされた経験をビッグベンは持っていた。あれはこいつらだったに違いないと密かに思っているビッグベンである。そしてもうベルゲン王国には攻め込むべきではないとも思っていた。こいつらの他にもこのくらい強い者がゴロゴロしていたら大変だと思ったが、それはなさそうなので安堵の息が漏れたのだった。だが考え直してみれば、ベルゲン王国がロマリアを占領しようとすれば、こいつらが攻めてくるのである。額に冷や汗が流れる。


ビッグベンがグラに聞いた。

「グラさん達『15の光』は、ベルゲン王国軍とはどのようなご関係で?」


グラが緊張した顔で答える。

「良好な関係だろうと思います。先代の王とは戦ったことのある間柄ですが、今の王とは上手くやっています。ただ今回援軍に来たことはベルゲン王国とはまるで無関係な自分たちだけの考えの行動です。ですので、ベルゲン王国とのことは意識しないでもらえると嬉しいですね」


「なるほど、ベルゲン王国軍とは関係ないのだな。ではこれがベルゲン王国に借りをつくったとは考えなくとも良いということか?」

キングナバロがグラを見つめる。


「そうですね。ベルゲン王国王家に関係はありませんからね」


「では改めて今回の事感謝を言っておこう。ありがとう。助かった」


「俺も聞きたいことがあるのだが、東門を攻撃していた獣人軍を追い払った精霊達も君達のやってくれたことなのか?」

弓聖リンメイが身を乗り出す。


グラがキルに答えるように目配せをする。

「あれは俺が呼び出した精霊達です」


答えたキルにリンメイとペロロバン、キョクアの視線が集まった。

キングナバロ、バットウ、ビッグベンには何のことかわからなかったようで、不審な顔をしている。


「ありがとうございました。それにしてもあの精霊達は凄いですね。何級精霊ですか?」

リンメイが続ける。


「神級精霊です」

キルは言葉短く答えた。


神級精霊という言葉に七人は驚いて互いの顔を見合わせた。

「神級精霊ですか?四体とも?」

「確かにあの強さ、大きさは神級精霊と言われても否定はできないですが?」

ペロロバンとキョクアが言った。彼らは神級精霊など見たことがないので本当か嘘かを判断できないのだが、言われてみればそのくらい強そうに見えたのは間違いなかった。それは五竜大将軍達もおなじことであった。


「キル君は召喚師だったのですか?先ほどはスクロール職人と言っていたように記憶しておりますが?」

「波の召喚師では神級の精霊など呼び出せませんよ。それも四体も!」

「精霊を呼び出すスクロールがあるのですか?」

「剣の腕も神級の剣士かと思いましたぞ!」

将軍達が口々にキルのことを聞いて来た。


「スクロール職人です。それに神級の召喚師でもあります」

キルは小さな声で答える。


「素晴らしい。神級の召喚師とは凄まじい戦力ですな。神級精霊四体の戦いはすごいものでしたぞ」

「精霊に戦って貰えば我々が戦う必要が無い程でした」

ペロロバンとキョクアが興奮気味に話し出す。


「並の兵士では攻撃が通用しないですし、それぞれの系統の魔法攻撃の嵐ですからね。神級の魔術師が四人いてなおかつその魔術師が身の丈5mの巨人というイメージでしたね」


「あんなのが現れたらもう逃げるしか無いという有様で、獣人達も右往左往していましたよ」


リンメイが頷く。

「さよう。火には水のように弱点の系統は分かるのでしょうが、獣人達は魔法は不得意のようですしね。物理攻撃で有効なダメージを与えられるのは高位の能力者だけでしょう」


剣王バットウが口を開いた。

「精霊に戦って貰えば人間が戦わずとも勝てそうですね」


「いや、獣人軍の指揮官は神級レベルだったようだぞ」

騎神キングナバロは精霊だけでは勝てないと考えているようだ。ロマリア軍中で最も苛烈な戦いをしていたキングナバロだ。獣人の強さを一番身近に感じていたのは彼に間違いない。


「そうだな。各軍の将軍とその副官は、神級か王級レベルの力の持ち主のようだったな」

副官ネビルドリアと直接戦ったビッグベンも獣人軍の強さを舐めてはいない。


「確かに私クラスの獣人は東で戦っていた軍に中にも数名いましたよ。おそらく聖級職以上の実力を持つものは六〜七名いたように見えたな」

リンメイも慎重に獣人軍の戦力を分析した。


話はキル達のことから獣人軍の事に代わっている。キルはこれ幸いと身を隠すように小さくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る